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ニーズが高まる光ファイバセンシング・イメージング技術
光波センシング技術研究会が第66回研究会・講演会を開催

August, 4, 2022, 東京--産業の高度化や生活の多様化、社会経済のグローバル化が急速に進む昨今、信頼できる情報を正確に取得して分析・対応するためには、高度なセンシング技術が必要だ。災害救助や交通輸送障害の復旧、それらの予知・予防と安全対策、産業の効率化と自動化、そして医療分野における早期診断や健康管理に至るまで、様々な状況においてAIやデータベース、IoT等の進展と活用の動きが活発化している。このような状況の中、高い精度を持つ光センシング技術は、これまで以上に重要になっており、光波の持つ波長、位相、振幅、偏光、非線形性などの基本となる物理的性質に立ち返った、精度、確度、速度、スケールの限界への挑戦に期待が集まっている。

 応用物理学会・光波センシング技術研究会(Lightwave Sensing Technology Professional Group:LST、委員長:防衛大・田中哲氏)は、1985年に設立された光ファイバセンサ研究会を母体として、1988年に発展的な形で新たに設立された研究会だ。光波センシング技術をいかに社会に役立てるかを目的の一つに掲げ、光ファイバセンシング技術やレーザ光の干渉を利用した精密計測技術、光波ならではの2次元・3次元計測技術、画像処理技術、生体計測技術、超短光パルスや光コム技術を用いた高分解・高精度・高速測定技術などに関し多岐に渡る議論を行い、光応用計測技術の発展に貢献して来た。
 同研究会では、学界と産業界が協力して研究会を推進してきたことで、これまでに多くの応用技術が育まれたとするとともに近年、安全・安心への関心の高まりや産業、医療の進展に伴い、センシング・イメージング技術へのニーズはさらに高まっていると述べている。
 研究会は、組織としては会員制ではなく、研究会運営母体である委員長、常任幹事、事務局から構成されるが、参加は誰でも自由にできる。活動としては、年2回の講演会や応用物理学会での企画シンポジウム開催などを展開、招待講演と一般投稿講演で成り立つ講演会では毎回、光応用計測・センシング分野及びその周辺分野の重要テーマを取り上げ、第一線で活躍するエキスパート達の招待講演の他、一般講演においてはテーマに関連する研究はもちろんのこと、テーマに拘らない最新の光応用計測・センシング分野の研究も募集して、その発表を行っている。

 7月19日(火)と20日(水)の両日、「光ファイバセンシング・イメージング技術の新展開」をテーマに、第66回光波センシング技術研究会・講演会がオンライン開催された。講演会では、光ファイバを用いた新しい計測手法の開発や光ファイバセンサの実装技術の進展状況、光ファイバによるイメージングの新しい提案、光ファイバデバイスや光ファイバ通信技術の新たな展開など、光ファイバに関連する最新技術動向が紹介された。
 すべての講演の一覧を掲載するとなると、それだけでかなりの長文になってしまうので、招待講演の一覧のみを以下に記す。続く次章では、防衛大・和田篤氏の「イントロダクトリートーク」のテーマ、光ファイバセンシングの歴史について、講演論文集をベースにさせていただき紹介する。

【招待講演】
◆複屈折消去ポリマーと光ファイバーセンシング:古川怜氏(電通大)
◆デュアルコム分光法とシングルピクセルイメージング技術を用いた光渦光波の分光特性評価と応用可能性:浅原彰文氏(電通大)
◆ファイバーレーザー光周波数コムを用いたテラヘルツ時間領域分光システムの開発:岡野真人氏(防衛大)
◆デュアルコムファイバレーザー:中嶋善晶氏(東邦大)
◆デュアルコム分光を用いたガス分析技術の開発:大久保章氏(産総研)
◆光ファイバセンシングとデジタルツインへの応用:村山英晶氏(東大)

