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レーザによる薄膜太陽電池の構造化

S・ゾッペル、H・ヒューバー

超小型のピコ秒レーザは薄膜太陽電池の製造に適している。

超短パルスレーザは熱によらない「冷たい」アブレーション加工が可能なため、数多くの材料の高精密な構造の形成に使われる。しかしながら、産業用としての技術が確立された従来のレーザに比べると、このようなレーザ装置は投資と運用のコストが高くなると言われている。材料加工に使用する従来のレーザ光源は、そのアブレーション品質が限界にまで達しているため、ピコ秒レーザ光源がより多くの注目を集めている。
 今日の新しいピコ秒レーザ装置は、生産環境でも十分に動作するロバスト性を備えている。その産業用レーザとしての有用性を示すもう一つの大事な要素は、製造工程のサイクル時間にある。最新のピコ秒光源は500kHzの繰返し速度で動作するため、産業への応用に必要な加工速度を得ることができる。これらの製造用途に適した超高速レーザ光源の一つがオーストリアのハイQレーザプロダクション社( High QLaser Production)のpicoREGEN Industrialだ。このレーザは30Wまでの出力パワー、10psのパルス継続時間、500kHzの繰返し速度を得ることができる。
 このレーザの興味深い応用分野は、薄膜加工である。この加工では、精度の高い選択的アブレーションと高速性を併せ持つ超短パルスレーザが圧倒的優位に立っている。特に今日の薄膜太陽電池の構造形成ではナノ秒レーザアブレーションと機械的スクライビングが用いられている。これらの加工はいずれも実用化されているが、そこには量産時の再現性とコスト効率を大幅に向上させる可能性が残されている。
 歴史的に見ると、太陽電池はシリコンウエハの技術を利用して製造されてきた。高価なシリコンの代わりに安価なフロートガラスを使用し、機能層としてのコーティング薄膜を組合せるアプローチには、生産原価が劇的に低下する可能性がある。薄膜のソーラモジュールは経済的なインライン方式による生産が可能であり、材料の消費量が大幅に低減するため、従来のエネルギー源との経済的な競争が可能になる。
 このような薄膜は電気的に分離された線状構造を基板やその他の層の損傷なしに形成しなければならない。現在の構造形成の工程は、ナノ秒レーザによるアブレーション(1)、(2)または機械的スクライビング(3)、(4)にもとづいている。超短パルスレーザを用いたモリブデン(Mo)(5)〜(8)、セレン化銅インジウム( CIS)(9)、酸化亜鉛( ZnO )あるいはその他の透明酸化物(10)から成る多層膜の構造形成の研究が行われ、その短いパルス持続時間によって、熱影響は最小になり、再現性は向上し、損傷は減少するが、産業用途に応用するには加工速度があまりにも遅いことが明らかにされた。
 最近、CIS薄膜太陽電池が注目されているが、それはエネルギー効率が他の薄膜太陽電池よりも高いためだ(12)〜(14)。CIS 薄膜太陽電池は基本的に三つの機能層から構成されている(図1)。
 まず、500nmの Mo層を数mm厚のガラス基板上にスパッタし、次に、パターン1(P1)プロセスと呼ばれるナノ秒レーザアブレーションを用いて構造を形成する。さらに、構造を形成したMo薄膜上に光の吸収体とp型半導体として作用する厚みが1〜3μmのCIS層を蒸着する。パターン2(P2)プロセスではCISの構造を形成し、機械的にスクライビングして電気的に分離する。最後に、厚みが1〜 2μm の透明で伝導性のZnO層をCISの上部にスパッタして、太陽電池のn型側面を形成する。性能はCISとZnOとの間に薄いバッファ層(CdS、100nm)を挿入することで改善される。一般にMo層は「背面電極」と呼ばれ、ZnO層は「前面電極」と呼ばれる。最終の構造形成となるパターン3(P3)プロセスではMo薄膜上のZnO層とCIS層との機械的スクライビングが同時に行われる。

P1パターニング

 現在の製法はナノ秒レーザを使用してP1 構造形成の加工をしているが(図2)、この方法は周縁が高くなり、Mo 層の厚みに匹敵するような局所的分岐や近道が上部層を通して発生する。また、太陽電池の寿命に問題をもたらすマイクロクラックと部分的な材料の剥離が溝の側面の5〜10nmの範囲に発生する。この基板ガラスにはレーザパルスが重なる溶融層が現われる。これらのことは生産工程の欠点になる。レーザパルスが重なる溶融層の障壁層は損傷することがある。すべての損傷はナノ秒アブレーション時の熱影響にもとづいている。
 図3 はピコ秒レーザによるMo 層の電気的分離を示している。上と下の周縁の間にはリップル状の等高線と高さのわずかな非対称性が観測される。リムの形成はナノ秒レーザアブレーションほど顕著でない。

P2パターニング

 P2 の生産工程はかなり硬いMo 層上のCIS 層の機械的スクライビングであり、線幅が60〜 120μm の範囲内で変化する欠点を持つ。図4はピコ秒レーザアブレーションでP2 構造形成をしたCIS層を示している。CIS層は選択的に除去されて、約22μm の高品質の小さな溝が形成されている。加工速度はpicoREGENIndustrialを使うことで、約3〜4m/sへの高速化が可能になる。この画像はCIS層の選択的除去がマイクロクラックや剥離などの熱影響なしに行われたことを示している。

P3パターニング

 硬いMo層の上のZnO/CIS二重層を分離する現在の製造工程は、P2スクライビングの工程に類似している。スクライブした線は>70μmの幅になり、ZnOおよびCIS層から剥離が生じて、その切片が線の底部に残る。スクライビング速度は数cm/sになる。
 ピコ秒レーザを使うと、Mo 層からZnO/CIS 二重層を選択的に構造化することが損傷の完全な発生なしに可能となる。図5は構造形成したZnO/CIS二重層を示している。この構造形成プロセスの選択性は連続して形成された側壁において明瞭に見ることができる。わずか18μmの線幅は加工プロセスの信頼性を高め、材料損失の低減を可能にする。
 1064nm のピコ秒レーザによる加工から得られた結果は、このレーザがCIS 薄膜太陽電池の加工段階(P1 〜P3 )のすべてに適用できる汎用手段として役立つことを示している。最新のピコ秒レーザの高い繰返し速度を利用すると、産業用途の加工において毎秒数mの構造形成速度を実現できる。構造形成された高品質で均一な線は、製造時の無駄な材料損失が減少し、太陽電池モジュールの寿命が長くなる可能性を示している。

図1 248nm エキシマレーザマスクイメージングを用いた硬い固体材料の大面積薄膜パターニング。単一エキシマパルスから非常に高分解能のパターンが形成されている。

図2 高い繰返し速度のナノ秒レーザ(パルス継続時間: 約100ns、繰返し速度:100kHz )でPI線を構造形成した約30 μ m 幅の溝の光学顕微鏡写真(左)とCIPトポグラフィプロファイル(右)を示している。

図3 ピコ秒レーザで形成したP1 線構造のCIP トポグラフィを示している。約25 μ m の溝で分離されたMo 層の電気抵抗は>1M オームになる。

図4 ピコ秒レーザによるP2 構造化。この図は熱影響を受けずに分離されたCIS 層の溝の共焦点撮像による深さプロファイルと断面を示している。

図5 ピコ秒レーザアブレーションによるP3 構造形成。ピコ秒レーザによるアブレーションで構造形成したZnO/CIS 二重層の光学顕微鏡写真(左)と断面構造(右)を示している。

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