All about Photonics

Home > Magazine > Articles

関連イベント

関連雑誌

Articles バックナンバー記事

薄膜太陽電池パネルのスクライビング

コリー・M ・ダンスキー、フィンリー・コルヴィル

高いスループットと精密で平滑なスクライビングは工程とレーザの最適化が鍵になる。

 前号で掲載された記事では太陽電池デバイスの開発と製造において、低い製造コストと優れた性能の両立を可能にするレーザがいかに重要な役割を果たすかを概説した(ILSJ 2008年1月号p.24を参照)。レーザによるスクライビング(溝加工)は、次世代の薄膜太陽電池デバイスの大量生産を可能にし、機械的スクライビングに比べて加工の品質、速度および信頼性が優れているため、すべての加工工程の中で最も重要な工程の一つとして急速に発展している。
 薄膜太陽電池は、連続工程の大量生産が可能でありシリコン(Si)の消費量を大幅に抑えられ、結果的に従来のSiウエハを使用する太陽電池に比べると単位出力パワー当たりの製造コストが劇的に低下する。そのため、薄膜太陽電池は非常に重要視されている。

製造工程

「薄膜」デバイスという名称が示すように、このデバイスの多くはガラス板に蒸着された材料の多層薄膜から構成されている。開発の初期段階では他の方式や材料も検討されたが、現在大量生産されている薄膜電池では、非晶質シリコン(a-Si)をいわゆる単一接合構成にするデバイスが主流になっている(図1)。そしてまもなく、タンデム「微構造」などの多重接合a-Si変形方式がそれに続くと予想されている。しかし、ここで述べるレーザスクライビング加工法は、CdTe(テルル化カドミウム)やCIGS(セレン化銅インジウムガリウム)にもとづくデバイスも含めた、開発中のすべての薄膜デバイスに適用できる。
 重要なことは加工するパネルが非常に大きいことだ。現在の業界標準のパネルサイズは1100×1300mmで、次世代のパネルは2200×2600mmになる。このように大きなガラスパネルはスクライビング加工されて多数(100〜200個)の太陽電池に分割され、隣接する電池との電気的相互接続が行われる(図2)。このスクライビングによって、5〜10mmの幅しかない電気抵抗の大きな「ストリップ」が形成され、このストリップが直列に電気接続されることで、電流値が数アンペアの高い出力(数十〜数百W)の発生が可能になる。
 それぞれのパネル加工は標準の厚みが3mmのガラス板から開始する。このガラスは太陽光を透過するためガラス基板と呼ばれる。最初の工程では標準厚みが数百ナノメートル(nm)のTCO(透明導電性酸化物)連続均一層を蒸着する。この層が前面電極になる。次のP1と呼ばれるスクライブ工程では層厚を完全にスクライビングする。その後に全体の厚みが2〜3μmのp型とn型のシリコンを真空蒸着し、さらに、P2と呼ばれるスクライビング工程で、シリコン層を完全に切断する。最後に、背面電極となる薄い(サブミクロン)金属(AlまたはMo)層を蒸着する。このようにして作製されたパネルは、P3と呼ばれる第3のスクライビング加工でパターンを形成した後に、ガラス板を裏面に貼り合わせて封止される。

スクライビングの必要条件

 薄膜デバイスは、経済性を確保するため原価が低い大量生産が必要になる。スクライビングコストを最小にするには、高速の加工スループット(短いタクトタイム)が重要になる。しかし、実現可能な最高の電気変換効率をもつ最終製品を高い歩留りで生産するには、欠陥数が非常に低い高品質のスクライビングを行わなければならない。
 他の多くのレーザマイクロ加工の用途と同様に、分解能と精度も重要になる。とくにP1からP3までのスクライビングは再生不能(つまり廃棄が必要になる)な加工になる。現在のスクライビングは線幅が数十μmのオーダで、P1とP3との間のオフセット間隔は数百μmになる。しかし、それぞれの電池の全幅が10mm以下であることを考えれば、本質的に低い変換効率(バルクSiデバイスの15〜20%に対して6〜10%)を最大化することも重要になり、すでに小さくなったスクライブ領域をさらに縮小することが必須となる。このことは相互にできるだけ接近した狭いスクライビングを最小のオフセットで行わなければならないことを意味している(次世代の製品は25〜30μmの線幅になると予想される)。より近接したスクライビングを行うには、アラインメントから脱線しない直線性の高い切断が必要になる。また、スクライビング欠陥を増加させずに狭いスクライビングを可能にしなければならない。
 太陽電池の変換効率はマイクロクラックや、他の表面や表面下の熱損傷により大きく低下するため、エッジ粗さや層剥離などの切断品質は重要な事項になる。したがって、切断品質を確保することは、最小のHAZ(熱影響層)、滑らかなエッジ、再凝固デブリのない基板のスクライビングを行うための必須条件になる。
 しかし、太陽電池の用途はかなり独自なもので、高精密で高分解能のエッジ品質を非常な高速で実現しなければならない。パネルは連続的に流れる生産ラインで製造される。パネルが一つの工程に滞在できる時間は、小さいパネルでは数十秒、大きいサイズのパネルでも数分しかないと考えられる。この短い時間の中で、それぞれのパネルは数百mのスクライビングを完全に終了しなければならない。数台のレーザを使用する作業台であっても、スクライビングは2m/sの速度になり、それぞれのスクライビングはシングルパスの加工で済ませる必要がある。また、深さの能動制御は現実的ではなく、それぞれのレーザスクライビングの深さは材料の性質によって制約される。
 このことはTCOの数百nmの膜だけを除去すればよいP1スクライビングでは大きな障害とはならない。レーザパラメータに対する要求は厳しいが、従来の1.06μmの近赤外(NIR)の出力をもつQ スイッチDPSS(半導体励起固体)レーザによる方法で加工できる。しかし、P2とP3のスクライビングは厚さが数μmのシリコンの除去が必要になり、P3では金属薄膜のオーバーレイも除去しなければならない。従来の(熱的)材料加工法はシングルパスでの除去は難しく、必要な切断品質と空間分解能を得ることもできない。高速パルス紫外(UV)レーザによる光アブレーションも選択肢にはならない。このようなレーザを太陽電池パネルの加工に使うことは許容しがたいコストになり、さらに重要なことは、材料の選択性がない(つまり深さ制御ができない)ため、すべての材料が剥がれ、ガラス基板にも損傷が及ぶ。
 この問題の解決策は、他の用途のために異なる方法で開発されたレーザリフトオフ加工法だ。この方法は溶融、蒸発あるいは霧化をしなくても、マイクロエクスプロージョン効果によって、すべての材料からオーバーレイ層を完全に取除くことができる。この方法の原理は、ガラス基板の裏面からのスクライビングにもとづいている(図3)。特にP2 とP3のスクライビングは、緑色(532nm)高速パルスDPSSレーザによって行われる。
 この波長はガラスとTCOがいずれも透明なため、光はSiによって強く吸収される。そのため、すべてのレーザパルスエネルギーは界面で捕獲され、Siはシングルパスで完全にリフトオフされる。P2とP3では、P1の場合の集束されたガウスビームではなく、マスク(円形開口)されたビームを使用する。シリコンは熱伝導率が比較的低いため、この高速加工はレーザビームのマスクエッジで決まるきれいなエッジが得られ、周囲のシリコンには熱損傷が及ばない。

