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レーザによるサボテンのとげ落し

L・ポンセ、M・アロンテ、E・デポサダ、T・フロレス、B・ランバート、J・カブレラ

レーザによるサボテンのとげ落しは傷の発生がなく、他の食品の表面加工にも利用されている。

近年のレーザによる材料加工では、エキサイティングな応用が開発され、切断、マーキング、溶接、洗浄など含さまざまな加工が実用化され、すでに多くの事例が紹介されている。ただ、食品産業では、食品のマーキング、ジャガイモの切断、チーズの切断、ピーナツの洗浄へのレーザの応用は報告されているものの、その利用は限られている。しかし最近になって、急務な課題として取り上げられていたオパンクチア(Opunctia)サボテンのとげ落しを解決できるレーザの応用が開発された。
 メキシコでは主要な食品として消費されているオパンクチアサボテンは、はるか昔から愛好され、豊富な栄養、刺激的な味覚、薬としての効果などもあってメキシコの各地で生産され、販売されている。このサボテンの灰緑色で卵型の平坦な葉状枝(図1)は小室組織で覆われ、そこには小さなとげで囲まれた長さ3cmのとげが生えている。メキシコではプリッキーピアと呼ばれる赤色で甘い西洋ナシも栽培されているが、この果物もとげで覆われている。
 これらの食物を消費するには、刃物を使って葉状枝の表面のとげを人の手や機械で切り落とす加工が必要になる。この加工は食物を傷付け、最大で30%の不良品を発生させる。こうした方法でとげ落しされた製品の賞味期限は短縮され、その保管や販売の障害になっている。
 メキシコのチカタIPN 社( CICATAIPN)はキューバのハバナ大学と共同して、オパンクチアサボテンのとげをレーザアブレーションで除去するレーザ技術を開発した。このアプローチはとげ落し加工による製品の損傷が起きないため、不良品の回避と賞味期限の延長が可能になる。

レーザ加工の方法

 図2 はとげ落しのレーザ加工法を図解している。一列に並べたサボテンはコンベア上を移動し、レーザ走査領域に入る。図に示すように、2台のNd:YAGレーザからのビームがサボテンの両側を走査する。レーザビームは移動ミラーで反射してサボテンの表面に向い、光路と垂直方向の製品表面のライン走査が行われる。
 自動とげ落しを実現するには、とげの存在と除去の両方を実時間で検出する方法が重要になる。このことを可能にするために、加工装置の動作モードはあらかじめ設定された低エネルギーパルス(約300mJ )の追跡モードから始まる。この追跡モードはレーザパルスがとげに当たるまで維持され、とげに当たると、ビームは強く吸収されて、光音響信号が発生する。音響信号が発生すると、音響検出器からはとげの完全除去に必要な強度にまで「レーザエネルギーを増加せよ」との信号がレーザ装置に送られる。
 次に、高エネルギーパルス(約1J )が発生し、とげが消失するまで持続して、とげが消失すると音響信号の強度が低下する。信号の強度が低下すると、検出器からレーザシステムへは「追跡モードに復帰せよ」との信号が送られる。この全てのプロセスはサボテンがコンベアベルト上を連続して移動する間に実行される。
 図3 はとげに照射されるパルス数と音響信号強度との関係を示している。初期のパルスは音響信号強度が最大になるまで急速に増加し、その後は低下して、とげが完全に除去されると一定になる。最初の二つのパルスではとげの基部が焦げて暗色になる。この段階のとげは強いアブレーションが起きていないので、音響信号はかなり弱い。とげが焦げて暗色になると、とげの小室は光の吸収が増加して、強い音響信号が発生する。その後は光吸収性の物質の減少とともに、音響信号の強度も減少する。このプロセスは吸収が完全に消えるまで継続し、最後は音響信号とプラズマの両方が消失する。

レーザ加工の利点

 図4 はとげ落しの典型的な順序を示している。レーザパルスの照射領域には1本またはそれ以上のとげがあり(図4(a)では3 本)、とげの厚い網に囲まれている(大きいとげは小さいとげの群れに囲まれている)。図4(b)は、1本の大きなとげにだけ三つのパルスが照射され、依然としてとげが残っている状態を示している。最後は図4(c)に示すように、6本のパルスが照射された領域は、すべてのとげおよびそれらの残留物がなくなり、完全にきれいなクレータ状の閉じた領域だけが残る。
 1枚のサボテン葉状枝の40〜80本のとげのそれぞれに対して、上述したプロセスが繰返される。したがって、1本のとげに照射されるパルス数は10以下だとしても、1枚の葉状枝のとげ落しには平均で600 のパルスが必要になる。その結果、パルスエネルギーが1J、繰返し速度が100Hzのレーザ装置を用いると、6 秒毎に葉状枝のとげ落としができることになる。
 要約すると、レーザを用いるとげ落しは、食品産業の分野に大きな可能性をもつ加工法であると言える。現時点での加工速度は数十kg/hだが、これは約100W の平均出力をもつレーザ装置のコストと十分に見合っている。光音響検出器はとげのアブレーションを実時間で監視できるため、加工プロセスの自動化と品質が保証される。著者らが特許を取得した新しいアプローチは間違いなく他の食物の表面加工にも使われるであろう。その証拠として、このアプローチはプリッキーピアのとげ落しにも応用され、オパンクチアサボテンと同様の結果が得られている。

図1 オパンクチア・フィカスインジカ

図2 レーザとげ落しの工程図

図3 音響信号強度とパルス数との関係

図4 とげ落しの過程を示している。( a )はレーザパルス照射前、 ( b )は3 パルス照射後、( c )は6 パルス照射後のとげが完全に除去された状態。

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