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ニューラルネット、水中でコンピューティング

November, 10, 2022, Cambridge--スマートフォン、コンピュータ、データセンタのマイクロプロセッサは、固体半導体で電子を操作することで情報を処理するが、われわれの脳は異なるシステムである。脳は、情報の処理のために液体中のイオン操作に依存している。

脳からヒントを得て研究者は、以前から水溶液中の‘ionics’(イオニクス)を開発しようとしてきた。水中のイオンは、半導体中の電子と比べると動きが遅いが、研究者の考えでは、様々な物理的、化学的特性の多様なイオン種をより優れた、多様な情報処理に活用できる。

しかし、イオンコンピューティングは、まだ初期段階である。今日まで、ラボが開発したのは、イオンダイオードやトランジスタなど、個別のイオンデバイスである。そのようなデバイスを、より複雑なコンピューティング回路に統合した者はいなかった。これまでのところ。

ハーバード大学SEASの研究チームは、バイオテックスタートアップ、DNA Scriptと協力して、数100のイオントランジスタで構成されるイオン回路を開発した。これは、ニューラルネットコンピューティングのコアプロセスを実行した。

研究成果は、Advanced Materialsに発表されている。

研究チームは、最近開発した技術から新しいタイプのイオントランジスタを構築することから始めた。トランジスタは、キノン分子の水溶液でできており、目玉レンズのような中心電極を持つ2つの同心リング電極と接続されている。2つのリング電極は、電気化学的に低く、中心ディスク周りの局所pHを水素イオンを生成しトラップすることで調整する。中心ディスクに印可された電圧により電気化学的反応が起こり、ディスクから水にイオン電流を生成する。反応速度は、局所pHの調整により増減、つまりイオン電流の増加または減少が可能である。言い換えると、pHが制御、つまり水溶液中のディスクのイオン転流をゲート制御し、電気トランジスタに相当するイオントランジスタとなる。

次に、ディスク電流がディスク電圧の算術乗算となり、トランジスタをゲート制御する局所pHを表す“weight”パラメタとなるようにpHゲートイオントランジスタを設計した。チームは、これらのトランジスタを16×16アレイに整理し、個々のトランジスタのアナログ算術乗算をアナログ行列乗算に拡大した。局所pH値アレイが、ニューラルネットワークにある重み行列として働く。

「行列乗算は、人工知能のためのニューラルネットワークで最も一般的な計算である。われわれのイオン回路は、完全に電気化学的機械に基づいたアナログ的に、水中で行列乗算を行う」と論文の筆頭著者、SEASポスドクフェロー、Woo-Bin Jungは、説明している。

「マイクロプロセッサは、行列乗算を行うためにデジタル的に電子を操作する。われわれのイオン回路は、デジタルマイクロプロセッサほど速くもなく、正確にもできないが、水中の電気化学行列乗算は、それ自体が魅力的である。また、潜在的にエネルギー効率がよい」と論文シニアオーサ、SEAS電気工学・応用物理学Gordon McKay教授、Donhee Hamは、コメントしている。

現在、チームはシステムの化学的複雑性の強化を考えている。

「これまでに、わずか3から4のイオン種、水素やキノンイオンを利用して水イオントランジスタでゲーティングやイオントランスポートを有効にしてきた。より多様なイオン種を使い、それらを活用して、いかにして処理すべき情報コンテンツを豊かにできるかは極めて興味深い」とJungはコメントしている。

(詳細は、https://www.seas.harvard.edu)