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レーザ溶接に合せた車体設計

ジョニー・ラルソン

XC60の車体構造は安全性が重要となる部位に約10mのレーザ溶接が施されている。

 2008年の秋、ベルギーにあるボルボ( Volvo)工場の社員は、同社の新しいCUV(クロスオーバー・ユティリティ・ビークル)として設計されたXC60の第1号車が生産ラインを離れることを祝っていた。XC60 は安全性のための多数の技術革新が実現され、その「シティセーフティ(CitySafety)」と名づけられた機能設計の概念はさまざまな点で注目されている。(図1)この自動車は前方に自動車などの障害物があると、センサとカメラの先進システムが動作して、運転者の操作がまったくなくても、時速9m以下の速度になって停車する。時速18m以下の速度であれば、運転者がまったく操作しなくても速度は大幅に落ちて、この種の低速衝突の影響は緩和される。ボルボはすべてのXC60にシティセーフティ機能を標準装備して、高密度の都市交通における事故率の減少を目指している。このことは道路利用者の利点になるばかりでなく、XC60所有者の自動車保険でもメリットになる。
 特筆すべき安全面の特徴としては、他にも回転安定性制御(RSC)、動的安定性静止摩擦制御(DSTC)、転倒防止システム(ROPS)、むち打ち防止システム(WHIPS)、車線離脱警告(LDW)、ブラインドスポット情報システム(BLIS)、運転者警告制御(DAC)などが挙げられる。これらの装置はいずれも衝突を防止できないが、XC60の所有者は、1500MPaレベルの抗張力をもつ最新世代の先進高強度鋼(AHSS)とそのレーザ溶接により組立てられた車体の総合的な安全構造に守られて、運転を行うことになる。XC60の車体構造は、すべての場所ではないが、A ピラー、B ピラー、フロアシル(床の敷居)強化材などの安全性の重要となる部位に全長で約10mのレーザ溶接が施されている。

設計上の配慮

 ボルボの経営陣はさまざまな顧客を対象としたスポーツ・ユーティリティ・ビークル(SUV)を開発している。これはSUV の次世代モデルの製品分野において独自性のあるニッチ市場を見つけたいと考えている同社の意図を反映したものだ。その結果、このSUVはより小型でコンパクトな設計となり、重要となる環境への配慮も、材料の選択、車内の雰囲気、燃費などの形で実現され、同時にボルボの安全性のイメージが新しい多くの特徴によって強化されている。
 初期のプロジェクトの概念設計と予備検討の段階において、レーザ技術の利用を拡大することが検討された。これは現実のものになったが、そこでは新しい技術の試行と採用に熱心なボルボの若くて新しい世代の技術者から構成された車体エンジニアリング部のチームが貢献している。彼らはベルギーのゲント工場のレーザ専門家と協力し、レーザ加工ならではの独自性をもつ品質の利点を生かして、最初の車体設計を行った。レーザ溶接の車体への応用は、初期の段階では伝統的なスポット溶接からの置き換えが主であり、そこでは接合の幾何学形状の微調整だけに使われていた。それに対して、ボルボXC60の車体では約10m の長さにわたってレーザ溶接が行われている。表1はレーザ溶接が行われた17 カ所の個別の部位を示している。

革新的なレーザによる解決策

 フロントガラスやA ピラーには相互に矛盾する要求があるため、その設計は難しい仕事になる。A ピラーは転倒事故が起きても安全なかご部材として機能する十分な強度と剛性が要求される。一方で、Aピラーはできるだけ細くして、安全運転に重要となる運転者の可視性を増強しなければならない。この場合の解決策として、約1500MPaの極端に高い強度をもつ高温型押しホウ素入り合金鋼鈑がAピラー上部の部材(1.1mm 厚)と強化材(1.7mm 厚)として採用され、これらの鋼鈑は車体の両側において、長さ680mmのレーザ溶接を用いて一体化されている。
 このような超高強度鋼板(UHSS)材料を使用することで、Aピラーの断面はより大型のXC90 モデルの場合に比べて30mm の縮小が可能となり、結果的に40%の軽量化が達成された。このようなAピラー断面の縮小によって、Aピラー周りのフロントガラスの運転視野が拡大された。この特徴をさらに増強するために、フロントガラスが接着されるフランジの傾斜はより厳しくなり、その結果、このような狭い場所への溶接ガンの持ち込みは困難となり、従来のスポット溶接は不可能になった(図2)。そのために、レーザ溶接の適用が唯一の解決策になった。
 今日ではキログラム単位の軽量化が顧客および社会、相方の利点になるが、その実例はXC60モデルのフロアシル強化材で示されている(図3)。このシル強化材は1.3mm厚のホウ素入り鋼鈑が使用されている。2.0mm厚の二層(DP)600鋼鈑をシル強化材にしたXC90モデルに比べると0.7mmも薄くなったことになる。
 一般に、車体側面の表面パネルはシル強化材の下側フランジよりも低い場所にまで広がり、広がった部分とシル断面の内側の部分は通常のスポット溶接で接合されている。XC60 の場合は平坦表面のシル強化材に合わせて、外側の表面パネルが5cm 高くなる場所で切断する解決策が採用された。この方式は一体化された側面を形成するために、それぞれの側面では二つのレーザ溶接部(長さ531mm と220mm)からなるレーザ充填溶接による接合が必要になる。このようなシル設計によって、全体では約8kgの軽量化が可能となり、そのうちの1.5kg は車体側面の縮小によって実現された。
 B ピラーの場合は1.4mm 厚のホウ素入り鋼鈑の強化材と1.0mm厚の復リン化鋼鈑からなる内部材とがスポット溶接され、220MPa レベルの強度が保証されている。側面衝撃試験の負荷条件は厳しいので、スポット溶接の周りには応力集中が生じる場合があり、溶接部と溶接部に近い鋼鈑材料には亀裂が入ることがある。この影響を防止するために、Bピラーの中央部のスポット溶接が590mm(フロントフランジ)と500mm(リアフランジ)の連続レーザ溶接で置き換えられた。これらの接合は実際には3枚の積層鋼鈑が車体表面パネルとして同時に溶接される。このことは、車体の内側、外側およびB ピラー強化材の相互のレーザ溶接は隅肉溶接で行われるが、Bピラー強化材とBピラー内側とは重ね溶接になることを意味している。(図4)
 従来は、上述した応用とは別に、車体のルーフと側面も非常に狭い溝状の軌跡でレーザ溶接されている。これらの溶接部はPVC封止材で被覆されて塗装が施される。また、ルーフパネルの上面および裏面も横方向の構造材と溶接されている。さらに、後部ドアの開口部の2 〜 3 ケ所も短い長さでレーザ溶接されているが、これらの溶接はねじれ剛性の改善に役立っている(図5)。

