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ハイブリッドレーザ溶接の準備は整ったか?

エド・ハンセン

製品と加工法をよく知ることによって、レーザアークハイブリッド溶接の解決策に到達できる。

 ハイブリッドレーザ溶接はすでに評判になっている。レーザ溶接とガス金属アーク溶接(GMAW)を組合せると、溶接加工速度の向上、コストの低減、さらには溶接品質の改善に役立つとも言われている。しかし、このハイブリッド溶接は、特定のアプリケーションやビジネスに本当に役立つのだろうか。ハイブリッドレーザアーク溶接(HLAW)を導入するには、製造と組立ラインのすべてを根本から見直すことが必要になる。これは本当に価値がある投資になるのだろうか?投資をすべて回収することはできるのだろうか? HLAWの導入を検討すると想定して、ここではその決定プロセスに役立ついくつかの要因をまとめてみたい。
 ハイブリッドレーザ溶接は、溶接の深溶け込み、低い熱入力、高速性などの特徴をGMAWの優れたギャップ公差および冶金制御技術と組合せている。その結果、ハイブリッド溶接加工からは、より深い溶け込み、より低い熱入力、より少ない変形と収縮、より高い溶接硬度と強度、より高い疲労耐性が得られる。GMAWやサブマージアーク溶接(SAW)よりも3?10倍も高速の溶接速度は、より高い生産性と優れたコスト効率に変換される。また、HLAWを完全に自動化すれば、人件費が減少し、運転費は半分ないしそれ以下になると考えられる。HLAWは、小さな溶接体積で高強度の溶接を実現できるため、最終製品の重量も減少する。
 これらの利点にもかかわらず、HLAWはすべての加工に適したものとは言えない。かなり大きな投資と自動化が余儀なくされる。HLAWの導入を判断する場合は、以下の4つの項目を検討するべきだ。

1. その溶接加工はHLAW と相性が良いか?一貫性のあるエッジ状態

 HLAWでは加工箇所の長さに沿って、また場所から場所へと、エッジの形状と表面をかなり一定な状態に保持する必要がある。このような一貫性のあるエッジ加工が受け入れられる場合は、直線性とフィットアップの公差が課題になる。例えば、米ESAB社のHLAWシステムを使用して位置決めとトラッキングを行うと、溶接継手は予測経路からずれるため、フィットアップの十分な管理が必要になる。

公差
 ほとんどのHLAWシステムはギャップ公差が0.5mm以下になる。加工速度を遅くすると、ギャップは広く、溶接部は大きくなり、HLAWを使うことの目的が失われる。ESAB社が製造しているシステムは、能動測定を行うことによって、バッキング有りでは最大2mm、バッキング無しでは最大1mm のギャップ公差が得られる。このようなシステムは、フィットアップの変化に合せようとすると、溶接速度と熱入力が犠牲になる。一般に、溶接体積が大きいほど、加工速度は遅くなり、加工部分への熱入力が大きくなる。したがって、加工部分のフィットアップは悪くなるが、過剰溶接なしにより大きな加工のロバスト性を確保したい場合の使用に適している。一方で、HLAWを使用すると、すぐに良好な公差が得られ、部分切断とフィットアップの改善も可能になる。

溶け込み深度
 その用途ではどれほどの溶け込み深度が必要になるのだろうか? HLAWはシングルパスで12.5mm(容易ではない)までの溶け込み深度が得られる。実験室ではさらに深い溶け込みが特定の材料を使うことで実現されているが、現在のところ、これを商用システムで実用化することは難しい。従来のすべての溶融加工と同様に、ディープルートパスとそれに続くキャッピングパスを使用してマルチパス加工を行えば、HLAWはさらに深い部分の溶接が可能になる。凹凸 部品の凹凸はどのくらいなのだろうか? 現在のHLAWは直線、回転または緩やかな曲線をもつ部品の溶接だけに適している。高速で移動する運動システムや制御システムの多くは精度が高いため、それらの幾何学配置をHLAWで加工するには、加工速度の低下が必要になる。幸いにも部品の幾何学配置がかなり単純であれば、ガントリー、マニピュレータ/ポジショナシステム、カラムとブームシステム、ロボットとハードオートメーションシステムなどのさまざまな機構の加工が可能になる。

2. その用途は自動化と相性が良いか?

 その加工がすでに自動化、あるいは機械化されているならば、HLAWはすぐれた選択肢になるだろう。まだ自動化されてはいないが検討中である場合は、そのアプリケーションが製品と加工に再現性があり、デューティサイクルが高くなければならない。
 一般に、HLAWの利用が理想的となる産業には、造船や海上工事、一般輸送、鉄道、トラック、軍用車両、工事用機器、製鋼、製管、石油化学、エネルギー、民間インフラ、自動車、電気機械、食品と医療器械、槽と圧力容器および梁、型材、管、トラス部材などの建築材料などが挙げられる。
 とくにHLAWは、大型の薄い金属構造、特殊合金、量産材料、ステンレス鋼および高精密製品の溶接に適している。高い仕上がり精度をもつ製品の量産には理想的な方法になる。また、高精度の品質検査が必要となる用途、あるいは深い溶け込みとマルチパス溶接が必要な用途への利用にも適している。

3. 自動化とHLAWを十分に使いこなせるか?

