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TU/e、革命的な発光シリコン、2020年のブレイクスルー技術

February, 16, 2021, Eindhoven--シリコンからの発光は、数十年マイクロエレクトロニクスの「至高の目標」であった。この問題を解くことは、コンピューティングを変革する。チップがこれまでになく高速化するからである。アイントホーヘン工科大学(TU/e)の研究者は、これに成功した。研究チームは、発光可能なシリコンとの合金を開発した。研究成果は、Natureに発表された。チームは、さらに、現在のチップに集積するシリコンレーザの作製を始める。

毎年われわれは膨大なデータを利用し、生み出している。しかしわれわれの現状の技術は電子チップベースであり、その限界に達しつつある。制限要因は熱。チップ上の多くのトランジスタを接続する銅線を電子が走る時に体験する抵抗から熱が発生する。毎年、ますます多くのデータを転送し続けたいなら、熱を発生しない新技術が必要になる。フォトニクス導入、それはデータ転送にフォトンを使うからである。

電子と対照的にフォトンは、抵抗を経験しない。質量がなく電荷もないので、フォトンは、透過する材料内であまり散乱しない、したがって熱を発生しない。エネルギー消費は、したがって減少する。さらに、さらに、電気通信を光通信に置き換えることで、チップ上の、またチップ間の通信速度は1000倍高速にできる。データセンタが最も恩恵を受ける。データ転送が高速化し、冷却システムでのエネルギー利用が少なくなるからである。しかし、これらフォトニックチップは、新たなアプリケーションに利用される。自動運転車向けのレーザベースのレーダ、医療診断用の化学センサ、空気や食品品質の計測用センサなどである。

電子を落としてフォトンを生成
チップで光を使うために、光源、つまり集積されたレーザが必要になる。コンピュータチップが作られている主要半導体材料はシリコン。しかし、バルクシリコンは、発光では極めて非効率である。したがって、以前からフォトニクスでは役割がないと考えられていた。こうして研究者は、より複合的な半導体、GaAsやInPに眼を向けた。これらは発光は得意だが、シリコンよりも高価であり、既存のシリコンマイクロチップへの集積は難しい。

シリコン適合レーザを作るために研究者は発光可能なシリコン形態を作る必要があった。それが、正にTU/e研究チームが成功したものである。イェーナ、リンツ、ミュンヘンの大学の研究者と協働で、発光可能な6面構造でシリコンとゲルマニウムを統合した。50年の研究を経たブレイクスルーである。

6面構造
「最重要ポイントは、半導体の、いわゆるバンドギャップの性質にある」とTU/eのErik Bakkersは指摘する。電子が伝導帯から価電子帯に落ちるなら、半導体はフォトン、つまり光を放出する。しかし、伝導帯と価電子帯が相互に置き換わっていると、それは間接バンドギャップであり、フォトンは放出されない、シリコンの場合だ。「50年来の旧い理論は、しかし、ゲルマニウムと合金を形成し6面構造となっているシリコンは、直接バンドギャップを持つことを示しており、したがって、発光の可能性がある」(Bakkers)。

しかし、シリコンを6面構造にすることは簡単ではない。研究チームは、ナノワイヤを成長させる技術を習得し、2015年に6面シリコンを作製することができた。最初に別の材料からできたナノワイヤを成長させることで、6面結晶構造で、ピュア6面シリコンを実現した。次に、このテンプレートでシリコン-ゲルマニウムシェルを成長させた。論文の筆頭著者、Elham Fadalyは、「シリコン原子が6面テンプレートを基にするようにわれわれはこれをすることができた。これにより、シリコン原子を6面構造に成長させた」。

シリコンレーザ
しかし、チームは、これまで、まだ発光させることができなかった。チームは、不純物と結晶欠陥の数を減らすことで6面シリコン-ゲルマニウムの品質を高めることができた。レーザでそのナノワイヤを励起すると、新しい材料の効率を計測することができた。光放出計測を担当するAlain Dijkstraは、「われわれの実験から、その材料が適切な構造を持つことがわかり、また欠陥が存在しないことも分かった。それは、非常に効率よく発光する」とコメントしている。

レーザの作製は、今となっては時間の問題である、とBakkersは考えている。「これまでにわれわれはInPやGaAsにほぼ匹敵する光特性を実現しており、また材料品質は急速に改善されている。順調に行くと、2020年中にシリコンベースのレーザを実現できる。これは、支配的なエレクトロニクスプラットフォームに光機能を緊密に統合できる。また、オンチップ光通信、分光学に基づいた安価な化学センサの展望を開くことになる」(Bakkers)。

一方でチームは、六方シリコンを立方シリコンマイクロエレクトロニクスに統合する方法を研究している。これは、この研究の重要な前提である。
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上のニュースは、2020年4月に発表されたものだが、2020年12月、Physics World誌は、この研究成果をBreakthrough of the Year(今年のブレイクスルー)と認めている。