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セキュリティ+ トレーサビリティ用のダイレクトパーツマーキング

スコット・R・サブリーン

レーザによるプラスチック部品の直接マーキングによってインクよりも優れたマーキングが可能になる。

 製造分野では機械読取り可能なコードを含んだ「消せない」マーキングを直接部品に施す需要が指数関数的に増大している。このダイレクトパーツマーキング(DPM)を行うと、製品の製造時から使用期限までの追跡が可能になる。これに対する強い需要には多くの要因がある。つまり、部品のトレーサビリティと製品の個別認識(UID)、従来の高価な金属部品を置き換える高性能で軽量のエンジニアリングプラスチック部品の好ましい経済性、そして、それによって生じる消すことのできない高解像度の英数字コードなどに対する要求の増大などである。今日のメーカーは、製品のトレーサビリティ、さらには改竄や偽造の防止法の確立を戦略にしている。米国防総省(DoD)は軍用資産の標準仕様としてのMIL-STD-130Mを設定した。軍用資産に対するDoDの標準化ばかりでなく、自動車、包装、製薬から電子部品、消費者用製品にまでのさまざまな分野でも、商業製品の製造企業は同様の標準化を積極的に進めている。

マーキングの方法

 独自の「個別レベル」認識情報が含まれるDPMでは、インクジェット、ドットピーン、レーザマーキングなどのデジタル処理技術が必要になる。レーザマーキングは高いコントラストの消えないマーキングが可能で消耗品や硬化処理も必要としない安価なプロセスのため、さまざまな3次元(3D)形状のプラスチック製品にとって好ましい方法となる。また、レーザは最小サイズの機械読取り可能なコードをマーキングできるため、マイクロマーキングにとって、とくにアルファベットや数字、ロゴ、概念図などをマーキングする部品の表面積が限られる場合の方法として重要になる。ロバストなシックスシグマの製造作業は、マーキングのサイズと細部の複雑さに関係なく、すべての製品を人手またはマシンビジョンで完全に識別する必要がある。
 非接触方式のレーザマーキングに比べると、インクによるパッド印刷のような非デジタル方式は、ほとんどのプラスチックに対して消えないマーキングを施すことが不可能で、セキュリティのための個別レベルでの認識トレーサビリティを得ることができない。また、インク、タンポン(パッド)、陰画(印刷板)、化学薬品などの消耗品の変動費が高くつく。インクジェットに比べると、レーザマーキングは消耗品を一様に節約できる。消えることが避けられないインクジェットは、機械読取りの用途、とくに小さな部品の場合に必要となる細かい線のエッジの分解能を得ることができない。業界の専門家によると、インクジェットのマーキングは分解能が悪いために、コードの約25%は誤読されている。
 機械による読取りが可能なコードには、光スキャナやカメラによって解読できる情報がコード化されている。よく知られた例は1D バーコードだ。この情報を内蔵するコードは、明るいバックグラウンド上の高い反射率と低い反射率のバーで構成され、これらの反射率のバーが1と0 に変換される。広く使われている方式では印刷された平行線(黒と白の縞)の幅と間隔のなかにデータが蓄積されている。
 新しいバーコードの仕組みには、エレクトロニクス、航空宇宙、自動車、製薬などの製造分野で使われるASCII文字セットが含まれている。この場合は非常に進化した機械読取り可能なコードが必要となり、より狭い空間を使ってより多くの情報をコード化するため、2Dデータマトリックスコードの開発が必要になる。データマトリックスコードにはすべてのコードを網羅する走査パターンがないため、バーコードのようなレーザ走査で読取ることはできない。したがって、カメラのような撮像装置による走査が必要になる。2Dデータマトリックスは、限界のある1Dバーコードを置き換えるものとして開発された革新的な機械読取りコードである。図1は2D データマトリックスコードとバーコードの違いを示している。
 データマトリックスはほとんど全ての物理的サイズのなかに大量の情報を蓄積できるマシン読取りの2Dコードからなる。データマトリックスコードは通常のバーコードに比べると25〜 100倍の情報の蓄積が可能で、コードサイズはレーザの解像度による制約しか受けない。データマトリックスコードは苛酷な条件の産業環境のなかでも存続できるように設計され、わずか20%のコントラストしか必要としない。これは1D バーコード(一般に80% ないしはそれ以上)に比べると非常に低い。したがって、暗いバックグラウンド上の暗いコードや明るいバックグラウンド上の明るいコードを読取ることもできる。組込まれたエラー訂正(ECC)機能は不完全に印刷されたコードや損傷したコードに対する保護手段として機能する。さらに、コードにはどのような角度からでも読取れる全方位機能がある。

