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ヒトの脳を真似るマイクロチップはAIのエネルギー効率を高める

May, 31, 2022, Manchester--人工知能(AI)は、ビデオゲームをより現実的にし、電話が話者の声を認識できるようにするが、そのパワーハングリーなプログラムは、膨大なエネルギーを必要とする。しかし、次世代AIは、ヒトの脳のように機能するコンピュータチップのおかげで100倍エネルギー効率がよい、新しい研究は、そのようなニューロモルフィックチップが、通常のチップが消費するエネルギーのほんの一部を使ってAIアルゴリズムを走らせることができることを示している。

マンチェスタ大学のコンピュータ科学者、Steve Furberは、「これは素晴らしい成果だ」と言う。同氏によると、そのような進歩は、例えば言語の翻訳、無人自動車の運転を行う複雑なソフトウエアの性能の大飛躍につながる。

AIプログラムは一般に、データセットに一定の所望のパタン発見で優れている。それが実行する最も複雑なものの一つは、全体をつなぎ合わせる際にビットパタンを正しく維持する。コンピュータが画像をどう認識するかを考える。まず、それは、画像の明確に定義されたエッジを見つける。次に、最終画像を形成するには、これらのエッジ、それに画像の全ての後続部分を思い出さなければならない。

そのようなネットワークの共通の成分は、長・短期記録(LSTM)と呼ばれるソフトウエアユニットである。これは、物事が時間経過とともに変化する際に一つの要素の記憶を維持する。例えば、それを“4”の一部、あるいは自動車のドアを代表するかどうかをソフトウエアが判断する際に画像の垂直エッジはメモリに保持されなければならない。一般的なAIシステムは、一度に数100のLSTMを追跡しなければならない。

従来のコンピュータチップで動作する現在のLSTMsネットワークは、非常に正確である。しかし、そのチップはパワーハングリーである。情報ビットを処理するには先ず、蓄積されたデータの個々のビットを読み出し、それらを操作し、次にそれらをストレージに送り返す。続いて、そのシーケンスを繰り返し繰り返し反復する。

Intel、IBMおよび他のチップメーカーは、代替チップデザイン、ニューロモルフィックチップで実験を行っている。これらは、脳のニューロンのように情報を処理する。脳では、各ニューロンがネットワークの他からインプットを受け取り、トータルインプットが閾値を超えると発火する。新しいチップは、ネットワークでリンクするニューロンと同等のハードウエアとなるように設計されている。AIプログラムは、人工ニューロンのネットワークにも依存するが、従来のコンピュータでは、これらのニューロンは完全にソフトウエアで定義されており、したがって実質的にコンピュータの別のメモリチップに存在する。

ニューロモルフィックチップのセットアップは、メモリと計算をいっしょに扱うので遙かにエネルギー効率がよくなる。われわれの脳は、20Wのパワーしか必要としない、エネルギー効率のよい電球と同程度である。しかし、このアーキテクチャを利用するには、コンピュータサイエンティストは、LSTMなどの機能の実行の仕方を作り直す必要がある。

それは、グラッツ工科大学(Graz University of Technology)のコンピュータサイエンティスト、Wolfgang Maassの仕事だった。同氏とチームは、われわれの脳のメモリ蓄積メカニズムを再現しようとした。生体ニューラルネットワークは、過分極後(AHP)電流と言われる機能を実行する。脳のニューロンが発火後、それは一般にベースラインレベルに戻り、それが再び、その閾値を超えるインプットを受けるまで静止状態にとどまる。しかしAHPネットワークでは、発火後、ニューロンは一時的に再度の発火が禁じられ、静止期間となる。それが実際に、ニューロンネットワークが、エネルギー消費を少なくしながら、情報を保持するのに役立つ。

研究チームは、AHPニューロン発火パタンをニューロモルフィックニューラルネットワークソフトウエアに組込み、2つの標準AIテストで、そのネットワークを走らせた。最初の課題は、手書きの“3”を数100の個別ピクセルに分けた画像で認識することだった。ここでは、IntelのニューロモルフィックLoihiチップの一つで走らせたとき、チームのアルゴリズムが、LSTMベースの画像認識アルゴリズムが従来のチップで走る場合と比較して、1000倍までエネルギー効率がよかった。

第2のテストでは、コンピュータが20センテンス長までのストーリーの意味についての問いに答える必要があった。ニューロモルフィックセットアップは、従来のコンピュータプロセッサでアルゴリズムが走るよりも16倍効率的だった、と著者はNature Machine Intelligenceで報告している。

Maassによると、この第2テストは、Intel初代Loihiチップシリーズで実行された。これは、相互通信では比較的大量のエネルギーを消費する。同社は、それ以来、各々にもっと多くのニューロンを搭載した第2世代Loihiチップを出しており、こちらはチップ間通信の必要性が低下し、ソフトウエアはもっと効率的に走る。

現在、商用で利用できるニューロモルフィックチップはほとんどない。したがって大規模アプリケーションは、直ぐには出てこない。しかしMaassが実証したような高度なAIアルゴリズムが、これらのチップの商業拠点取得に役立つと、Allen Instituteのコンピュータニューロサイエンティスト、Anton Arkhipovは見ている。「控えめに言っても、それはAIシステムの高速化に役立つ」。

それは、次に、AIデジタルアシスタントなど、新しいアプリケーションにつながる。
(詳細は、https://www.science.org)