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ナスカー整備工場のレーザマーキング

デイビッド・A・ベルフォルテ

ジョー・ギブス・レーシング社は500以上のレーシングカー部品のレーザマーキングと符号化を利用して、部品の識別と追跡、部品故障の分析、競合情報の暗号化などを行っている。

ジョー・ギブス・レーシング(Joe Gibbs Racing; JGR )社は1992 年のナスカー(全米自動車競走協会; NASCAR)レースに初めて登場し、1993年のデイトナ500で最初の勝利を収め、このシーズン最高のカーレースであったと称賛された。当初の数年間、JGRは1台のレーシングカーだけでいくつかの成功を収めたが、将来のナスカーでは複数のレーシングカーで構成するレーシングチームが必要になると判断した。そこで1999年に、彼らは新人レーサーのトニー・スチュアートの運転で有名になったN.20ホームデポカーを登場させた。スチュアートは瞬く間に3回のレースで勝利を収めてJGRを有名にし、最初のシーズンを新人王で飾った。2000年になると、スチュアートとボビー・ラボンテが率いるJGRは、34回のレースのうち10回もの勝利を収め、ナスカーカップシリーズのチャンピオンになった。2005年になると、JGRは第3のレーシングチームを投入し、ナスカーカップシリーズの3度目のチャンピオンになった。今日のJGRはナスカーカップシリーズレースのトップチームの一つとして評価されている。
 ノースカロライナ州ハンタースヴィルに本社があるJGRは、450名の従業員が所属し、その近代的な建物には18台の韓国のドーサン社製インフラコアCNCマシンを初めとして、三菱レーザ切断機、ウォータジェット切断機、EDMワイヤマシン、EDMシンカー、EDMホールポッパー、Stra tasys 400 FDMなどが収容され、全ての機械が連日2 シフトで稼動して、レーシングカーの安定した配備に必要なすべての加工を行っている。約37 名の技術者がアイデアを現実のものに変え、加工される部品に必要となるすべての要求に対応している。また、これらのマシンは、所定のカーレースのスケジュールに合せて必要となるすべての交換部品の準備ばかりでなく、磨耗部品の交換のために必要となる加工も行っている。
 JGR は設計技術者の独自のアイデアを競合他社から守るために、すべての機械加工を社内で実施している。社外で加工すると、外部の多数の関係者との接触が必要になり、アイデアの機密性が失われる。また、JGRのメンバーは、カーレースの場で必要となる部品の高い品質の維持は、最高の装置を最高の人材で扱うことで可能になると確信している。
さらに、この自動車整備工場は、部品の納入を外部の契約工場の都合に合せて何週間も待つのではなく、必要となる部品を必要なときに社内から供給している。このことは、R&Dを重視して最先端の技術を開発し、改良した部品をできるだけ早く競技場に持ち込みたいJGR にはとくに重要になっている。
 技術サポートおよびマーケティングの担当ディレクタであるマーク・ブリングル氏は、本誌に対して、JGRには製造の認定を受けた部品が900 もあると語っている。2000年のJGRはわずか8名の技術者が約70の要素部品のR&Dを行っていたが、昨年になると、その数は3600に増加した。このような、現状に満足しない継続的なR&Dによって、彼らのレーシングカーはより速く、より軽く、そしてより強くなった。ブリングル氏は、すべてのスポーツのなかで、JGRは最も精緻な製造企業体だと確信している。彼らはこのことをスポンサープログラムを通じて可能にしてきたが、このプログラムではマシンメーカーがJGRの工場をショールーム会場として使用し、他の顧客に対して、彼らのマシンの性能をナスカーレースのなかで実証することができる。
 JGR が加工する部品には、追加の変更箇所がわずかであって、肉眼ではほとんど識別できない場合がある。部品が組立てられると、このような追加の変更は非常に小さなものになる。競技場を走行するレースカーは、クルーによる部品の交換をすばやく行う必要があるため、部品の計測に時間をかけることはできない。そこでJGRは、すべての部品をマーキングし、マークの数字を読取るだけで、部品を容易かつ迅速に識別できるようにした。最初はかなり旧式の方法、つまりカラー符号をインクペンでマーキングすることを試みたが、この方法はうまく機能しなかった。レーザが効果的な解決策になるという可能性は製造業での経験をもつブリングル氏によって提案された。
