コヒレント特設ページはこちら

Science/Research 詳細

NIMS、超分子カーボン材料のパターン化による細胞の分化制御に成功

June, 4, 2015, つくば--物質・材料研究機構(NIMS)国際ナノアーキテクトニクス研究拠点 超分子ユニットの南 皓輔 研究員、有賀克彦 ユニット長と、生体機能材料ユニットの山崎智彦 MANA研究者らは、炭素材料の1つであるフラーレンの柱状結晶を用いて、(1)水面に浮かべ、(2)圧縮し、(3)基板に転写する、というわずか3ステップの簡便な方法で、細胞培養の足場となる材料の表面に、ナノスケールのパターンを形成することに成功した。
 さらにこの足場材料が、筋芽細胞の成長と分化の制御が可能であることを実証した。細胞の分化制御が可能な足場材料を容易に大面積化できる技術として、この研究成果は、再生医療の発展に大きく貢献することが期待される。
 再生医療の実現にむけて、生体組織を生体外で構築するために細胞培養の足場となる材料の開発が求められている。なかでも、細胞の分化を誘導・制御できる足場材料の開発は、生体組織の構築および機能発現において必要不可欠。細胞の分化を誘導・制御する手法としては、生理活性物質などを直接培養液に加える手法が主流であったが、近年、足場材料の表面に小さな溝を一定方向に形成するなど、ナノからマイクロメートルサイズのパターン化した三次元構造を形成することにより、細胞の分化を誘導・制御できることが報告されている。
 効率的に細胞を培養し組織を構築するためには、細胞の分化が誘導・制御でき、かつ、可能な限り大きな面積の足場材料が必要。しかし、これまで足場材料の表面に三次元パターンを形成する技術として報告されてきた、リソグラフィ技術や光架橋ゲル、高分子材料による表面皮膜などは、煩雑な手法や多くの作製ステップを有するなどの課題があり、足場材料の大面積化が困難だった。
 研究グループでは、細胞分化を誘導させる材料として着目されているフラーレンの柱状結晶(フラーレンウィスカー)を用いることで、表面がパターン化された足場材料を、センチメートルスケールの大面積で作成することに成功した。この手法は、フラーレンウィスカーを水面に浮かべ、圧縮することで一列に並べ、基板に転写するだけで、足場材料の表面にナノスケールのパターンを形成することができるという、非常に簡便な方法。さらに、フラーレンウィスカー足場材料は、生体適合性が高く、筋芽細胞を培養すると筋管細胞へと分化が誘導されるとともに、一定方向にそろって成長して行くことがわかった。すなわち、細胞の分化を誘導できるフラーレンを使って、表面が一次元パターン化された足場材料を作製することにより、筋芽細胞の分化と筋組織としての機能化を促進できることが示唆された。
 この研究で用いた手法は、足場材料の大面積化が容易であることから、数cm2~数十cm2の面積を必要とする再生医療での応用が可能。また、この研究で開発した足場材料は、筋肉細胞に限らず、骨細胞や幹細胞の分化も誘導・制御できると考えられることから、これからの再生医療研究に大きく貢献すると期待される。