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Science/Research 詳細

らせんに巻いた電子スピンによる巨大な光のアイソレータ効果の発見

August, 7, 2014, Tokyo--東京大学と理化学研究所の研究グループは、物質中に生じるらせん型に配列した電子スピンが、光の進行する向きに依存して光吸収を大きく変化させる機能性を有していることを発見した。
 研究グループは、らせん型に電子スピンが配列したとき、ギガヘルツからテラヘルツの周波数帯にエレクトロマグノンと呼ばれるスピンの集団運動が現れることを発見した。さらに、らせん型のスピン配列が持つ「磁性」と「カイラリティ」という二つの性質によって、エレクトロマグノンが巨大な磁気カイラル効果を示すことを明らかにした。磁気カイラル効果によって、光の進行方向に依存して吸収係数を最大400%変化させることに成功した。
 将来の大容量通信等さまざまな応用が期待されている高周波のギガヘルツ帯からテラヘルツ帯では、光(電磁波)の制御のための技術開発が行われている。この結果はアイソレータや、物質の光吸収を外部の電場や磁場で操作可能な光(電磁波)制御素子としての展開が期待できる。  物質中の原子やスピンなどが規則的に整列している時、それらが同じ周期(リズム)で動く集団運動が、物質の性質を決める重要な役割を担っている。スピンの集団運動はスピン波、マグノンなどと呼ばれ、ギガヘルツからテラヘルツの周波数帯にあらわれる。研究グループは、らせん型スピン配列を持つ磁性体中で、スピンの集団運動が磁気カイラル効果を示すことを明らかにした。
 物質中の磁石の源である電子スピンは、磁石の向きと同じで、矢印で表すことができる。カイラリティを示す構造として代表的ならせん構造と同じように、スピンの向きがらせん型に並ぶ時にも右巻き、左巻きの二通りの配列が存在する。らせん型に配列したスピンを用いると、原子配列によらず多くの物質にカイラリティを持たせることが可能。今回、スピンのみに由来した磁気カイラル効果の実現を目指し、その効果が最も期待できるスピンの集団運動の光応答でその効果を検証した。実験では、らせん型のスピン配列を持つ物質である CuFe1-xGaxO2(x=0.035、Cu:銅、Fe:鉄、Ga:ガリウム、O:酸素)を用いて光応答を調べた。
 磁気カイラル効果は電気磁気光学効果と呼ばれる現象の一つで、その特徴として(非相反)方向2色性と呼ばれる現象を引き起こす。これは、互いに対向して進む光に対して物質が異なる光学応答を示す現象であり、物質そのものがアイソレータと同じ働きをする。電子スピンの集団運動であるマグノンの光学応答を調べると、光の進行方向に強く依存した光吸収が観測された。その大きさは、光の吸収係数が最大で400%変化する。この共鳴における方向2色性の存在は、マグノンが通常の磁気応答に加えて光の電場成分にも応答していることを意味している。電場応答と磁場応答をあわせ持つマグノンはエレクトロマグノンと呼ばれ近年大きな注目を集めている。エレクトロマグノンにおいてこのような巨大な方向2色性が実現しているのは、カイラリティと磁性が共にらせん型のスピン配列に由来しているためである。更に磁気カイラル効果の面白い点は、光が透過する方向と吸収する方向が、物質の磁化の方向、もしくはカイラリティ(右巻き、左巻き)の反転で、入れ替わるということである。実際にスピン配列のカイラリティを右巻きと左巻きで入れ替えると、光が吸収される方向が入れ替わることを確認した。また外部磁場によって磁化の向きを反転することで、方向2色性が反転することも確認した。これは、磁気カイラル効果による光応答が高い操作性を持つこと示している。
 今回の研究によって、物質がららせん型のスピン配列というありふれた磁気構造を持つ時には、巨大な磁気カイラル効果がスピンの集団運動(エレクトロマグノン)に現れるという一般的な性質を明らかにした。これは、これまで特定の原子配列でのみ実現可能と考えられてきた磁気カイラル効果が広く存在することを示す結果である。
 エレクトロマグノンの周波数はギガヘルツからテラヘルツと呼ばれる、高周波の電磁波領域に位置している。この帯域は、現在よりも多くの情報のやり取りが可能な大容量通信、新しい計測技術の開発などさまざまな応用が期待されていますが、そこで使用される電磁波の制御技術の開発は発展途上にある。エレクトロマグノンの磁気カイラル効果は、新しい原理に基づくギガヘルツ帯からテラヘルツ帯でのアイソレータとしての展開が期待できる。特に外部の磁場や、カイラリティの制御によって光や電磁波の進行方向を制御できることから、操作性の高い素子となり得る。また逆に、エレクトロマグノン共鳴を用いた光によるカイラリティや磁化の制御といった新しい物質制御の可能性も期待できることから、今後の幅広い研究・応用へ展開が可能。
 研究グループは、東京大学大学院工学系研究科の高橋陽太郎特任准教授、木林駿介大学院生(当時)、十倉好紀教授および理化学研究所創発物性科学研究センターの関真一郎 ユニットリーダー他。