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精密工学

ミングイ・ホン

レーザは微細加工からナノ加工までの次世代製造技術において重要な役割を果たす。

 精密工学は重要な製造技術の柱として、われわれのライフスタイルの方向付けをしている。そのわかりやすい例は、1956年にIBMによって導入された情報ストレージ用のハードディスクだ。RAMAC 305(50枚の24インチディスクに約4.4MBの情報が記憶された)は1957年に約16万ドルの購入価格に相当する月当たり3200ドルの使用料でリースされた。現在では5GBの1インチディスクドライブならば米シーゲイト社から100ドルほどで簡単に購入できる。過去50年の間に、メガバイト当たりのディスクドライブの価格は200万分の1になり、記憶密度は約1億倍に増加した。その結果、当初は巨大なスペースが必要だったコンピュータの使用は家庭でも可能になり、ノートパソコンが普及した。今では数千曲をiPodにダウンロードして、移動しながら音楽を楽しむことができる。また、3次元(3D)カーナビゲーションは街路の景観情報を記憶できるため、知らない場所のドライブも難しいことではなくなった。膨大なビデオ番組を小さなデータストレージプレートに高速受信すれば、ノンストップ・エンタテインメントのビデオ・オン・デマンドシステムを構成できる。これらのすべての能力は機能性微細/ナノ構造を低いコストで製造できる先進精密加工技術から生まれている。レーザには他の精密加工法にはない独自の利点があり、さまざまな製品の製造技術において重要な役割を果たしている。

レーザによるシンギュレーション加工

 ウエハを個別チップに切り出すシンギュレーション(個片化)加工は、200億ドルの市場規模をもつマイクロエレクトロニクスの生産ラインの重要な工程だ。そこでは8インチまたは12インチの1枚のウエハから数千個のICチップが切り出される。スマートカード、埋め込み型医療デバイス、セキュリティ/キーレス入力システム、モバイルコンピューティング、軍用と航空宇宙用の応用などの需要に牽引されて、ウエハ産業は携帯電話、その通信基地、PDA、インターネットルータなどに使われる大規模メモリや3D実装用の超薄型基板の大量生産へと移行している。この動きは、現在のダイアモンドソーによるダイシング技術に対して、きわめて厳しい状況をもたらしている。ダイアモンドによるダイシングはウエハ上を走行する金属板が高速回転する際に、薄いウエハに亀裂やチッピングが発生し、デバイスの故障の原因となる。一方、ガラス、サファイア、ダイアモンド脆性基板、ガラス/シリコン(Si)/ガラス多層デバイス構造などの難しい基板の切り出しでは技術的な挑戦が必要になっている。
 パルスレーザアブレーションはレーザビームを数マイクロメートル(μm)径に強く集光して、基板材料の爆発性除去を高速で行う加工法だ。パルスの持続時間が短く、光吸収深さが浅いため、熱影響部(HAZ)は数十μmの範囲に抑えることができる。蒸気レーザアブレーションやポケット走査などの新しい加工法を使うと、パルスレーザ照射は薄いGaAsやSi基板(50および100μm)の高品質シンギュレーションが最大100mm/sの速度と20μmのシンギュレーション幅で可能になる。また、一定のきれいな角をもつガラス基板や均一断面をもつチップスケールボールグリッド(CSBG)の多層構造の高品質微細切断も実現できる。図1は技術的に成熟し、コスト効果にも優れているマイクロエレクトロニクス産業用の355nmと532nm のDPSS(半導体励起固体)Nd:YAGレーザによるシンギュレーションの結果を示している。

レーザによるディスクタギング

 データストレージ製品の品質管理の場合、製造したハードディスク製品はライフサイクルにわたるトラッキング試験が必要条件になる。コスト効果も高い重要な製造試験では、ディスクの片方の面が試験に通らなくても、もう一方の面が使用される。ハードディスクメーカーの長期にわたる課題は、製造番号と名称を超平滑で汚れのない磁気メディア上に、どのようにして標識付けするかであった。技術的な課題は、高密度記録に必要な約10nmの非常に低いフライングハイトが要求されることにある。また、新しいプロセスは高いクラスのクリーンルームの製造環境に適合しなければならない。従来のレーザマーキングのプロセスは基板材料を除去してコントラスを確保する方法を利用している。しかし、この方法は製造環境に汚染をもたらす。一方、レーザによるディスクタギングは、レーザを多層薄膜構造に照射する際の熱吸収とエネルギー損失の違いを利用してコントラストを生成する新しい方法にもとづいている。この新しい技術は商業化に成功し、現在は多数のレーザディスクタギング装置がハードディスクメディアの生産ラインに使われている。この新しいレーザマーキング法は、新しい加工法の設計によって、その他の基板デバイスを非接触マーキングする方法としても、多くの用途を見出している。

