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ダイヤモンド共振器を使い小型ラマンレーザを開発

October, 28, 2015, Washington--ダイヤモンドは、その特殊な光学的、物理的特性が研究者やエンジニアによって高く評価されている。
 ダイヤモンドの有望な技術的アプリケーションの最初の実証で、ハーバード大学の工学研究チームは、フォトニックチップで動作可能な小型の新しいラマンレーザを開発した。この光コンポーネントは、ナノスケールのレーストラック形状のダイヤモンド共振器を使い、レーザ光の1つの周波数を全く異なる範囲の波長に変換し、広帯域データ通信や他の多くのアプリケーションへの新たな可能性を開く。
 ハーバード大学Lončar Laboratory, 論文の共著者、Vivek Venkataraman,は、「シリコンチップに集積したダイヤモンドベースのデバイスでラマン発振を初めて観察した。これは、これまでで最小の動作パワーのダイヤモンドラマンレーザであり、オンチップラマンレーザで生成されたの中で最長波長である」と説明している。
 研究チームによると、このデモンストレーションはダイヤモンドが、完全集積フォトニックチップでラマン発振するシリコン以外の第2の材料であることを示しており、短波長と長波長光通信の両方で新たな研究分野を開くことになる。
 通信で利用されている現在のオンチップレーザは、1.55µm付近の狭い波長範囲で動作する。効率的ではあっても、これは光ファイバで伝送可能なデータ量を制限している。より広い範囲の波長で光を伝送し、操作することができれば、拡大する通信のボトルネックの一部緩和に役立つ。
 レーザ波長のこうした変化を達成する効率的な手段は、誘導ラマン散乱(SRS)として知られる光学現象によって得られる。十分な光エネルギーが材料に注入されるなら、入力光のわずかな量が原子振動にエネルギーを失い、特定の低周波数にシフトする。これは低周波シフト波長の増幅となり、それが光共振器と結合するとラマンレーザが実現できる。そのようなラマンレーザはオプティクスではよく知られており、医療機器、化学センシング、通信にアプリケーションがある。
 ラマン発振はシリコンで得られるが、この材料は広い波長範囲で透明ではなく、したがってその利用は特殊なアプリケーションに限られる。それに対してダイヤモンドは、電磁スペクトラルのUV、可視光、赤外で透明である。ダイヤモンドは、ラマン散乱を使って全スペクトル範囲で大きなカラーシフトを可能にする。しかし、ダイヤモンドのラマンレーザは、これまでは巨大キャビティの大きなプレートで造られていた。また、コンポーネントのアライメントに注意が必要であり、動作エネルギーは比較的に高い。こうした要素がチップベースの技術への集積を阻んでいた。
 研究チームは、ダイヤモンドの非常に素晴らしい光学的能力を生かし、フォトニックチップ上にナノスケールの円形ダイヤモンド共振器を設計することで新しいラマンレーザを実現した。
 デバイスは、1つの周波数の励起レーザ光を光導波路に送ることによって動作する。光は数百ナノメートルの共振器を通り、基本的にトラックを跳び出し円形共振器を回転する。
 励起フォトンが絶えることなく共振器に流れ込むと、個々のフォトンがトラックを数百回回り、光強度が強くなり、ラマン散乱が、ストークスフォトンとして知られる低いエネルギーのフォトンを生み出す。これらのストークスフォトンは、今度は異なる色になっており、何度も共振器を回転して、より多くの励起フォトンのストークスフォトンフォトンへの散乱を誘導し、最終的にコヒレントなレーザ光を発振する。その新しいレーザ光は、今度は逆に、前と同じプロセスで共振器から外れ、任意の方向に進み、様々なアプリケーションで利用可能となる。
 ダイヤモンドのマイクロ共振器を実現するために研究チームは、標準的なナノファブリケーション技術を利用した。まず、ダイヤモンド薄膜をシリコンチップ表面にボンディングする。電子ビームリソグラフィで所望のパタンを描き、次に酸素プラズマを使って表面にエッチングを施した。酸素はダイヤモンドと反応して二酸化炭素ガスが発生する、これは蒸発して、その場所に円形共振器パタンが残る。
 「製造工程は極めて単純であり、これにより既存のオプトエレクトロニック技術に簡単に集積できる多様な形状とサイズを作ることができる」とハーバード大学のPawel Latawiecは説明している。
 論文で報告したラマンレーザは、2µm波長で動作する。これは次世代光通信ネットワーク用として確認されている。
 ダイヤモンドは、ほぼ光スペクトル全域でトランスペアレントであるので、実証した動作原理は、別のポンプレーザを使用するだけで、直ちに他の波長範囲に適用できることも研究チームは報告している。