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速いだけではない——超高速ファイバレーザ

ミシェル・ストック

拡大する微細加工の用途が産業用フェムト秒ファイバレーザを要求している。

 これまでの超高速レーザは、利得媒質として優れた性質をもつTi:サファイア結晶にもとづく固体レーザ技術を使って生産されてきた。その代替技術として、希土類元素をドープした超高速光ファイバレーザが15年以上も前に開発され、他の超高速レーザよりもロバスト性と信頼性に優れた産業用途に適した小型のレーザ光源として設計されてきた。この技術の副次的な利点は、固体を使う技術に比べると、より高い繰返し速度(100kHzからMHz)が中程度のパルスエネルギーで得られることだ。

材料加工

 著しく高いピークパワーと短いパルス持続時間をもつ超短レーザパルスによって、非常にきれいなアブレーション特性が実証された。このようなレーザパルスを使うと、熱拡散などの熱影響が生じる前に、材料はすばやくイオン化されて蒸発する。そのため、レーザパルスがエネルギーを材料中に蓄える短い時間内に、ターゲットの照射された領域内のエネルギーが周囲の領域に伝播して失われることはない。これによって、加熱とイオン化がほぼ照射領域だけに局所化され、アブレーションのしきい値が低くなる。また、加熱されて蒸発した物質はターゲット材料の隣接領域が加熱される前にすばやく除かれてしまう。その結果、ナノ秒(ns)レーザ光源の熱プロセスにもとづくアブレーションとは異なり、熱影響と熱衝撃を受ける帯状の部分が減少する。溶融と再溶融が起きる材料の部分が少なくなるため、再凝固が減少し、アブレーション領域の周囲に撒き散らされるデブリも少なくなる。
 24時間休む間もない超短レーザパルスによる産業用レーザ微細加工の需要に応じて、米イムラアメリカ社は100kHzと5MHzの間の繰返し速度で動作するイッテルビウム系ファイバチャープパルス増幅レーザを開発した。この超高速レーザは、高い繰返し速度の要求と、アブレーションしきい値やその近傍での作業に十分なパルスエネルギーの要求とのバランスを確保しながら、周囲温度、衝撃、振動などの工業標準を満たしている。パルスエネルギーは数多くの加工プロセスにとって十分な、1〜10μJが得られている。
 加工速度と加工の品質は、より高い繰返し速度のμJ レベルのレーザを用いることで改善される。図1はガラスに加工した直径50μmの円環を示している。左から右への赤い矢印で示すように、レーザパルスを100μJと1kHzの組み合わせから4μJと100kHzの組み合わせに変えることで、加工品質は連続的に改善される。高いパルスエネルギーと低い繰返し速度(図1左)では、ガラス表面の加工領域を囲む目立った損傷と不十分なエッジ品質が現われている。パルスエネルギーを4μJに落とすと、表面損傷は消えるが、切断エッジの品質には粗さが残っている。パルスエネルギーを維持しながら移動速度を遅くすると、エッジは滑らかになるが、全体の加工時間は1.6〜50秒になる。100kHzと4μJを組み合わせた加工では切断品質が改善され、加工時間も0.5秒に短縮されている(図1右)。

屈折率分布の形成

 低いパルスエネルギーとメガヘルツの繰返し速度で動作するフェムト秒ファイバレーザを使うと、ガラス中に通信やセンサデバイス用の低損失導波路を容易に作製できる。導波路の作製には屈折率分布の形成が必要になるが、いくつかの材料では波長1μmの出力を使うことでそのまま形成できる。その他の材料では標準的な波長変換結晶を用いて周波数2倍化した第2高調波の出力を使うことで良好な結果が得られる。1MHzの第2高調波出力(522nm)による導波路が溶融石英の内部に作製された。屈折率分布を形成する領域のサイズは、平行移動ステージに載せたガラスの移動速度を変えて導波路を書き込むことによって調整することができた。1MHzと1kHzの繰返し速度で書き込まれた導波路の分子構造の違いを示す比較試験を行い、その結果、繰返し速度が高いと欠陥の発生が減少し、屈折率変化は大きくなることが分かった。
 フェムト秒パルスを微細加工に用いると、二つのガラス片の露出していない界面におけるガラス表面の接合が可能になる。これは接合面を露出しなければならない通常のレーザ溶接法とは異なる接合法だ。フェムト秒ファイバレーザからの低いパルスエネルギーと高い繰返し速度を用いたガラスの溶接が実証された。この溶接プロセスはガラスに結合するエネルギーの非線形吸収も利用するため、比較的すばやく、しかも簡単に実行できる(図2)。このような溶接法は微小流体デバイスの開発にも有効であり、ガラス以外の誘電体材料で作製することも可能だ。
 電子デバイスの生産にはウエハのスクライビングが不可欠になる。レーザスクライビングをダイヤモンドスクライビングの代替手段にすると、きれいで応力のない優れた結果を得ることができる。生産に必要な高速の加工時間を実現するには、高い反復率でのレーザスクライビングが必要であり、ウエハや基板が薄くなると、より高い精度が必要になる。移動体用の電子回路やICカードなどに使用されるシステム・イン・パッケージ(SiP)の用途では、より薄いシリコンウエハが必要になる。従来のダイヤモンドブレードの技術を使うと、薄いウエハほど壊れやくなり、ダイシングが難しくなる。速度を遅くしなければ十分な切断品質を確保できない。超高速パルスレーザによるスクライビングは、ブレードでは難しいチッピングやクラック発生などの問題を克服できる技術になる。その他のレーザ材料加工の用途では、図3に示すように、光の偏光状態が加工プロセスの結果に対して重要な役割を果す。走査方向に平行な偏光を使うことで、同じパルスエネルギーと走査速度(20mm/s)の垂直偏光の場合の2倍に相当する50μmの深いスクライブ深さが得られた。表面改質の幅は約12μmであった。

結論

 超短パルス材料アブレーションを利用する材料加工において、より高い精度を必要とする市場は益々発展し、成長を続ける。超高速の超短パルスファイバレーザの増強された加工速度と精度は、そのような市場にとって理想的だ。商品化されたμJレベルのフェムト秒ファイバレーザによって、産業用レーザ市場におけるファイバレーザの利用範囲はさらに拡大するだろう。

図1 パルスエネルギーと繰返し速度を変えて加工した50 μ m の円環は、高いパルスエネルギー/低い繰返し速度と低いパルスエネルギー/高い繰返し速度との比較を示している。

図2 ガラス溶接の方法(a)とその結果(b)。

図3 10μJ のパルスエネルギーを用いた基本波長によるシリコンウエハのスクライブ線の断面画像。

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