光ファイバセンシングの歴史を振り返る 
 光ファイバ技術の研究開発は、黎明期においては画像伝送やイメージング技術に対する期待がけん引役となって発展したという。期待されていたのは、遠隔による結像を可能とし、通常の光学機器による照明や撮像機器の持ち込みが難しい環境下における物体イメージングの実現だった。
 1870 年、John Tyndall氏は光を水流で曲げる実験を実施、1880 年代末には、曲がったガラスパイプやガラスロッドに光を通す方法が考案され、この方法を用いた画像伝送の試みが始まった。1930年にはガラス繊維の束を用いた画像伝送の試みも提案された。
 1950年代、光ファイバのコアを異なる屈折率のクラッドで囲むという、光ファイバの基本構造が提案され、光通信に関する研究が盛んに行われるようになった。しかし、当時の光ファイバはまだ損失が大きく、長距離通信には不向きと考えられていたことから、光通信方式として有望視されたのはレーザビームを用いた空間光通信であった。
 1966 年、C. K. Kao氏が「遷移金属を除去した高純度石英ガラスを用いれば損失20dB/km以下の光ファイバの実現が可能」との画期的な提案を行った。そして1970 年、Corningが632.8nmで20dB/kmという低損失石英系光ファイバの試作に成功、これによって長距離通信用に使える光ファイバが実現する。
 光通信用媒体としての光ファイバは世界的に注目を集めるようになり、光ファイバ技術の研究開発は急速に進んで行った。一方で、これが契機となり光ファイバ応用計測や、光ファイバ自体の性状をセンシングに応用する様々なセンサの提案が行われ、光ファイバセンシングという技術分野も一気に形成されて行った。
 その一例が、光ファイバの長さを活かして干渉計の腕として用いるセンシングだ。光ファイバを使用することで、自由空間系では難しい長尺な光路長をコンパクトに用意でき、外部環境から光学系への汚染も防ぐことができる。1976 年には、光ファイバでサニャック干渉計を構成する光ファイバジャイロが、1977 年には、光ファイバ水中音響センサが提案された。
 1976 年、光ファイバ自体の損失、欠損を検査する方法としてレイリー散乱による後方散乱光を利用する手法が提案された。ファイバ中で発生するレイリー散乱の強度と位置を特定すれば、光ファイバの位置ごとの損失や破断箇所などがわかり、ファイバの曲げ損失も検知できるので、曲げセンサとして使うこともできる。
 位相変動も解析すれば歪みなどの計測も可能であり1982 年、光ファイバの欠損検査方法として、ラマン散乱を利用する方法が提案された。1984 年には、自然ラマン散乱強度情報を用いた分布型光ファイバ温度センサが、1989 年には、ブリルアン散乱を利用した歪み分布型光ファイバセンサが提案された。
 1978年には、光ファイバ・ブラッグ・グレーティング(FBG)形成の報告が行われた。アルゴンイオンレーザから高強度の光をファイバ中に入射すると、数分で反射光の強度が増え、反射率は90%近くに到達する。実験では、歪みや温度を変えながらファイバの反射スペクトル測定を測定したところ、長さ1mのブラッグ回折格子の形成が確認された。この現象はその後、ファイバ端面からの反射と入射光が干渉することで定在波が発生、2光子吸収によりファイバの屈折率に恒久的な変調を与えることによって起こるということがわかり、これが所望の条件でFBGを形成する技術の確立に繋がった。
 光ファイバを用いたイメージング・センシング技術は、このように発展を続け、今も新しい要素技術や革新的なイノベーションが継続的に提案され、実用化が進展している。和田氏は、進化を遂げるAIやクラウドサービス、IoTなど、情報化とサイバー空間はさらなる発展を遂げ、情報通信技術との親和性が高い光ファイバセンシング・イメージング技術は、双方の橋渡し役としてますます重要になって来ると指摘している。

今後の活動予定
 同研究会はこれからも積極的に活動を行う計画で、開催するセミナーやシンポジウムなど今後の予定については、下記URLのホームページを参照していただきたい。
https://annex.jsap.or.jp/kohasensing/meeting.html
(川尻 多加志)