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「ナノマグネティック」コンピューティング、低エネルギーAI

June, 2, 2022, London--Imperial College Londonの研究者は、脳のニューロンのように相互作用する微小なナノマグネットを使い人工知能の実行が可能であることを示した。

インペリアルカレッジロンドンの研究者をリーダーとするチームが開発した新しい方法は、人工知能(AI)のエネルギーコストを削減することができる。AIは、現在、世界的に3.5ヶ月毎にエネルギー消費が二倍にする。

Nature Nanotechnologyに発表された論文で、国際研究チームは、ナノマグネットネットワークがAIのような処理を行うために使用できることを初めて証拠した。研究者は、糖尿病患者のインスリン値の予測と制御のような「時系列予測」のためにナノマグネットが使えることを示した。

「ニューラルネットワーク」を使う人工知能は、脳の一部が機能する方法を複製することを目的にしている。脳では、ニューロンが相互に働いて、情報を処理、保持する。ニューラルネットワークを動かすために使われた多くの数学は、本来は、物理学者がマグネットの相互作用を説明するために発明したが、同時にマグネットを直接利用するには難しすぎた。研究者が、データの入力法、情報の出力法を知らなかったからである。

むしろ、従来のシリコンベースコンピュータで走るソフトウエアは、マグネットの相互作用をシミュレートするために使われ、次に脳をシミュレートするのである。現在、チームはマグネットそのものを使って、データを処理、蓄積できる。ソフトウエアシミュレーションの中間を排除し、潜在的に膨大なエネルギー節約となる。

ナノマグネット状態
ナノマグネットは、その方向に依存して、様々な「状態」で出現可能である、ナノマグネットネットワークに磁界を印可することで、入力磁界の特性に基づいてマグネットの状態を変えるが、周辺マグネットの状態にも基づいている。

インペリアルの物理学部研究者主導のチームは、フィールドが通過するたびに各状態のマグネットの数をカウントする技術を設計することができた。つまり「答」が得られる。

研究の共同筆頭著者、Dr Jack Gartsideは、「われわれは長い間、磁気コンピューティングから、データの入力、質問する、答を得る方法に取り組んできた。現在、われわれはそれができることを証明した。それは、エネルギー集約的なシミュレーションをするコンピュータソフトウエアを捨てる方法を開く」とコメントしている。

共同筆頭著者、Kilian Stenningは、「マグネットがどのように相互作用するかから、われわれは必要な全ての情報を取得する。物理学法則そのものがコンピータになるのだ」と付け加えている。

研究チームリーダー、Dr Will Branfordは、「それは、SherringtonとKirkpatrickのソフトウエアアルゴリズムからヒントを得たコンピュータハードウエアを実現するという長期目標だった。従来のマグネットで原子のスピンを利用することは可能ではなかったが、そのスピンをナノパタンアレイにスケールアップすることでわれわれは、必要な制御と読み出しを達成することができた」と説明している。

エネルギーーコスト削減
AIは現在、音声認識から自動運転車まで幅広いコンテクストで利用されている。しかし、比較的簡単なタスクでさえ、AIをトレーニングしてさせるには、膨大なエネルギーを必要とする。例えば、ルービックキューブを解くためにAIをトレーニングするには、1時間走らせるのに2つの原子力発電所に相当するエネルギーが必要だった。

従来のシリコンチップコンピュータでは、これを達成するために、多くのエネルギーが、処理とメモリ蓄積の間に、非効率な電子の移動で浪費されている。しかしナノマグネットは、電子のような物理的な粒子トランスポートに依存するのではなく、代わりに「マグノン」波の形で情報を処理、伝達する。ここでは、各マグネットが隣接マグネットの状態に影響を与える。

つまり、失われるエネルギーは極めて少ない。従来のコンピュータのように分離処理ではなく、情報の処理と蓄積を同時に行うことが可能である。この革新は、従来のコンピューティングよりもナノマグネティックコンピューティングの効率を10万倍高める。

エッジでは
 チームは、次にECG信号のような実世界データを使ってシステムに教え込み、それを実際のコンピューティングデバイスにすることを考えている。最終的に磁気システムは、従来のコンピュータに組み込まれ、激しい処理タスクでエネルギー効率を改善する。

そのエネルギー効率とは、再生可能エネルギーで実用的に駆動できること、「エッジのAI」を使用できること、収集したその場でデータを処理すると言う意味である。大規模データセンタに送り返すのではなく、南極の気象局で処理できる。

それらは、身体の生体データ処理にウエアラブルデバイスで使用できる。糖尿病感謝のインスリン値の予測と調整、異常な心臓鼓動の検出などである。
(詳細は、https://www.imperial.ac.uk)