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造船所におけるレーザ

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最新ヨット建造におけるアルミニウムとスチールへのレーザ溶接

 最新の造船(特にヨットと軍用艦艇)においては、剛性、重量、重心位置などの構造特性を改善するために、アルミニウムとスチール(鋼材)の組合せ材料が使用されている。船構造の重心位置は低い方が有利であるため、一般に、船体はスチールから製造され、甲板や甲板室はアルミニウム合金から製造される。
 これまで、これら2種類の材料間の接合は、爆発圧着法によるアルミニウム/スチール合金の形状を利用して(例えばTriclad: www.triclad.com)、構造のアルミニウム側とスチール側のそれぞれに接合させる(間接的な)プロセスで行なわれてきた。しかし、設計とコストの観点から、アルミニウム/スチール接合部を(直接)形成する代替法に関心が集まった。一つの構想として、ヨットの建造において甲板室の側板にアルミニウム/スチール接合部を設ける方法があり、そこでの典型的な材料厚は約3mmになる(図1)。そのような規格化された側壁要素によって、スチールの甲板からアルミニウムの甲板室への転換が可能なはずだ。
 アルミニウム/スチール接合部に対してレーザによる接合加工を施すことによって、これまでに最大2mmの材料厚さ(アルミニウム側)が達成された。この最先端プロセスに基づいて、独ブレーメン応用光線技術研究所(Bremen Institut fur angewandte Strahltechnik:BIAS)は、レーザユーザ、ヨット設計者、造船所などと共同で、約3mm厚のバット接合構造でアルミニウムをスチールに接合させるレーザ/MIGハイブリッド接合プロセスを開発した。

ハイブリッド接合プロセス

 アルミニウム/スチール接合部のレーザビーム接合プロジェクトにおいて、CO2レーザ/MIGハイブリッド接合プロセスを採用した(図2)。このハイブリッドプロセスで得られるレーザビームの高い出力密度によって、キーホール(鍵穴)溶接と高い接合速度が達成された。熱入力が少ないため、結果的に合金相の形成も抑制された。
 MIGトーチは、溶融プールとMIGプロセスで溶融する溶接ワイヤに対するガス封止として機能した。アークのパワー密度がレーザビームに比べて低いため、MIGプロセスは広い溶融プールを生成し、したがって良好なギャップの鋼板の接合とぬれ性が得られた。CO2レーザビームとMIG アークの両熱源は、スチールの溶融を避けるためにアルミニウム板上で板の作業基準面から離して配置した。さもないと大量の脆い合金相が形成し、結果として接合全体の強度が低下する。このプロセスは、先行するレーザをアークが後から追う方式で設定された。
 アルミニウムベースの溶接ワイヤ(AlSi12)が溶融体積を増すために用いられ、そのことによってスチール側のぬれが増し、溶接線の熱クラックの発生が低減する。もう一つの利点は、溶接線へのシリコンの合金化であり、これは接合領域の強度を改善し、合金相の形成を制限する。両板の作業基準面間のギャップを0〜1mmの範囲で変えても、満足できる結果が得られた。スチール上の溶融アルミニウムの良好なぬれ性を得るためにフラックスを接合層のスチール側に塗布した。これによって酸化物層が崩壊し、融液の表面張力が減少し、その結果、ぬれが促進された。

実験装置とプログラム

 レーザ/MIGハイブリッド実験は、CO2レーザ、Trumpf TLF 6000を使用して実施された。Abicor BinzelトーチとDalex Vario MIG400L(W)-Bパワーソース(パルスモードで動作)をMIGプロセスに適用した。両方の熱源をハイブリッド溶接ヘッド内で結合し、アークはレーザの5mm背後に、レーザビームに対して35 °傾けて設定した。封止ガス(アルゴンとヘリウムの混合物)はMIG トーチを通して供給した。高出力のCO2レーザプロセスでは、純アルゴンを用いると封止プラズマが形成する可能性があるため、ヘリウムが必要であった。アルゴンは、ルート保護の目的で供給した。
 接合実験をAA 6056(3.6mm)とSt22(3mm、亜鉛メッキなし)の材料の組合せで実行した。AlSi12(直径1.2mm)を溶接ワイヤとして使用した。接合に先立って、板を50mm幅、400mm長の細片に切断し、さらなる開先加工は行なわなかった。板をアルコールで洗浄し、フラックスをスチールに塗布した。変化させたパラメータは、ギャップ、接合速度、ワイヤ送り速度(結果としてのアークパワー)、並びに接合パートナー(オフセットレーザ/オフセットMIG)のエッジに相対的なレーザスポットとアークの位置である。接合実験後、すべてのサンプルの金属組織学的分析と静力学的試験を実施した。

