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自動車内装部品の加工

フランク・ゲブラー

小型CO2レーザと革新的ロボットシステムが皮革製品からプラスチック‐カーボンファイバ複合製品までの各種材料の加工に使われている。

 炭酸ガス(CO2)レーザには自動車の製造に使われてきた長い歴史があり、その利用は厳しい条件の車体溶接の用途から始まった。しかし過去の10年間に、出力特性が改善された小型の封じ切り型CO2レーザが出現し、また、より精巧なロボットシステムが開発されたことによって、レーザは非金属系材料、特に自動車の内装部品の高精度加工に使われるようになった。ここでは、最近の高精度自動車製造へのいくつかの応用およびそれらに使われるレーザとロボットの技術をレビューしてみる。

用途からの要求

 新しい自動車の内装部品(ダッシュボード、コンソール、ドア、ヘッドライナなど)の多くは多数の個別パネルから構成されている。これらのパネルは複雑な3次元(3D)形状で、光源、制御器、スピーカ、指示器などに合せた多数の穴をもつ場合が多い。パネルの構成にはさまざまな材料が使われ、その多くには繊維、天然皮革、合成皮革、各種プラスチックおよびカーボンファイバが使われている。さらに、これらの材料は繊維とカーボンファイバなどの多層の組み合わせになっている場合もある。
 通常のパネルは、まず基本形状が製作され、次にエッジのトリミングと穴あけ加工が行われる。トリミングと穴あけ加工に使われるすべての技術はいくつかの要求を満たす必要がある。何よりもまず重要なことは、この加工はその最終製品が消費者に受け入れられるために必要な表面特性で仕上げなければならない。これは、実質的には部品の最上層の色や外見には顕著な変化が少しでもあってはならず、加工したエッジにはデブリがなく、手触りもよくなくてはならないことを意味している。この比較的コストに敏感な用途では加工のスループット(処理能力)も重要で、通常は毎秒数十cmの加工速度が要求される。最後に、複数交代制の操業に使われることも多く、稼働時間も重要になる。
 自動車の内装部品の用途にとって、レーザはさまざまな意味で理想的な加工手段になる。つまり、加工部品に応力を与えない非接触な工法であり、工具の交換による休止時間を実質的に必要としない。対照的に、機械を使う切断は工具の磨耗による制約があり、工具の交換による休止時間が必要になる。また、ウォータジェットを使う切断はスループットが遅いことによる制約がある。レーザ加工はより小さな形状の製品生産が可能であり、機械切断機などの代替技術よりも厳しい公差が得られる。レーザには深さを限定した切断(めくら穴や部品の限定された深さまでの切断)が可能であるという利点もある。

封じ切り型CO2レーザ

 CO2レーザの赤外出力波長は有機材料やその他の内装材料の高速加工に非常に適している。しかし、これらの用途にとって従来の軸流型(ガスフロー)CO2レーザは経済的でない。このレーザには、高いパワー故に広く使われている材料(特に有機材料)に炭化や変色を引き起こすという欠点がある。さらに、高いパワーのレーザは、より精密な加工に必要なビーム特性が得られず、操業コストも比較的高くなる。そのため、CO2レーザの非金属材料への応用は小型の封じ切り型レーザの技術が成熟するまでは十分に発展しなかった。
 完全に封止された共振器をもつCO2レーザは、保守をしなくても数千時間にわたって使用できる。また、RF放電技術とスラブ放電配置などの新しい共振器を使うことで、要求に対応可能な優れた出力特性をもつパルスを直接発生することができる(これは穴あけやその他のストップ/スタート加工にとって重要な利点になる)。また、これらのパルスは立ち上り時間が高速なので、有機材料のHAZ、つまり炭化が最小になる。さらに、きつい折畳み共振器やスラブ共振器が使用できることは、これらのレーザが非常に高い出力:寸法比にできることを意味している。その他にも、軸流型レーザよりもはるかに良質のビームが得られる利点がある。その結果、優れた切断品質が得られ、使用可能なレーザ出力をより効率よく利用できる(図1)。最終的に、レーザ装置企業は、すべての産業用レーザのなかで最低のフォトンコストが得られるよう、新しい製造技術と材料の応用開発に重点を置くようになった。

