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高速量子通信を可能にする新しいディテクタ

February, 6, 2023, Washington--NASAの研究チームは、非常に高速でシングルフォトンを高精度計測できる新しいディテクタを開発した。新デバイスは、高速量子通信の実用化に役立てられる。

量子通信は、シングルフォトンレベルで光を使い、量子カギ配信で暗号キーなど、エンコードされた量子情報を送る。物理法則により、この方法での情報伝送は、フォトンを迅速に検出するとともに、その到着時間も正確に計測できるシングルフォトンディテクタを必要とする。

Optica誌で、NASAのJet Propulsion Laboratory 、Matthew D. Shawをリーダーとする研究者は、フォトンの到着時間を計測する新しいディテクタ、PEACOQ (光量子カウントのための性能強化アレイ)を説明、実証している。

「われわれの新しいディテクタは、シリコンチップ上の32の窒化ニオブ超伝導ナノワイヤでできている。これにより高精度高計数率が可能になる」とポスドク研究者、Ioana Craiciuは説明している。「ディテクタは、量子通信を念頭に設計された。これは、市販のディテクタの性能により制約されている技術領域だからである」。

そのディテクタは、宇宙と地上の量子通信を可能にするためのNASAのプログラムの一環として開発された。これは、将来、大陸間で量子情報の共有を可能にする通信である。この研究は、NASA深宇宙光通信プロジェクト向けに開発された技術に立脚している。同プロジェクトは、惑星間宇宙からの初のフリースペース通信のデモンストレーションとなる。

「現在、同じ時間分解能でこれほど速くシングルフォトンをカウントできるディテクタは他に存在しない。このディテクタが量子通信で有用になることは分かっているが、これまで考えられなかった他のアプリケーションを可能にすると期待している」(Craiciu)。

高速量子通信
量子通信の伝送レートを高速化するには、高速で到着するフォトンと対抗できるように、迅速に計測する受信側のディテクタが必要である。ディテクタは、フォトンの到着時間も正確に計測しなければならない。

「フォトン到着時間を高精度に計測できるディテクタは存在するが、フォトンが立て続けに到着すると着いていくのに四苦八苦しており、フォトンの一部を見逃し、あるいはその到着時間を間違える」(Craiciu)。「われわれは、シングルフォトンが、例え高速でディテクタに到着しても、その到着時間を正確に計測するPEACOQディテクタを設計した。それは効率的でもあり、多くのフォトンを見逃すことはない」。

PEACOQディテクタは、7.5nm厚のナノワイヤでできている。それを極低温、約1ケルビンで動作させると、そのナノワイヤは超伝導になる、つまり電気抵抗がない。超伝導条件下ではワイヤに到達するどんなフォトンでもそのワイヤに吸収される可能性がある。いかなる吸収フォトンもワイヤで検出可能となるように電気抵抗を高めるホットスポットを形成する。タイムデジタイザを備えたコンピュータを使って、その抵抗変化を記録し、したがってフォトンがディテクタに何時到着したかを記録する。

「そのディテクタがフォトンを計測すると、それは電気パルスを放出し、タイムデジタイザが、この電気パルスを非常に正確に計測する、分解能は100ps以下。われわれは、この時間分解能で最大128チャネルまで計測できるタイムデジタイザを設計した。われわれのディテクタが32チャネルを必要とするので、これは重要である」(Craiciu)。

その新しいディテクタを実証するための研究チームは、それをクライオスタットに設置し、それを1ケルビンまで冷却した。チームは、特注のテストセットアップを使い、光をクライオスタット、ディテクタと一連のエレクトロニクスに送った。クライオスタットからのディテクタの出力信号を伝送し、それを増幅して記録するためである。32のナノワイヤがあるので、チームは、32セットの各コンポーネントを使用する必要があった。これには、32のケーブルと32の各種増幅器が含まれる。

前例のないカウントレート
「われわれは、そのディテクタの良好な動作に喜んでいる。それがフォトンを計測するレートは、これまでで最高であった。それは、32のナノワイヤが個別に読み出されるので複雑なセットアップを必要とする。しかし、高レート高精度で実際にフォトンを計測する必要があるアプリケーション向けでは、苦労する価値がある」とCraiciuは言う。

一般に、伝送される量子情報は時計にセットされており、各情報ピースは一つのフォトンにエンコードされていて、瞬時に送出される。レシーバでフォトンの到着時間をいかに正確に計測できるかが、間違えることなく、目盛をいかに近づけられるかを決める。したがって、それは、いかに速く情報を送ることができるかを決める。新しいディテクタは、最先端の時間周波数10-GHzで量子通信を実用化する。

研究チームは、PEACOQディテクタの改善にまだ取り組んでいる。それは、現在約80%の効率。つまり、そのディテクタに到着する20%のフォトンが計測されない。チームは、量子通信実験で使えるポータブルレシーバユニット構築も計画している。それには、オプティクス、読み出しエレクトロニクス、クライオスタットとともに複数のPEACOQディテクタが搭載される。