All about Photonics

Home > Magazine > Articles

関連イベント

関連雑誌

Articles バックナンバー記事

遠すぎる橋はない

マルティン・H ・H ・ダイク

明確なユーザ基盤と強い取引関係が経営の成功の鍵になる。

 「遠すぎた橋」というのは第二次世界大戦の戦いを描いた素晴らしい映画の題名だ。この舞台、オランダのアーネム近郊にある橋は占領できなかったが、ナイメーヘン(Nijmegen)の近くにある橋は占領に成功している。マーケット・ガーデン作戦の戦略計画はあまりにも意欲的すぎた。しかし、意欲的な戦略計画がなければ、成功することもない。このことはナイメーヘン市街地近郊の工業団地にジョブショップをもつリースレーザ社(Reith Laser)にも当てはまる。
 この会社は1989年にジャン・リース氏によって設立された。彼にとっての最初のレーザは米PRC社から調達したBalliu装置に搭載された1.5kWCO2レーザだった。彼らの事業は当時の他の多くのジョブショップと同様に、シートメタル(板金)の2次元(2D)切断だった。その後、1992年には2.5kW CO2レーザの切断装置を購入して非常に成功を収めた。しかし年月が経過すると、シートメタルを加工する従来型のジョブショップもCO2レーザ切断装置を購入して、それぞれの生産能力を拡大した。リースレーザ社にレーザ切断を委託していた一般の機械加工会社も、レーザ切断装置に対して自ら投資することを決定した。その結果、リースレーザ社の初期の成功は一転して難題に変わってしまった。長期契約も解約された。これは同社の強固な財政基盤であった高い予算額の発注がなくなったことを意味する。レーザ切断の幼年時代が終わると、それはあたかも成長した子供のように家を出て行ってしまったのだ。
 そこで、リース氏は戦略を変更して、より需要が多い仕事に絞ることにした。彼は2D切断の仕事から離れることを決めて、従来型のシートメタルのジョブショップと競合しない分野を選択した。まだ新しい装置は十分な仕事量を確保できない時期だったが、同社は切断、溶接および穴あけ加工用の各種Nd:YAGレーザを導入した。その結果、当初のCO2レーザ装置に加えて、同社では7台のNd:YAGレーザが稼動することになった。1台の五軸システムを除いて、従来のジョブショップにとっては大きすぎる製品加工用の大型の作業台がすべての装置に取り付けられた。
 現在のリースレーザ社は精密機械産業、医療産業およびマイクロエレクトロニクス産業から受注している。同社はサービスを提供しているほとんど全ての顧客と長期の協力関係を維持している。同社の専門スタッフと顧客の技術者とが直接接触することは、成功するための重要な要素の一つだ。通常、新しい顧客はリースレーザ社に対して計画の実現に必要な問題の解決策を尋ねる。通常、顧客は実際に抱えている問題を情報共有しようとはしない。しかし、顧客の技術者とリースレーザ社の専門スタッフが問題の情報を共有し、開かれた議論を行うことによって、問題解決が容易になり、コスト効果も大きくなる。リースレーザ社は従業員の教育レベルも比較的高い。リース氏によると、十分な能力をもつ人材の確保は非常に難しい。レーザ装置を扱うには、システムのCNC(コンピュータ数値制御)の理解ばかりでなく、レーザ光学とレーザ材料加工についての十分な理解も必要になる。そこで同社は、社外と社内の両方における教育実習を通して、従業員の能力を高めている。
 リース氏によると、成功するために重要なもう一つの要件は、システムビルダーおよびレーザメーカーとの良好な関係の構築だ。彼は、自身の経験にもとづき、新しいシステムがどのように構成されるべきかについて非常に明確なアイデアを生み出すことができる。その意見に喜んで耳を傾け、特殊な要望を満たすシステムを構築するシステムインテグレータを見つけるには、さまざまな議論が必要になる。新しいシステムを選択する際や、アフターサービスを受ける際のシステムインテグレータの対応は、同社が顧客から信頼できるサービス基盤として要求される目標や能力を実現するために重要だ。
 医療産業やマイクロエレクトロニクス産業の顧客の要求を満たすためには、品質の規制や標準に準拠した対応が必要になる。これは同社が数多くの資格認定を受けて、その認可を得なくてはならないことを意味している。また、厳しい環境規制への対応にも直面している。しかし、リース氏は、これらの規則のすべてに対応して、一般の加工会社やジョブショップに対する高い競争力を確保している。また、ナイメーヘンはドイツとの国境に近いため、国境の向こう側の顧客にもサービスを展開している。
 リースレーザ社の工場の中を歩くと、同社の過去10年の成長がよく分かる。工場内部は装置であふれている。しかし、同社には新しい工場計画があり、今年の年末までに新しい工場に移転する予定だ。新しい工場にはクラス10000のクリーンルームが用意され、顧客に対してより良いサービスが提供される。エネルギー消費を最小にすることにも特別の注意が払われている。
 同社が明確な戦略にもとづいて、新しい目標を選択しながら経営を進めていることは間違いない。リース氏は本物の起業家として、レーザ材料加工技術の開発を進めながら、精密機械、医療およびマイクロエレクトロニクス産業のニーズが立ち上がるのを待っている。ジョブショップが成功するには、従業員の継続的な教育訓練に加えて、レーザメーカーおよびシステムビルダーとの良好な協力関係の構築が重要な要素なのだ。

図1 斜めの穴あけ加工

図2 タービン部品の回転翼の切断加工

図3 ステントの精密切断加工

User Profile一覧へ

TOPへ戻る

Copyright© 2011-2013 e.x.press Co., Ltd. All rights reserved.