フェムト秒レーザによるパーフォレーション

 パルスレーザアブレーションは、生物医学用途の基板表面上に小さな構造を作製する独自の技術としても利用できる。生体分解性のポリカプロラクトン(PCL)膜は人間の体内に入ると2週間ほどで吸収される。生体組織工学の新しい応用を開発するには、PCLを2軸方向に延伸して、数μmの膜厚にする必要がある。生体分子/細胞が付着するように濡れ性を改善する方法としては、化学処理とニードルパーフォレーション(ミシン目加工)の二つがある。しかし、化学処理による方法はバルク薄膜が化学薬品によって劣化し、ニードルパーフォレーションによる方法はPCL膜を培養液に入れた際に、ポリマフラップをもつ穴を通したパンチングが不完全になる。
 フェムト秒レーザを使うと、小さなスルーホールアレイを穴あけできるため、PCL膜の製造が可能になる。超短パルス持続時間のレーザによる照射は、熱影響を防いで高分子薄膜に加わる熱を制御することができる。レーザ加工したPCL膜は細胞培養中の生体分子の固定に適した親水性が得られる。コンピュータ数値制御(CNC)プログラミングの柔軟性を利用したレーザ加工による各種の輪郭の幾何学的デザインは、特殊な生体組織工学の要求を満たすことができる。また、レーザパーフォレーションと溶接を用いためくら穴の製法は、わずか数μmの小さなサイズのナノ薬品粉末カプセルを作製する新しい方法にもなる。これらの小さな装置は、適切な薬物デリバリー機構によって疾病の治療に必要な目標の場所に配送される。カプセル外部の生体分解性PCL薄膜は吸収され、その場所でナノ薬品粉体は放出される。この方法は副作用が少なく、より大きな効果が得られるため、治療を受ける患者にはメリットがある。図2はPCL膜およびフェムト秒レーザによるパーフォレーションで作製しためくら穴を示している。

技術開発

 マイクロ/ナノデバイスでは産業界からの小型化、高速化、高機能化の要求が継続して増している。そのため、ナノ加工技術では、サイズを100nmまで縮小することが不可避になっている。電子ビーム(EB)加工や集束イオンビーム加工に比べると、レーザ加工には低いコストや空気中/真空中/化学環境で高速加工が可能という利点があり、特に、生産ラインに柔軟に導入できる特長がある。回折限界に達した技術の壁を破るために、安定な紫外(UV)や可視光源の開発への関心が世界中で高まっている。以下はわれわれの研究所が開発したレーザ加工法のいつかの例を示している。㈰ 走査プローブ顕微鏡法(SPM)のチップと基板表面とのギャップに532nm/7nsのNd:YAGレーザビームを導入した。このチップで表面を走査して、分解能10nmのナノ線とナノ文字を金属とフォトレジストの表面に形成できた。ナノ線の深さと幅はチップの先鋭度、走査速度/時間、レーザフルエンスなどの多数の因子に依存し、そのレーザ/SPM表面ナノパタニングの機構はまったく複雑であった。レーザ照射時のSPMチップと基板表面ではレーザエネルギーが吸収され、加工する基板表面には熱膨張が誘起される。その他に考えられる機構としては、レーザを照射したときのチップがアンテナとして機能することがある。このアンテナによってチップ下の電場は増強され、表面材料はエッチングされて、ナノパターンが形成される。

図3(a)は薄膜表面に書き込まれた400×400nmの「DSI」文字の原子間顕微鏡(AFM)像を示している。㈪ 400nm/100fsのレーザを近接場走査光学顕微鏡法(NSOM)のファイバチップに伝送し、フォトレジスト被覆基板に集光して、その表面のナノパターニングを行った。NSOMの開口サイズは約50nmであった。チップと試料の距離は、音叉によるせん断力検出フィードバック法を使って、数十nmに調節した。NSOMチップからのレーザビームはエバネセント波として射出するため、距離が大きくなると急速に減衰する。そのため、試料の近接場加工では非常に有用だ。開口サイズとプローブ‐基板距離が小さいときのNSOMは従来の遠方場回折の限界を克服でき、サブ波長サイズのパターンを形成できる。