革新的ロボット工学

 自動車の内装部品用の数多くのレーザ関連装置のなかで、CO2レーザはロボットアームに直接搭載される。すべてのレーザガントリー、そして場合によっては加工中の製品も、曲面や変わった形状の部品を加工できるように移動する。しかし、このアプローチには大きな欠点がある。特に、最新のCO2レーザはサイズが比較的小さいが、レーザヘッドの重量によって、アームが移動できる最大速度が低下し、スループットが制約を受ける。また、レーザヘッドを移動させる機械的要求によって、対応可能な最大寸法と重量は制約を受ける。これがレーザの寸法を制限し、その結果、実現可能な最大スループットに影響を与えるレーザパワーの制約になる。
 最近、独イエナオプティック・オートマチジールングステクニク社(JENOPTIK Automatisierungstechnik)とスイスのスタウブリ・ロボティクス社(STAEUBLI Robotics)は共同して、この問題に挑戦し、JENOPTIK-VOTAN C BIM(ビーム・イン・モーション)レーザロボットシステムを開発した。このシステムは数多くの手術用レーザシステムと同様にアクチュエータ動作アームを採用している。具体的には、アームをいくつかの移動可能なモータ付きのセグメントで構成し、それぞれをジンバルミラーで終端している。この配置は、アームが変位または回転の移動をどのように行っても、レーザビームを移動アーム内の固定された位置に保持することができる。レーザはアームの外部に搭載され、静止状態に保たれる。このロボットアームには集束光学系が取りつけられ、アシストガスの供給用とヒューム排出用の配管が内蔵されている(図2)。
 この配置は高速で正確なビーム移動を大きな3D容積(1400×700×500mm)で行うことができる。また、6つの自由度(x、y、z、θ x、θ y、θ z)の移動によって、どのような部品の輪郭にも追随でき、ビームが常に加工中の部品表面の垂直に入射するように、その方向を定めることができる。レーザは静止状態にあるため、その寸法は実質的に制約されず、従って、出力の制約も受けない。
 このシステムは数種類の異なるタイプが入手可能だ。切断用のJENOPTIKVOTANC、エアバッグパネルの事前の柔軟化用のJENOPTIK-VOTAN A、実装用のJENOPTIK-VOTAN Pが市販されている。

応用

 カップホルダ、織物被覆ドアパネル、カバー、差込み具などの部品のトリミングと穴あけ用途に使われるJENOPTIKVOTANC BIMは米コヒレント社の300WのDiamondK-300 CO2レーザが適している。この特殊なコスト効果の高い小型レーザは、優れたビーム品質と高いピーク出力とによって、繊維切断に要求される重要な要件を満たしている。その出力特性からは最小のHAZが得られるため、加工した端部の表面仕上がりも満足のいくものだ。
 計器パネル、ドアパネルおよびハンドルに広く使われているカーボンファイバの部材には、異なる要求がある。一般に、これらの部材は合成皮革や繊維などの肌触りのよい材料で覆う前に加工が行われ、その切断は500Wのレーザで行われる場合が多い。カーボンファイバの部材を切断するときは、加工表面がユーザの目に触れることはないので、表面仕上がりは2次的な問題であり、加工速度が重要な問題になる。また、汚れとデブリのない切断ができることも重要になる。コヒレント社のDiamond K-500レーザは立ち上がり時間が速く、高いピーク出力が得られ、加工端部の溶融とデブリが最小になるため、この用途に適している。さらに、このパルスレーザはピーク出力が高いため、より高い出力のCW レーザ(コストも高くなる)と同等の切断能力とスループット率を得ることができる。
 JENOPTIK-VOTAN A Compactはエアバッグパネル覆いの事前の柔軟化の用途に使われる。この場合の目的は、エアバッグ組立品を覆う機器パネルの材料を事前に柔軟化して、エアバッグの動作が必要になる場合に、予め定めた手順で破れるようにすることにある。しかし、このようにして傷を付けた機器パネルはユーザの目に触れるため、被覆材料の表面はまったく変化がないように仕上げなければならない。一般に、機器パネルの覆いは皮革あるいは発泡材で裏打ちした織物が使われる。皮革の場合の柔軟化は材料に一連の小さい穴をあけて行われる。織物の場合は発泡材の層がほぼ完全に切断され、その上の織物は実質的に無傷の状態で残される。
 これらの操業を行うために、JENOPTIKVOTANA Compactはコヒレント社のGEM-100のような優れたビーム品質と要求に応じた出力が得られる100WのCWレーザを使用する。このレーザのビームはM2値が低く、小さなスポットサイズに集光できるため、皮革の場合に必要な直径200〜300μmの穴あけ加工と、発泡材裏打ち織物に必要な精密深さ制御による狭いスリット加工を行うことができる。GEM-100のビーム特性によって、これらの有機材料に、ユーザの美意識に合わない“炭化”がまったく発生しない加工を施すことが可能になる。
 結論として述べると、自動車製造において長い歴史をもつレーザの利用は、非金属のパネルや部材の分野へと拡大を続けている。この拡大にはレーザの性能、所有コスト、信頼性などの改善に加えて、より精巧で小型のビーム伝送システムの登場が貢献している。

図1 軸流型レーザ(上)のピーク出力がスラブ放電レーザ(下)の場合よりも高くなると、実際の切断に利用できる出力は非常に少なくなる(切断しきい値出力は加工する材料に強く依存する)。

図2 JENOPTIK-VOTAN C BIM のアクチュエータアームは、ビームを大きな3D 容積で高速かつ正確に移動でき、6 つの自由度が得られる。

図3 エアバッグの事前の柔軟化では材料に一連のめくら穴を形成して、最上層の表面仕上がりが影響されないようにする必要がある。

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