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ニューラルネット、水中でコンピューティング

October, 3, 2022, Cambridge--スマートフォン、コンピュータ、データセンタのマイクロプロセッサは、固体半導体により電子を操作することで情報処理するが、われわれの脳は、異なるシステムを持つ。つまり、情報処理に液体中のイオンの操作に依存している。

脳からヒントを得て研究者は、水溶液の中の‘ionics’開発に長い間取り組んできた。水中のイオンは、半導体の電子よりも動きが遅いが、研究者は、様々な物理的、化学的特性を備えたイオン種の多様性をリッチで、より多様な情報処理に利用できると考えている。

しかし、イオニックコンピューティングは、まだ初期段階である。今日まで、研究室は、イオニックダイオードやトランジスタなど個々のデバイスを開発しただけであるが、多くのそのようなデバイスをコンピューティングのためのより複雑な回路にまとめた者は、今までのところ、誰もいない。

Harvard SEASの研究チームは、バイオスタートアップ、DNA Scriptと協力して、数100のイオニックトランジスタで構成されるイオニック回路を開発し、ニューラルネットコンピューティングのコアプロセスを実行した。
 研究成果は、Advanced Materialsに発表されている。

研究チームは、最近開発した技術から新しいタイプのイオニックトランジスタを構築することからスタートした。トランジスタは、キノン分子の水溶液で構成されており、ブルズアイのような中心ディスク電極をもつ2つの同心円電極でインタフェースされている。2つのリング電極は、水素イオンを生成し、トラップすることで、中心ディスク周りの局所pHを電気化学的に下げ、調整する。反応速度は、局所pHを調整することで、スピードのアップダウンができる、つまりイオン電流の増減ができる。言い方を換えると、pH、つまりゲートが、水溶液のディスクのイオン電流を制御し、電子トランジスタに匹敵なするイオントランジスタとなる。

研究チームは、次に、ディスク電流がディスク電圧の算術乗算になり、トランジスタの局所的pHゲーティングとなる “weight”パラメタとなるようにpHゲートイオントランジスタを設計した。チームは、これらのトランジスタを16×16アレイに構成し、個々のトランジスタのアナログ算術乗算をアナログ行列乗算に拡大した。これはに、局所pH値のアレイをニューラルネットワークで遭遇するウエイトマトリクスとして役立てた。

「行列乗算は、人工知能のニューラルネットワークで最も支配的な計算である。われわれのイオン回路は、水中で完全に電気化学機構に基づいてアナログ的行列乗算を行う」と論文の筆頭著者、SEASポスドクフェロー、Woo-Bin Jungは、説明している。

「マイクロプロセッサは、デジタル的に電子を操作し行列乗算を行う。われわれのイオン回路は、デジタルマイクロプロセッサほど速くなく、正確でもないが、水中での電気化学行列乗算は、それ自体が魅力的であり、優れたエネルギー効率の可能性がある」と論文のシニアオーサ、SEASの電気工学・応用物理学教授、Gordon McKayはコメントしている。

現在、チームは、システムの化学的複雑性を高めることを考えている。

「これまで、われわれはわずか3から4のイオン種水素やキノン分子などを使って水性イオントランジスタのゲーティングやイオントランスポートを実現してきた。より多様なイオン種を使い、処理する情報のコンテンツを増やすためにそれらを活用できるかどうかを検討することはすばらしい」とJungは話している。
(詳細は、https://www.seas.harvard.edu)