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夢の翼

デイビッド・A・ベルフォルテ

レーザ切断加工によって第2 次世界大戦の戦闘機の復元を加速させられるかもしれない。

 1970年代後半、コネチカット州のニュー・ヘブンで育ったクレイグ・マクバーニー氏は、非常勤のパイロットであった彼の父から飛行機に対する愛情を植えつけられた。1943年にボイントン少
佐によって率いられた第2次世界大戦(WW㈼)の実際の海軍航空隊VMF-214についての小説をもとにしたテレビシリーズ「Baa Baa BlackSheep」の中で飛行していた航空機、米チャンス・ボート社( Chance Vought)のF4U コルセア(Corsair)は彼の憧れになった。

コルセアの歴史

 コルセアは、戦闘機の護送から対地攻撃の爆撃機のサポートまで、広い範囲のミッションをこなす頑強な航空機だ。航空機輸送業務のため、米プラット・アンド・ホイットニー社(Pratt& Whitney)の力強い2804 立方インチの排気量のエンジンと巨大なスパーが特長の円柱形の先の尖った機体構造を合わせたユニークな設計になっている(図1)。スパーは機体のバックボーンで、巨大な4翔のハミルトン・スタンダード式(HamiltonStandard)プロペラの認可を受けるため、およびハンガーデッキ倉庫用に機体を低くするために設計された片持ちの逆ガルウィングを支えている。同じく輸送業務のため、機能的な折り畳み翼を備えている。
 コルセアが他のWW㈼の戦闘機と一線を画している点は、コネチカット州で設計、開発、組立てられた(ほぼ地元の下請け会社によって)唯一の戦闘機であること、そしてWW㈼以前に設計され、終戦後も製造され続けた唯一の戦闘機であることである。
 1940 年、コネチカット州のストラトフォードにあるヴォート・シコルスキー社( Vought-Sikorsky)は海軍から新たな、より高速な戦闘機を製造する契約を獲得した。F4Uコルセアは、強力な空冷エンジンであるプラット・アンド・ホイットニー社R-2800 Double Waspエンジンを基に設計された。コルセアの生産数は、12年間にわたってF4Uタイプで延べ1万2000 機にのぼった。F4U のいくつかはオハイオ州のグッドイヤー・エアクラフト社(Goodyear Aircraft)やニューヨーク州のブリュースター・エアロノーティカル社(BrewsterAeronautical)に外注された。
 さまざまなモデルがある中、F4U はWW㈼中、米海軍および海兵隊、カナダ空軍、英国空軍、ニュージーランド空軍に採用され、韓国でも米海軍と海兵隊に採用された。その後、インドシナ戦争(第1次)でのフランス軍、アルゼンチンなどの南米諸国、そして最も記憶に残るところでは1969 年にエルサルバトルとホンジュラスで起きたいわゆるサッカー戦争でもF4Uコルセアが活躍した。米海軍の所有機に話を移すと、コルセアは1957年にアリゾナで解体されることになった。現在、米国内に残るこの有名な戦闘機は100機足らず(このうち10機は飛行可能だと考えられる)だとされている。
 コレクターとして著名なボブ・ビーン氏は、南米諸国に転売する目的で、コンディションが良くもっとも飛行可能と思われる20 機を1 機900 ドルほどで(WW㈼中の販売価格は25万ドル)購入した。1970年に、彼はそのいくつかを1機2万ドルでコレクターに販売した。コレクターはこの航空機を復元目的でパーツやスペアのために購入した。その中の1 機、97330番は、1980年代の初の宇宙飛行士に関する映画「ライトスタッフ」にも登場した有名な女性飛行士、フローレンス・“パンチョ”・バーンズの息子が購入した。この時期が、著名な航空機の復元の創世記と言える。