結果

 溶融アルミニウムは、鋼板(処理中は溶融しない)を接合部の上面と底面から濡らした(図3)。上面では、約2mmのぬれの長さが達成されたのに対して、底面でのぬれの長さは約1.5 mm以下であった。すべての接合部に見られた深刻な多孔性の原因は、フラックスの使用にあると考えた。このことは、鋼板と継ぎ目表面に近いところで孔の量とサイズが大きくなるという事実によって裏付けられた。しかし、フラックスなしでは、ぬれの長さがかなり短く、不規則になるため、多孔性の発生にもかかわらずフラックスを使用せざるをえなかった。
 図3の作業基準面に示されるように、スチールとアルミニウムとの間の界面に沿って合金相層が形成された。接合部の合金相層の厚さは1〜3μmであり、最も厚い層は溶接線の上側に発生した。
 他のパラメータをすべて一定にしてレーザパワーとワイヤ速度の影響を見ると、鋼板のアルミニウム融液によるぬれ性は、観察によりレーザパワーとワイヤ速度を高くするにつれ増加することが明らかになった。高ワイヤ速度の場合には、溶融体積の増加によってぬれ性が改善され、レーザパワーを高くした場合には、高い入力熱によって起きる大きな溶融体積によりぬれの長さが増大した。
 さらに、合金相層の厚さとレーザパワーおよびMIGプロセスのオフセットとの間に強い相関が存在した。ぬれが長くなるのと同様に、レーザパワーを高くすると合金相層の継ぎ目が厚くなった。これは高い入力熱によって温度が高くなり、接合パートナーの拡散率が増大したためである。同じ現象が、鋼板に対するMIGプロセスのオフセットを小さくした時にも観察された。特に、スチール側の温度が高くなり、合金相の形成が促進された。
 最終的に、このアプリケーションで最も重要な、アルミニウム/スチール接合の引張強度の接合速度とワイヤ速度の依存性を考察した。引張強度の増加は、接合速度やワイヤ速度を遅くすることによって得られた。接合速度を遅くすると、アルミニウムが深くまで浸透し、接合部の下側における鋼板のぬれ性が改善された。ワイヤ速度を速くすると、アルミニウム融液が多くなり、ぬれ性が良好になった。しかし、ワイヤ速度を上げると、MIGプロセスに必要な入力熱が多くなるため、合金相層が厚くなり、接合強度が低下した。
 一連の実験において、接合の引張強度は最高140MPaに達した。スチールの溶融や接合部の上側だけのぬれなどの不適切な接合の場合は、かなり低い強度が測定された(図4)。スチールの溶融は小さすぎるレーザオフセット(0.1mm)によって起こり、不十分なぬれは3kWの低すぎるレーザパワーによって起きた。全3個の試験サンプルの欠陥は、合金相層に沿って接合の表側に発生した。ぬれが不十分な場合やスチールが溶融した場合の引張強度はわずか約60MPaであった。
 これらの結果から、100MPa以上の強度をもつサンプルを生産するためには、二つの重要な影響を考慮する必要があることが分かった。スチール側の溶接線のぬれを長くして、合金相層の厚さを最小にすべきである。しかし、両特性をパラメータの変更よって同時に最適化することはできない。高い入力熱または小さな熱源オフセットの場合、合金相層形成とぬれが増大した。それゆえ、例えばレーザパワーを下げて合金相を減少させようとすると、同時にぬれの長さも減少した。
 これらの基本的な検討に基づき、アルミニウムとスチール(3+3mm、1mの継ぎ目長)のデモ形状の接合を行なった(図5)。この試行において、図1の構想による上甲板室の側壁要素を首尾よく実現できた。こうして、造船アプリケーションにおけるアルミニウムのスチールへの接合の実現可能性の実証に成功した。
 レーザ/MIGハイブリッド溶接プロセスの利用によって、突き合せ継手配置(厚さ3mmまでの板)でのアルミニウム/スチール接合部の接合に成功した。アルミニウム側を溶融することによって、それ自身は溶融しないスチール側のぬれが得られた。合金相層は鋼板の作業基準面に沿って形成された。

プロセスの理解

 プロセスの理解を深めるために、接合特性へのプロセスパラメータの影響を調べた。熱入力の増加にともない、ぬれの長さと合金相層の厚さが増加することが確認された。接合部の静的強度を考察し、強度はぬれの長さを増し、合金相層の厚さを減らすことで増大することが確立された。したがって、入力熱を最適化するためには、二つの相反する傾向の最適妥協点を見つけることが重要である。
 この研究の範囲では、最高140MPaの静的強度が達成された。現在の造船で使われている、いわゆるTriclad方式に比べて、これは著しい改善を意味する。これらの結果に基づき、ヨットの上甲板室のデモ形状を産業環境で生産することに成功した。こうして、このプロセスと製品の潜在的アプリケーションを首尾よく実証できた。次のステップは、エンドユーザと船級協会とともにこのプロセスの資格認定を取得することだ。

図1 アルミニウムをスチールに溶接する構想

図2 CO2 レーザMIG ハイブリッド接合プロセスを用いて、バット接合構造でアルミニウムをスチールに接合する板配置とプロセス設定を図式的に示した。

図3 アルミニウム/スチール接合部の断面:接合スピード3m/min、ワイヤスピード8m/min、レーザパワー4kW、オフセットレーザ0.5mm、オフセットMIG0.5mm、ギャップ間隔0mm。

図4 各種アルミニウム/スチール接合部条件における引張強度。このダイヤグラムは、図3 のサンプル、大量の合金相を含むサンプル、スチール側の上部のみぬれているサンプルの平均引張強度の比較である。

図5 アルミニウム/スチールのデモ形状(ヨット建造における上甲板室要素のプロトタイプ)

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