コヒレント特設ページはこちら

Science/Research 詳細

XFELを利用した計測の時間分解能を大幅に向上

February, 19, 2015, 東京--理化学研究所(理研)放射光科学総合研究センタービームライン開発チームの佐藤尭洋客員研究員(東京大学大学院理学系研究科助教)、矢橋牧名チームリーダーらの共同研究グループは、X線自由電子レーザ(XFEL:X-ray Free Electron Laser)を利用した計測の時間分解能を大幅に向上させる技術を開発し、 XFEL施設「SACLA」での実証実験に成功した。
 XFELは、フェムト秒(fs)レベルの極めて短い発光時間で計測できる能力を持つパルス型の超高輝度X線光源。X線固有の高い空間分解能[3]を活用することにより、物質内部の構造変化や化学反応といった超高速現象を、原子や電子レベルで解明できると期待されている。このような超高速現象の観測のために、ポンプ光とプローブ光の2種類のパルス光を利用して、ポンプ光の照射によって誘起される物質内の高速現象をプローブ光で観察する「ポンプ・プローブ計測法」が広く用いられている。SACLAの場合、ポンプ光として赤外から紫外領域のフェムト秒レーザ(光学レーザ)光を、プローブ光としてXFEL光を利用する。この手法では、ポンプ光とプローブ光の時間間隔(照射のタイミング)を少しずつ変化させながら計測を繰り返すことにより、物質内の高速現象を高精度で追跡できる。ポンプ・プローブ計測法の時間分解能は、原理的にはポンプ光とプローブ光のパルス幅で決まるが、実際には、両者のタイミングをフェムト秒レベルで精密に制御することは技術的に難しく、タイミングの揺らぎが時間分解能を大幅に劣化させていた。
 共同研究グループは、XFEL光を一次元に(一方向のみに)集光できる「高精度X線集光楕円ミラー」と「空間デコーディング法」を組み合わせ、XFELと光学レーザのタイミングを高精度で計測する新しい手法を開発した。この手法によって、SACLAとフェムト秒レーザが持つフェムト秒の短いパルス幅を最大限に活用した計測が可能となる。
 共同研究グループは、XFEL光と光学レーザ光の入射タイミングを計測するため、「高精度X線集光楕円ミラー」と「空間デコーディング法」を組み合わせた手法を開発。高精度X線集光楕円ミラーは、日本独自の技術で作成されたもので、X線を一次元に(一方向のみに)集光することによりXFEL光を高強度化できる。空間デコーディング法は、XFEL光が試料に到着するタイミングを空間情報に変換する手法。この2つを組み合わせることによって、物質の光学レーザ光に対する吸収率が、XFEL光の入射時に変化する現象を効率的に誘起し、両者の入射タイミングを計測する。
 実験では、物質(計測試料)としてガリウム砒素(GaAs)を用いた。光学レーザ光(波長850nm)に対して強い吸収を持つGaAsが、XFEL光が入射したときに光学レーザ光に対する吸収率が変化することを利用した。GaAsへのXFEL光照射が存在しないときには、光学レーザ光はGaAsに吸収されてしまい、検出器(モニター)には到達しない。一方、XFEL光が入射したときには、光学レーザ光に対するGaAsの吸収率が変化するため、光学レーザ光はGaAsを透過し検出器に到達する。
 GaAsを透過した光学レーザ光の右端はショットごとに異なっており、右側にシフトするほど、XFEL光が検出器に到達したタイミングが早いことを表している。この方法によって、SACLAのXFEL光と光学レーザのタイミングの揺らぎを計測し、半値全幅が約260fsであることが明らかになった。
 これまで、X線を集光しない場合にはSACLAのXFEL光の出力を全て利用しても、精度良くタイミングを計測することは困難だったが、一次元に集光することによって、SACLAが発生したXFEL光の一部を取り出した10 マイクロジュール程度のパルスエネルギーでタイミングを計測することが可能になった。
(詳細は、www.riken.go.jp)