 そこで彼は、IMTS(国際製造技術展示会)に出席し、装置メーカーを探して候補メーカーの事業方針を聴取した。
JGRのブランドは財産であり、誰と仕事をするかということには神経をつかう。彼は可能性のあるメーカーの装置を調べ、そのメーカーの理念がJGR の理念と整合するかを確かめた。ブリングル氏によると、JGRの工場を装置メーカーのショールームにするスポンサープログラムのアイデアは、装置メーカーから基本的に評価された。このような予備調査の結果、JGR はテレシス・テクノロジーズ社(Telesis Technologies)をシステムプロバイダとして選定した。
 テレシス社の装置はJGR の必要性にもとづいて、500 以上のさまざまなカーレース部品に対して、部品の識別や追跡、部品故障の分析、競合情報の暗号化、最適互換性への部品の整合、スポンサーのグラフィクスやロゴによる部品の装飾などのレーザマーキングや符号化を行う。ナスカーで使われるさまざまな材料の柔軟な取扱いを可能にするために、テレシス社は設置面積が小さく、110Vの交流で動作する空冷のFQ20 FIBER レーザの採用を提案した。この装置は今日の工場セル環境において重要となる傾斜成形に適合した移動式ワークステーションとして使用できる。
 選定されたCDRH クラス1アルミニウムワークステーションは、60インチの幅と48インチの深さをもち、長いダッシュパネルと車軸を加工できる作業空間が得られる。また、49 インチのドアが部品の装着を容易にする。このシステムの内部には5インチのジョー回転装置付きのプログラマブルZ ルーツがあり、X リニアプログラマブル350mmスライド組立部品に搭載されている。
 そこでは3 分割したパターンを用いてダッシュパネルをマーキングする旧式の方法は使われていない。その代わりに、ダッシュパネルを線形ステージに配置し、一つのプログラムとテレシス社のMerlin LSソフトウエアを使用して、12 インチのパネルの加工を1 回の設定動作で完了させる。
 高速のサイクル時間、深いエングレービング(彫刻)、光沢の強いステンレス鋼やチタン部品のアニーリングなどが必要となる加工では、ファイバレーザがフルパワーで動作する。ファイバレーザは、ガラス繊維強化ナイロンなど各種の軽量複合材料をマーキングする際にはパワーを落とすことができる。ジョー・ギブスのチームは、完全プログラマブル動作、大きな作業領域、直観的に使えるソフトウエアなどの特徴をもつレーザマーカを使用して、競技場のレーシングカーの走行と同様に、彼らのファンとスポンサーにとって一貫性のあるレーザ加工を行っている。
 JGR はJob Boss ソフトウエアを使用して工場を稼動させている。このソフトウエアではすべての加工工程を所定の部品番号で呼び出す工程表を作成できる。複合工作機械から離れた部品はレーザマーカに送られ、そこでは専任のオペレータが部品にとって必要な識別番号をダウンロードし、その情報が部品にマーキングされる。マーキングされた部品は、工程表の指示で次の工程に進む。なぜ専任のオペレータが必要になるのだろうか? それは18台のドーサン社製インフラコアCNCマシン、三菱のレーザ、ウォータジェットマシン、EDMマシンなどが連日20時間の部品加工を行い、大量の部品のマーキングが必要になるためだ。
 JGRでは、今回選定したレーザマーカに非常に満足している。JGRとそのスポンサーがこの会場で開催したレセプションで来場者に配布する記念品もレーザマーキングされたほどだ。
 JGR はテレシス社のシステムを使用して、自動車の計器パネルも多様なデザインでマーキングしている。また、競技場の整備ガレージで使用するすべての工具もマーキングして、他社の工具との識別を容易にしている。それぞれのシャーシも番号をマーキングし、ナスカーでの競技前の検査を可能にして、許可のない変更を防止している。
 JGR がレーザマーカを使用して2 年になるが、保守作業は実質的に不要であった。レーザマーキングはナスカーサーキットでの成功を継続させるためには欠かせない要素となり、同社はレーザマーカの選択に関して非常に満足している。

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