 HLAWを十分に使いこなすためには、加工工程を監督するための十分な人数の専門スタッフと技術スタッフが必要になる。コンピュータ精密制御装置の運用と保守ができる能力が必要とされる。また、溶接工程の開発、溶接特性の検査と理解、そしてHLAWシステムからの生産の品質管理に十分な能力をもつスタッフが必要になる。すでに自動化された装置を持っているか、さ
もなければ近い将来に自動化を計画していることが望ましい。HLAWのために必要となる課題の多くは、すべての自動溶接加工の場合と共通の課題になる。部品製造の工程を十分に制御する必要があり、もっとも重要なことは、その加工法とビジネスを改善しなくてはならないという強いニーズをもっていることだ。

4. HLAW に投資することはビジネスの好機になるか?

 HLAW システムへの投資を行う前に、投資に対するリターンを系統的に評価するべきだ。大規模な投資を行うのだから、良好なリターンが比較的短期に得られることを確信しておく必要がある。高額の初期投資を行う余裕があるだろうか?溶接事業を改善する必要性があり、改善を実現する強い意思があるのだろうか? 製造工程はHLAWを使っても利益が得られるのだろうか?HLAWでROIが得られるだろうか?それをどのように把握し、どのような対策を取ることができるのだろうか?
 ここでは、HLAWの事業化に必要となるいくつかの項目を整理してみよう。

スループットの増加

 高いデューティサイクルの溶接加工を実現することが可能なのか? 現在の上流および下流のオペレーションで、HLAWシステムの全アウトプットに対応できるだろうか?より多くの製品を製造できたとしても、それらを販売できるだろうか?HLAWが現在の単一溶接ステーションの3 〜4倍の製品を製造したとしても、工場の床面積には十分な余裕があるのだろうか? ──工場のスループットが増えて追加の粗利益が生まれれば、HLAW投資に対するリターンを早期に確保することが容易になる。

溶接要員の削減

 現在の操業は人手に依存しているのだろうか、それとも機械化されているのだろうか、それとも完全に自動化されているのだろうか?溶接、機械、組立、原材料搬送、研磨などを含めた現在の労働力はどのくらいの規模になっているのだろうか?熟練溶接工の確保に苦労しているのか?──多くの会社では熟練溶接工の確保が難しいという理由だけで自動化に取組んでいる。このことが生き残るための条件となり、投資に対する経済的なリターンよりも大きな問題となっている。 HLAW溶接システムは完全に自動化されている。このシステムではいくつかの工程に配置されている多数の作業者を1 人の機械オペレータに置き換えることができる。HLAWはクリーンで安全な機械のため、従来の溶接に比べると、若い作業者にとっても魅力的な仕事になるだろう。

下流の労働コストの減少

 溶接による変形は現在の大きなコスト要因になっているだろうか?溶接後の直線化の手直しと応力の緩和にどれくらいの時間とコストを使っているのだろうか?溶接後の配置、機械加工、穴あけ、組立調整、部品メークアップ、スロット締め具などはどうなっているのだろうか?仕上げ加工、研磨、レベル出し、フィリングなどにはどのくらいの時間が使われているのだろうか?── HLAWは低変形の接合加工であるため、意味のない付加的作業、手直し作業および修理を削減ないしは廃止できる。例えば、欧州の造船への応用では、高価で高度に熟練した作業が必要となるデッキとバックヘッドの加熱による直線化の後加工が不要になることが実証された。HLAWはかなりの後加工をコストの安い前加工に移すこともできる。2次加工を排除することによって、どれだけの時間と費用を節約できるだろうか?

製品の品質改善

 現在の製品の品質改善はセールスポイントになるのだろうか? HLAWはより高い全体適合性と仕上げ品質が確保され、その目で見える座屈と変形は減少ないしは消失し、非常に平滑で一貫性のある溶接の幾何学構造が得られる。より良い品質の製品やより魅力的な製品はあなたの販売の増加に役立つのだろうか?また、設計者はHLAWの独自な能力を利用することで、より高い硬度と強度をもつ軽量製品を製造できるのだろうか? ──ハイブリッド溶接はより長い疲労時間を定量化され文書化された溶接品質で確保できる。製品品質を向上させることによって、プレミアムの利益が確保され、ローテクの競争相手に対するバリアを築けるとしたら、HLAWはそれを実現する加工法となる。

結び

 HLAW はスループットの増加、製品品質の改善、変形の減少、労働コストを低減、さらにはより良い製品のより容易な創成のためのすぐれた手段になる。しかし、HLAWを導入するには十分な検討が必要であり、現在の製品と加工法の改善に役立つかどうかを真剣に検討しなくてはならない。HLAWシステムのメーカーは、ユーザが利益を確保できるどうか、ユーザの現在の加工に効果があるかどうかを判断できるように支援している。HLAWは投資に値するか?それは使う本人だけが決定できることだ。

A )二重ステンレス鋼の杭型の重ね溶接。B ) 25mm DH-36 鋼の2 パス、片面のハイブリッド溶接。

米国サウスカロライナ州フローレンスにあるESAB社の応用開発研究所。

米海軍用のスマートテストパネルを溶接しているメイン州サンフォードのATS にある15ft × 50ft ESAB HLx ハイブリッド溶接ガントリー。

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