2D コードと1D バーコード

 2D マトリックスコードは小型部品のマーキングにとって理想的で、苛酷な環境のなかでも存続できるように設計されている。データマトリックスコードのサイズは、コード化されたデータ量が等しければ、バーコードのわずか1/10〜 1/100 にしかならない。したがって、製品のトレーサビリティに必要な大量のデータを非常に狭い空間に収めることができる。すべてのコードは約半分が白色、残りの約半分が黒色のため、セルが損傷して読取りが不可能になる確率は50:50になる。データマトリックスの高い冗長性(データはコード全体に分散されている)と印刷欠陥に対する耐性からは高い読取り能力が得られる。アルゴリズムに組込まれたエラー訂正機能からは、不完全な印刷や損傷したコードに対する保護機能が得られる。 表1 は2D データマトリックスコードと1Dバーコードの違いをまとめて示している。次に、プラスチック製の3D要素部品と組立部品(アセタール、ナイロン、ポリオレフィン、ポリカーボネート、ポリエステル、ポリスチレンなどの樹脂)の表面に2Dデータマトリックスコードをレーザでマーキングする技術を詳しく述べる。これらのプラスチックは化学的に不活性で、低い表面エネルギーをもつ無極性材料から構成されている。このようなプラスチックのレーザによるDPMは、インクによるマーキングに比べると、発光波長、パワー性能、汎用性などにもとづく多数の利点が得られる。例えば、マーキングの速度と品質が向上し、処理量も増加する。
 苛酷な環境で使われる自動車のアンダーフード燃料部品は、レーザマーキングによる2D データマトリックスコードの優れた応用例になる(一般にはアセタール、ナイロンおよびポリエステルが使われる)。図2はこの製品の個別トレーサビリティとセキュリティのための2D データマトリックスコードを示している。サイズが1/6 インチのコードが約200 ミリ秒でマーキングされる。このコードには要素部品の完全なトレーサビリティに必要なデータ(樹脂バッチ、金型、作業日時、組立部品に漏れテストなど)が含まれている。 アセタールなど多くのプラスチックへのレーザーマーキングの革新的な技術進歩によって、製品のシリアル化とトレーサビリティの範囲がさらに拡大している(図3)。特許出願中のVectorJet技術は、ポリマ基板の物理的性質に影響を与えずに、前例のないコントラストを実現できる。自動車会社の役員の1人は、「アンダーフード燃料部品の多くは小型設計が採用されている。自動組立ライン終端近くのインライン漏れテストの後に、重要な情報を含むデータマトリックスコードが消えないコードでマーキングできることは、自動車産業にとって大きな価値になる。部品が個別に認識できることは、製造中の部品の在庫管理に役立つ」と語っている。
 VectorJetレーザマーキングを分析した業界の専門家によると、この新しい技術は、プラスチックの表面に0.0056インチないしはそれ以下(ヒトの毛髪に近い)のデータマトリックスセルを個別にマーキングできる。一般に、このような小さなデータセルにレーザを集光すると、焼けすぎ(または過剰印刷)が生じる。レーザの熱は狭い領域への正確な閉じ込めが難しいため、コードの周辺には熱影響層が発生して、読取り性能が影響を受ける。VectorJetはこれらの問題を解決している。
 現代のマシンビジョンシステムは、単に独立した検査装置だけではなく、統計的品質管理マトリックスプログラムを含むシックスシグマの総合製造作業のなかに組込まれている。先端システムにはレーザと機械読取り可能なコードの範囲をさらに拡張する人工知能が含まれている。レーザマーキングとの強力な組合せによって、プロセスのフィードバックと欠陥ゼロに近い形での製品のエラー防止が可能になる。

結語

 製造分野では機械読取り可能なコードを含めた消えないDPM の需要が指数関数的に増大している。米国防総省は軍用資産に対するMIL-STD-130Mを設定した。軍用以外にも、自動車、包装、製薬からエレクトロニクス、消費者用製品に至るさまざまな製品のメーカーは、同様の標準を積極的に採用している。DPMを採用すると、製品の製造時から使用寿命の終了時までの個別レベルの追跡が可能になる。レーザ技術と機械読取り可能なコードとの強力な組合せからは、製品の完全な認証と追跡が可能になる。これによって生産プロセスの流通網、さらにはエンドユーザも計り知れない利益を得る。

図1 2Dデータマトリックスコード(左)と1Dバーコード(右)の違い。

表1

図2 アンダーフード燃料部品上の2Dデータマトリックスコード。

図3 特許出願中の「Vector-Jet」レーザマーキングは、消えない、ロバストな機械読取りコード、アルファベット文字、0.020インチ(0.5mm)ないしはそれ以下のグラフ、ロゴ、概念図などをマーキングできる。

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