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光遺伝学で脳の「スイッチボード」をコントロール

August, 20, 2014, New York--NYUランゴン医療センタの研究チームは、マウスモデルを使い、脳の小さな部分における個々の神経細胞の活動を記録した。
 脳のこの部分は「スイッチボード」として働き、外部世界や内部記憶から来る信号の方向付けを行う。統合失調症(=分裂病)、自閉症など、人の脳障害、心的外傷後ストレス障害は、一般にそのスイッチボードに混乱をもたらすので、この研究成果は、そのような障害の理解と処置に新たな戦略を示唆すると研究チームは見ている。
 Cell誌に発表された論文は、視床網様核(TRN)のニューロン、いわゆるスイッチボードが外界からの画像のような感覚シグナル、記憶のような内部情報を適切な目的にどのように向かわせるかを説明している。
 研究では、チームは多元電極を使ってTRN内の個々のニューロンの活動を記録した。TRNは前脳の構造、視床をカバーする神経細胞の薄い層で、この部分は情報を中継して大脳皮質に送る。大脳皮質は、学習や言語のような高度な機能が行われる場所。TRN細胞は、視床に抑制シグナルを送ることで知られており、これによりどの情報が阻止されるかが決まる。
 研究チームが発見したTRN細胞の活動は、マウスが眠っているか、覚めていて注意を怠らないでいるかどうかに依存する。感覚入力を制御するTRN細胞は睡眠中に、より活発になる、特に睡眠紡錘波が短く速い周期で起こる時に活発であることが分かった。睡眠紡錘波は、睡眠中の感覚入力阻止と関連しており、自閉症や統合失調症の人ではこれが減退することが知られている。
 Dr. Halassaによると、新しい発見は、欠陥のあるTRN細胞は、これらの条件で情報の適切なフィルタリングに混乱を来す可能性があることを示唆している。
 覚醒したマウスの実験では、感覚TRN細胞はほとんど活性化しない。これは、これらのニューロンが睡眠中に外部情報の流れを阻止するが、覚醒時は情報の流れを容易にすることを示唆している。
 対照的に、内部シグナルの流れをコントロールするTRN細胞は逆に振る舞い、睡眠中はほとんど活性化しない。この活動レベルの低下により、睡眠中に記憶が形成されるとDr. Halassaは考えている。
 研究の第2部では、研究グループは光遺伝学という技術を採用した。これは光を使って神経細胞のON、OFFを行い、覚醒TRN神経細胞の興奮がマウスの注意行動に影響を与えるかどうかを調べた。
 1つの実験では、マウスは視覚刺激と食べ物を関連づけることを学習した。十分に休息したマウスは、刺激が与えられてわずか1~2秒で食べ物を見つけたが、睡眠不足のマウスはそれよりも遙かに長い時間を必要とした。視床の特に視覚領域をコントロールするTRN細胞をONにすると、これは通常では睡眠中に起こるが、十分に休息したマウスは、睡眠が不足しているかのように振る舞った。他方、このTRN細胞をOFFにすると、睡眠不足のマウスは素早く食べ物を見つけた。
 「光のスイッチによって、マウスの精神状態を変え、情報が脳を伝搬する速度を変えられるようだった」とDr. Halassaはコメントしている。脳の回路をマッピングし、その通路を切断することが、幅広い精神神経疾患の新たな治療目標につながることを望んでいる、と同氏は付け加えている。