レーザの最適化

 太陽電池パネルのレーザスクライビングを経済的な観点からみると、一連のレーザパラメータを厳密に設定して加工工程を最適化しなければならないことになる。米コヒレント社(Coherent)は、これらの重要なパラメータを最適化したNIRと緑色のレーザ、PRISMAシリーズを開発した。
 走査光学系の速度には限界があり、複数のレーザの並列使用が必要になるため、それぞれのレーザ出力に対する要求はそれほど厳しくはならない。P1では最大出力が8WのNIRレーザを使用する。しかし、P2とP3の加工では出力が数百mWの緑色レーザを使用できる。より重要なパラメータはパルスの繰返し速度だ。最大のパネルでは2m/sのターゲット走査速度が必要になるため、必要なホタテ貝状のプロファイルを得るには、非常に大きなパルス繰返し速度(最大で100kHzまたはそれ以上)を確保しなければならない(図4)。
 滑らかなエッジをもつ一定のスクライビングを行うには、安定したTEM00モード出力が必要になる。このようなスクライビングではHAZを最小にするための短いパルスも必要だ。しかし、すべてのQスイッチレーザにはパルス幅と繰返し速度とにトレードオフの関係がある。一定の共振器長を仮定すると、繰返し速度はパルス幅が大きくなると増加し、ピーク出力が減少する。しかし、PRISMAレーザは特別に設計された短い共振器を使うことで、高い繰返し速度(100kHz)と短いパルス幅(<30ns)の組合せを得ることができる。
 これらの新しいスクライビング用レーザの設計は、パルス間の高いエネルギー安定性と非常に高い指向安定性も得られる。必要なスクライビングの一貫性を確保するにはエネルギーの安定性が必要になる。また、指向安定性(<50μrad)からは狭いスクライビング幅が保証される。このような狭いスクライビング幅は次世代パネルで計画されている高密度な間隔の実現にとっては必須になる。このような指向安定性は次世代の大型パネルの実用化において非常に重要になる。大型パネルは従来のパネルよりもレーザビーム伝送光路が長いため、指向安定性が悪いとビームの指向方向の変動が増幅される。
 生産ラインには三つに分かれたスクライビングステーションが配置され、各ステーションで複数のレーザが使用されることを考慮すると、信頼性、使用可能時間、保守容易性なども重要なレーザ特性になる。そのなかの1台でも故障すれば、すべての生産ラインを止めなければならない。また、保守に必要な停止時間を最小にし、予測可能にすることも非常に重要なことになる。
 太陽電池の製造では高い精度が必要とされ、しかもコストの影響を大きく受けるため、レーザの需要が拡大している。この用途には高速加工の必要性に対して十分に最適化された出力が得られ、非常に高いレベルの安定性と信頼性をもって動作するように設計されたレーザだけが対応できる。

図1 a-Si にもとづく薄膜太陽電池はガラス基板アーキテクチャを使用して太陽光を取り入れる。太陽電池の背面はガラス基板を接着して封止されている。

図2 異なる材料が蒸着されたそれぞれの薄膜は、狭いスクライビングを用いてパターンが形成されて、一連の薄いストリップ形状の太陽電池になる。

図3 P1 では集束したNIR レーザ光を用いてTCO を除去する。P2 とP3 ではTCO‐Si 界面の緑色レーザ光の選択吸収性とマイクロエクスプロージョンリフトオフを利用してSiを除去する。

図4 特殊な技術上の理由によって、均一なホタテ貝状のプロファイルを形成するには、高いパルス繰返し速度とパルス間の安定性が必要になる。これらの画像は、(A)が1064nmのレーザで形成されたP1のスクライビングパターン、(B)が532nm のレーザによるP2のスクライビング、(C)が532nm によるP3のスクライビングを示している。すべてのスクライビングはコヒレント社のPRISMAレーザを用いて行われた。

Cutting記事一覧へmarking & engraving一覧へ

TOPへ戻る

Copyright© 2011-2013 e.x.press Co., Ltd. All rights reserved.