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Science/Research 詳細

同一の光子を放出する単一光子源を固体中に多数作製することに成功

August, 26, 2014, Tsukuba--筑波大学、磯 順一名誉教授、物質・材料研究機構(NIMS)光・電子材料ユニット 寺地徳之主幹研究員らは、ダイヤモンド中のカラーセンタの一つであるSiV-センタを高純度・高結晶性ダイヤモンド薄膜成長時に、極微量の濃度に制御して導入し、単一光子源として作製することに世界で初めて成功した。
 このダイヤモンド薄膜の極限成長技術によって、結晶内に明るく安定な単一光子源を、結晶中の離れた位置に多数作製することに成功した。さらに、結晶中の離れた位置に作製された単一光子源からは、2光子間で最大91%の大きな発光スペクトル重なりを実現した。これらの結果は、量子干渉を用いる量子光学、量子コンピューティング、量子情報ネットワークといった応用へ、固体中の単一光子源を用いるための重要な一歩として期待される。

研究成果
1.SiV-センタの単一光子源を世界で初めて結晶成長時に単結晶中に作製
 研究では、シリコン原子1個が炭素原子2個を置換しているSiV-センタに着目し、ダイヤモンド結晶中にSiV-センタの単一光子源を結晶成長中に作製することを試みた。ダイヤモンド薄膜は水素希釈したメタンを用い、マイクロ波を熱源とするプラズマCVD法で成長するのが一般的。石英反応管などCVD装置や基板にシリコンが用いられる場合、プロセス中にプラズマによってエッチングされ、ダイヤモンド薄膜からSiV-センタが観測されることが知られている。このような意図しない混入によるSiV-センタでは、単一光子源として観測するには濃度が高すぎた。単一光子源として観測されるには、0.01ppb以下(炭素原子1千億個に1個以下)の低濃度が必要になる。したがって、SiV-センタの単一光子源を得るにはナノダイヤモンドやイオン注入が用いられてきたが、均一な特性を得るのは困難だった。
 研究チームは、プラズマによるシリコンのエッチングが極力起こらない成長装置と成長条件を構築し、CVDダイヤモンド単結晶の高純度化・高結晶性化に取り組んだ。その上でシリコン源として、プラズマによるエッチング速度が遅い炭化ケイ素をダイヤモンド基板とともに反応容器内の試料ホルダー上に置いてCVD合成した。この手法により、CVDダイヤモンド単結晶成長中にSiV-センタを単一光子源の濃度で導入することに成功した。この手法では、0.001ppb~0.01ppbという極微量の濃度を制御することが可能。
 共焦点顕微鏡イメージから、CVDダイヤモンド単結晶薄膜中に、多数のSiV-センタが観測された。光子相関測定のアンチバンチング(2個の光子を同時に発生しない)現象を観測することにより、単一光子源作製が確かめられました。また、NV-センタと比べて長波長の発光であり、かつ発光の線幅が狭いという点で期待されていたSiV-センタが、単一光子源としてNV-センタと同程度に明るいことが確かめられた。

2.識別することが困難な光子を発生する単一光子源を多数作製
 固体結晶中では、多くの場合、周囲の環境が微妙に異なることにより、個々の単一光子源ごとに発光周波数(発光波長)が変化する。この発光波長の「不均一なひろがり」が、固体結晶中に識別できない光子を放出する単一光子源を作製する際の難題となっていた。高純度・高結晶性という点でほぼ完璧なダイヤモンド結晶格子中に作りこめたことから、SiV-センタ固有の発光周波数、線幅をもつ、即ち識別することが困難な光子を発生する単一光子源を多数作製することに成功した。
研究の成果のポイント(測定は4K)。
・発光周波数4.068188×105GHz(波長736.9118nm)に対して、長時間にわたって、±4MHzという安定性を示し、ブリンキングも観測されなかった(測定は7時間)。この結果は一つのSiV-センタから、識別できない光子を長時間にわたって発生できることを示している。
・単一光子源の発光の線幅として、励起状態の寿命(4Kで1.72ns)で決まる線幅である94MHzに近い値(4Kで120MHz)を達成。発光の線幅がほぼ励起状態の寿命だけで決まり、余計な広がりをもたないことから、良質の量子干渉が得られることが期待される。
・発光の波長と線幅、偏光が同一で識別することが困難な光子を発生する単一光子源を、結晶中の異なる多くの位置に作製することに成功。発光波長の違いが、励起状態の寿命から決まる線幅94MHzの30%以下であるという点で、識別することが困難な二つの光子を発生するSiV-ペアーを容易に見いだせることが示された(7µm×7µmという狭い範囲に絞っても、20個のSiVから識別することが困難な光子を発生する4ペアーを選び出すことができた)。
 研究はウルム大学(ドイツ)Fedor Jelezko教授との共同研究であり、科学技術振興機構(JST)国際科学技術共同研究推進事業(戦略的国際共同研究プログラム) 日独共同研究(ナノエレクトロニクス)「ダイヤモンドの同位体エンジニアリングによる量子コンピューティング」の一環として行われた。
(詳細は、www.nims.go.jp)(Nature Communications掲載論文)