レーザと溶接工具

 ゲント工場のGA3 車体組立ラインは、連続する2 式のレーザ溶接ステーションを稼動して、大量のレーザ溶接を行っている。第1のステーションは2005年に初代のS60 およびC30 モデルのレーザ溶接用として大幅に改良されたが、このラインでも使われている。このステーションはレーザビームを光ファイバで伝送する2 台の4kW ランプ励起Nd:YAG ロッドレーザと、スウェーデンのパーマノヴァ・レーザシステム社(Permanova Laser Systems)の継目トラッキングおよび圧力ローラー工具を組合わせた2 台の関節アームロボットを装備している。
 第2 のステーションはXC60 の車体の大量に増加したレーザ溶接を目的にして新規に設置された(図6)。このステーションは1台の半導体励起Nd:YAGロッドレーザと1台の半導体励起Yb:YAGディスクレーザから構成され、いずれも4kW のレーザ出力パワーが得られる。このステーションの2 台の関節アームロボットも光ファイバによるレーザビームの伝送が行われている。両方のステーションにある合計4台のロボットは、いずれも7軸加工に必要なトラッキング運動が可能であり、将来の車体において必要となる新しいレーザ加工の用途に対する柔軟性も備えている。このような配置により、何らかの故障がレーザに生じても、100%のバックアップと冗長性が確保され、GA3の67秒のライン速度が維持されている。

まとめと将来展望

 車体組立ラインへのレーザ技術の導入は、ボルボと他の自動車メーカーとの間には大きな違いがある。ドイツの競合メーカーの多くは、生産性の改善や床面積の減少を主要な目的にして、車体組立におけるレーザ溶接導入の拡大を進めている。一方、ボルボにおけるレーザ溶接の増加は、その他の溶接法では組立ラインにボトルネックが生じるサイクル時間の問題の解決が目的ではない。また、ボルボの工場の床面積はすでに十分に縮小されている。
 従って、ボルボにおける新規のレーザ溶接へのアプローチは、主としてエンジニアリング技術の観点から行われている。ボルボではレーザ技術の独自の利点を選択して活用する、つまりレーザ溶接を用いて車体構造のまったく新しい幾何学形状設計を可能にすることを考えている。レーザ溶接を抵抗スポット溶接と同等のものとして利用している競合メーカーとは異なり、ボルボはレーザ技術の適用を従来の溶接法では組立の不可能な部位に限定している。このことは、ボルボの将来の製品プログラムにおいて、さらに明らかになるであろう。
 XC60 の登場は車体組立へのレーザの利用においてパラダイムシフトが起きたことを示している。次に登場する製品ラインはS60 の後継車およびV60と名づけられる中型エステートワゴンモデルになるであろう。これらの車体はいずれも、片側継目レーザ溶接のコンセプトにもとづくBピラー強化材とシル強化材との新しい接合方式が特徴になる。実車による側面衝撃検証試験において、このレーザ溶接によるかご構造は、乗員の安全性の確保において、他の接合法よりも優れていることが証明された。2010年の初夏にトースランダ工場からの出荷が計画されているエステートワゴンモデルは、2007年のボルボV70 モデルと同様に、後部ドア開口部へのレーザ溶接の適用が予定されている。

図1 ボルボのシティセーフティ機能の動作原理。

表1 ボルボXC60 の車体に適用されるレーザ溶接の内訳。

図2 XC90 モデルとXC60 モデルのA ピラー断面には明瞭な相違がある。右のXC モデルはレーザ溶接用のローラー固定部品が必要になる。

図3 ボルボXC60 が採用した解決策は車体側面の外側を縮小して、X90設計に比べて1.5kgの軽量化を実現している。

図4 Bピラー構造は三つの個別部品がレーザ溶接で接合され、優れた機械的特性を実現している。

図5 新しいボルボXC60モデルに適用されるレーザ溶接の部位を示している。

図6 ゲント工場のGA-3ラインの新しいレーザ溶接ステーションの配置図。1台の半導体励起ロッドNd:YAGレーザと、1台の半導体励起ディスクYr:YAGレーザが描かれており、両方ともレーザ出力は4kWである。

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