図3(b)は入射レーザパワーを変えて形成したナノ線アレイを示している。レーザとNSOMとを組み合わせ、レーザパワーと書込み速度を精密に調整することで、20±5nmの線幅をもつナノ線アレイを形成できた。このような高分解能は新しい機能性ナノデバイスの製造に使われるEBリソグラフィの分解能に匹敵する。また、これらの小さなナノパターンの空気中での形成は、近接場での光照射によってのみ実現できる。EBリソグラフィの分解能が劣化する電磁波干渉の影響も受けない。多重NSOMファイバチップを設計し、フェムト秒レーザとNSOMとを組合せると、高速表面ナノ構造加工用の並列ナノリソグラフィも可能だ。㈫ マスクとして自己集合した1mmの透明粒子を通して、パルスレーザ照射による基板表面へのサブ100nmナノ構造の形成を行った。これは粒子と基板との接触面近傍でのレーザ光強度の増強にもとづいている。粒子と基板との距離は光波長λよりもはるかに小さく、粒子サイズはλないしはそれ以下のため、粒子を通した基板へのレーザ照射では、遠方場に集光する球面レンズの場合とは異なり、近接場における光共鳴効果が生じる。ミー理論によるシミュレーションの結果、266nmのレーザと500nmのレーザでの光強度は粒子の中心で50倍に増強されることが分かった。ナノパターンのサイズはレーザ加工パラメータばかりでなく、粒子直径とλにも依存していた。

図3(c)は透明粒子によるアプローチで形成されたナノホールアレイを示している。㈬ 大面積の周期ナノ構造を高速で作製するためのレーザ干渉リソグラフィでは、コヒーレント光を使って、フォトレジストに記録できる水平方向の定在波パターンを遠方場に形成する。2ビーム干渉法の場合は、この定在波にもとづく数分のレーザ光による露光によって格子パターンが形成される。格子周期は光波長と2本のレーザビームの交差角に依存する。格子サイズはレーザのコヒーレント長で決まる。試料を90°回転し、第2の露光を行うことで、レジスト上の格子パターンは規定される。このナノ構造は化学エッチングとリフトオフの工程後に基板上に転写される。この構造は高密度データストレージのパターン化された媒体、マイクロろ過とサブミクロンパーフォレーション膜用のマイクロふるい、自己組織化と電界放出によるフラットパネルディスプレイ用のテンプレートなどへの多数の応用を期待できる。

図3(d)はレーザ干渉リソグラフィ法で作製したナノ構造の走査型電子顕微鏡(SEM)像を示している。㈭ レーザナノインプリンティングは非接触の多重ビームを使うマスク不要のナノリソグラフィの技術だ。レーザとAFM、NSOMおよび透明粒子を組み合わせてサブ50nmサイズの形状が実現されている。この方法の加工速度は非常に遅いため(μm/s台)、産業への応用は制約されている。そこで、マイクロレンズアレイ(MLA)を通したレーザ照射によるレーザナノインプリンティングを検討した。MLAはレーザビームを数千の小さな焦点に変換できるため、大きな領域の全面に小さな構造を均一かつ高速に作製する「光のペン」のアレイ(多重ビーム)として機能する。MLAは多数のマイクロレンズが基板上に形成されているため、この方法は非接触の並列レーザインプリングを遠方場で行う加工法になる。

図3(e)は直径23μmのMLAを使い、800nm/100fsのレーザを照射してGeSbTe薄膜に作製した電界放出トランジスタ(FET)構造の光学画像を示している。レーザ照射中の基板の移動はCNCプログラム制御のナノステージで行った。この方法はマスク不要のナノ加工法のため、フォトマスクを作製するための数十万ドルの費用を節約できる。図に挿入した拡大画像は1×1cmの領域に3分間で形成した20nmのゲート幅をもつ16万個のFETの一部を示している。

図3(f)は248nm/30nsのKrFエキシマレーザの単一パルス照射で形成したさらに小さなMLA パターニングによるサブ80nmドットアレイを示している。レーザナノインプリンティングは非接触、多重ビーム、マスク不要の加工法なので、他のナノ加工技術に比べるとはるかに大きな可能性があり、近い将来の大面積で高速のナノ加工法として実用化されるであろう。

図1 GaAs とSi の薄いウエハ、ガラス基板およびCSBG IC パッケージのレーザシンギュレーション。

図2 フェムト秒レーザパーフォレーションで形成された(a)PCL 膜と(b)めくら穴。

図3 (a)レーザ/AFM、(b)フェムト秒レーザ/NSOM、(c)レーザ/透明ナノ粒子、(d)レーザ干渉リソグラフィ、(e)( f )レーザナノインプリンティングで作製された表面ナノ構造。

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