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シリコンチップ向けに高効率レーザ

April, 24, 2020, Jülich--コンピュータチップのトランジスタは電子動作であるが、光を使うとデータはさらに高速に転送できる。このため、レーザを直接シリコンチップに集積する方法が以前から探求されてきた。Forschungszentrum Jülichの研究者は、これの実現に一歩近づいた。
 パリのCentre de Nanosciences et de Nanotechnologies (C2N)、フランスの企業STMicroelectronics、CEA-LETI Grenobleの研究者とともに、ゲルマニウムとスズでできた互換性のある半導体レーザを開発した。効率は、シリコン上の従来のGaAs半導体レーザに匹敵する。:研究成果は、Nature Photonics。

光データ転送により、現在の電子プロセス対してデータレートと距離は著しく向上し、同時に省エネになる。したがってコンピュータとデータセンタでは、ケーブル長が1m程度を超える時にはいつでも、すでに光ファイバがデフォルトになっている。将来、光ソリューションは、要求が増え、ますます短い距離の需要が見込める。例えば、ボード間、あるいはチップ間データ転送の要求が増加するからである。これは、特にAIシステムに適用される。そこでは、チップとアルゴリズムをトレーニングするために、大量データを大規模ネットワーク内で転送しなければならないからである。

「決定的に欠如しているコンポーネントは安価なレーザである。これは、高データレート達成に不可欠である。シリコンベースCMOS技術に適合する電気励起レーザなら理想的である。そのようなレーザは、チップ製造工程中に成形するだけでよい。チップ製造全体が、究極的にこの技術ベースになる」とForschungszentrum Jülich’s Peter Grünberg Institute (PGI-9)のディレクタ、Detlev Grützmacher教授は説明している。

しかし、1つ問題がある。ピュアSiは「間接半導体」であり、したがって、レーザ材料に適していない。現在、異なる材料がレーザ製造に用いられている。一般に、III-V化合物半導体が代わりに用いられる。「しかし、その結晶格子は、グループⅣ元素であるシリコンのものとは全く異なる。レーザコンポーネントは、現在外部で製造され、後に統合される必要がある。つまりその技術が高価になる」とGrützmacher教授は言う。

対照的に、新しいレーザは、CMOS製造プロセス中に製造可能である。それは、シリコンのよにⅣ元素であるゲルマニウムとスズベースである。2015年、Jülichの研究者は、GeSnシステムでレーザ発光が得られることを示した。これの決め手は高いスズ含有量である。当時、12%であり、これは溶解限度1%をはるかに超えている。

「ピュアゲルマニウムは、その性質上、シリコンと同様間接半導体である。スズの高濃度が、それを直接半導体に変え、レーザ光源にする」とJülich’s Peter Grünberg Institute (PGI-9)、ワーキンググループリーダー、Dr. Dan Bucaは説明している。

Jülich’が開発した特許エピタキシャル成長プロセスは、世界の複数の研究グループが利用している。スズ濃度をさらに高めることでレーザは、低温だけでなく、0℃でもすでに機能するようになっている。

「しかし高いスズ含有量は、レーザの効率を低下させる。するとレーザは、比較的高い励起パワーを必要する。12–14 %のスズで、すでに100–300 kW/cm2が必要になる。したがってスズの濃度を下げようとしており、材料にさらに応力を付加することでこれを補償する。これにより光特性が大幅に改善する」とNils von den Drieschは説明している。

その新しいレーザでは研究チームは、スズ含有量を約5%に下げた。同時に、必要な励起パワーを0.8 kW/cm2に減らした。これにより無駄な熱が著しく少なくなる。このレーザは、パルスだけでなく連続波でも動作可能な初のグループⅣ半導体レーザとなる。

「これらの値は、ゲルマニウム-スズレーザが技術的に実現可能であり、その効率がシリコン上に成長させた従来のIII-V半導体の効率に匹敵することを実証している」と研究所所長Grützmacherは説明している。その新しいレーザは、現状では光励起に限られ、約-140℃の定温動作である。

そのようなレーザは、光データ転送だけでなく、様々な他のアプリケーションにとっても興味深い。赤外2–4 µmに対応する波長で安価な代替がないからである。潜在的なアプリケーションは、赤外および暗視システムから気候研究における環境モニタリング用のガスセンサ、あるいは医療診断では呼気分析まである。

(詳細は、https://www.fz-juelich.de)