復元のはじまり

 F4Uは、他のWW㈼戦闘機と比較すると非常に複雑だ。P-51ムスタングと比較すると部品数は3倍で、人手による復元は10倍の時間を要する。
 コルセアに対する強い情熱をもつマクバーニー氏は、結局1991 年に事故で破損した97330の購入を決めた。この戦闘機は一度スクラップを免れ、コルセアのファンたちによって遊覧用に飛行していた。航空機博物館を転々としながら、飛行可能な2機のWW㈼のB-24 爆撃機のうちの1 機を飛行させたことから、マクバーニー氏は航空機復元の経験を得た。彼は米エンブリ・リドル航空大学でパイロットとしての訓練を受け、連邦航空局(FAA)認定航空機機体整備士と航空機エンジン整備士の上級資格をもっている。
 コルセアを元通り飛行できるように完全に復元し、コネチカット州産業のPRツールや、科学、工学、数学に興味をもつ若い学生たちへの教材として活用することが彼の15年来の計画だ。後者に向けて、彼は多くの工場の航空機図面をSolidWorksを用いてCADデータに変換した。現在では、彼はこのCAD図面を用いて、最早購入することのできないパーツを自ら作製している。
 2000年、彼はコネチカット・コルセア社(Connecticut Corsair; www.connecticutcorsair.com)を立ち上げ、間接的に航空機産業とつながっている州産業に対して97330を米国の空に親善大使として復活させたいという無謀な任務遂行のための説得を始めた。2005年、コルセアはコネチカット州航空機として正式に認定され、この一連の運動が後押しされた。これは最初の飛行からちょうど60年目のことだった。マクバーニー氏は、この時すでにR-2800DoubleWaspエンジンを復元していた。
 読者はここまで読んで「これが産業用レーザとどう関係があるのだ?」と疑問に思うかもしれない。実は、私がマクバーニー氏に会ったのは、コネチカット先進技術センター(CCAT)主催の今年のSALA(Symposium for AerospaceLaser Application)会議でのことだ。彼はレーザ切断加工について記事を書くことに興味をもっている人間として私に紹介されたのだ。
 マクバーニー氏は、この数年、CCATが後援するレーザ会議に参加し、同じくコネチカット州に拠点を置く企業であるトルンプ社( TRUMPF )に出会った。同社は、彼とともに、すぐに航空機のスパーで使用されるアルミニウム部材のレーザ切断装置の開発に取り組んだ。トルンプ社は手作業で加工されたパーツから計器パネルも作製した(図2)。マクバーニー氏は、デジタル化されたプログラムからレーザ切断装置のソフトウエアを操作してそのパネルを切断することにすぐに熱中し、破損したオリジナルの正確な複製を5分もかけずに完成させた。トルンプ社は、コルセアの他のパーツのレーザ切断と組立てを担当できる地元のジョブショップ、チャプコ社(Chapco)を紹介した。

金属疲労の問題

 ここで問題がもちあがった。この金属はアルミニウムであり、FAAでは、レーザ切断後のエッジは正規の機械的技術(工順)とは異なるため、金属疲労性能に関して留保を設けていた。
 その頃、米シコルスキー・エアクラフト社(Sikorsky Aircraft)も、個別に自社の機体用ハードウエアのためにこの点を検討していた。シコルスキー社のマイケル・アーバン氏がSALAで発表した論文に報告されているように、同社の試験プログラムでは、いくつかのレーザ切断後のエッジでマイクロクラックが発生したことが問題視された。しかし、彼らの最初の結論では、彼らの試験におけるレーザ切断サンプルでは、他の従来の工法のサンプルに比べても疲労因子は見られなかった。しかし、再凝固とHAZ(熱影響層)によって、従来工法に比べると寿命の一部が18%減少する可能性がわかった。予熱処理や後熱処理は寿命には影響しないため、この場合はレーザ切断加工による変化が疲労要因になりえる。 スパー部材は振動構造物の一部であるため、マクバーニー氏はこの部材のレーザ切断を行う際、これを考慮しなくてはならない。重大な結果を引き起こす可能性がある構造的欠陥を招く可能性があるためだ。
 数年前、ボーイング社も同じ問題に直面していた。彼らは、下請け会社によって行われるアルミニウムパーツのレーザ切断はすべて、高ビーム品質の米コヒレント社のGeneralArrowを使用するよう規定した。これはアルミニウムの板金や構造部材だけにまつわるものかどうかは定かではないが、ジョブショップ業界ではArrowは最小の熱影響での切断が可能であり、そのためにこのレーザが選ばれているという。
 現在、トルンプ社、シコルスキー社、CCATは皆、この現象を調べており、さまざまな形の解決策が提示されるのもそう遠くはないと期待されている。コネチカット・コルセア社のレーザ切断部材は、私が同社を訪問した際には民間の空港であるチェスター空港の格納庫にあった。コネチカット・コルセア社は、マクバーニー氏が注意深く複製したコルセアのマニュアルや図面に概説されているオリジナルの仕様どおりのパーツを作製する予定だという。彼は、オリジナルの仕様と同じ、もしくはそれを超えるパーツの完全性を確保する準備が整ったと主張している。
 更なる企業スポンサーや、引き続き偉大なるF4U コルセアへの情熱をマクバーニー氏と共有するボランティアからの支援が得られるかどうかによるが、97730の飛行はあと3 年ほどで実現しそうだ。

図1 スパーは機体のバックボーンで、巨大なプロペラの認可を受けるため、およびハンガーデッキ倉庫用に機体を低くするために設計された片持ちの逆ガルウィングを支える。

図2 トルンプ社は手作業で加工されたパーツから計器パネルを作製した。

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