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X線で昆虫の構造の細部を明らかにする

August, 20, 2015, Munich--ミュンヘンの物理学者は、レーザ光で駆動するコンパクトなX線光源を開発した。位相差X線トモグラフィと組み合わせると同システムは、生命体の組織構造の詳細な3Dイメージングを可能にする。
 新しいX線イメージングシステムは、LMU(Ludwig Maximilian University of Munich)、量子オプティクスマックスプランク研究所とミュンヘン工科大学(TUM)が開発したもので、昆虫の翅の微細毛でさえ明らかにする。Stefan Karsch教授とFranz Pfeiffer教授が指導する研究チームが行った実験は先駆的な成果。研究チームは、レーザ光の極短パルスを用いてX線を生み出す最先端の技術と位相差X線トモグラフィを結合し、初めて生物組織を可視化した。結果は、昆虫の外部および内部のクチクラ構造の前例のない詳細な3D可視化である。
 X線は、電子を約1㎝の長さでほぼ光の速度に加速することで生成。これには超短パルスレーザを用いており、パルス幅は約25fs。レーザパルスのパワーは約80テラワット(TW)。一般的な原子力発電所は1500MWの出力を生成する。これまで、そのような照射は、直径数kmの極めて高価なリング加速器でしか生成できなかった。それに対して、新しい研究で軟組織イメージング用の基盤となるレーザ駆動システムは、大学の研究室に容易に収容できる。
 高エネルギーのレーザパルストレインは先ず水素ガスサンプルをイオン化し、正電荷原子核とその電子とで構成されるプラズマを作る。パルスがプラズマを透過するにともない、電子振動が起こる。この電子波が後続の波形状の電界構造を作る。その波に電子が乗っており、電子は急加速される。さらに、粒子が振動を始め、X線を放出する。個々の光パルスがX線パルスを生み出す。このX線は極めて特殊な特徴を備えている。波長は約0.1nm、パルス幅は5fs、空間的にコヒレントである。つまり1つの点光源から出ているように見える。最後の特徴は特に意味深い。X線放射の吸収をベースにした従来のX線写真と異なり、Franz Pfeifferが開発した位相差画像法はX線屈折を利用して、軟組織を含め、対象物の形状を正確に撮像する。イメージングパルスの空間コヒレンスがこの技術の成功にとって重要である。
 新しいレーザベースイメージングシステムにより研究チームは、人の髪の毛の直径の1/100程度の構造を可視化できる。もう1つの利点は、トモグラフィを使って対象物の3D画像を作れること。異なる角度から撮った個々の画像を組み合わせる。個々のX線パルスの後でサンプルがわずかに回転され、約1500のそのような画像がサンプルから撮られ、これらを組み合わせて3Dデータ集合を構成する。
 X線パルスは超短パルスであるので、この技術は、将来的にフェムト秒時間スケールで、あたかもフェムト秒フラッシュで照射されているかのように分子の超高速プロセスを静止画で撮るために使える。
 この技術は、医療アプリケーションで特に注目されている。組織密度の違いを区別できるからである。例えば、ガン組織は健全組織よりも密度が低い。したがってこの方法は、早期の腫瘍検出に使える見込みがある。早期とは、直径1㎜以下で、それが身体に広がって致死性効果を発揮する前の段階である。しかし、この目的では、さらに厚い組織層に浸透するためにX線の波長を短くしなければならない。