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オンチップ光周波数コムを使いフォトニックマイクロ波生成

April, 23, 2020, Lausanne--EPFLで作製した集積フォトニックチップを使い、研究チームはレーザベースマイクロ波ジェネレータを実証した。このマイクロ波信号は、その光キャリアとともにレーダ、衛星通信、将来の5Gワイヤレスネットワークに利用できる。

現代の情報社会では、無線とマイクロ波信号の合成、分配と処理がワイヤレスネットワーク、通信、レーダで至る所に存在する。現在の傾向は、一段と高い周波数帯でキャリを使うこと、特に5GやIoTs需要で帯域ボトルネックが迫っている。「マイクロ波フォトニクス」は、マイクロ波エンジニアリングとオプトエレクトロニクスの統合であるが、これによりソリューションが得られる。

マイクロ波フォトニクスの重要なビルディングブロックは光周波数コム。数100の等距離、相互コヒレントレーザラインとなる。コムラインの周波数間隔に正確に一致する安定した繰り返しレートで超短光パルスが放出される。パルスの光検出によりマイクロ波キャリアが生成される。

近年、連続波レーザ駆動の非線形マイクロ共振器で生成されるチップスケール周波数コムが著しく進歩した。これら周波数コムは、散逸的Kerrソリトンの形成に依拠しており、これは光マイクロ共振器内を周回する超短コヒレント光パルスである。このため、この周波数コムは一般に「ソリトンマイクロコム」と呼ばれている。

ソリトンマイクロコムの生成には非線形マイクロ共振器が必要になる。またこれらはCMOSナノファブリケーション技術を使いチップ上に直接構築される。電子回路との共集積、レーザの集積によりコムの微小化に道が開かれ、計測、分光学、通信の多くのアプリケーションが可能になる。

Nature Photonicsに発表された論文で、EPFLの研究者、Tobias J. Kippenbergをリーダーとする研究チームは、繰り返しレート10 GHzの集積ソリトンマイクロコムを実証した。これはSiNベースの集積光導波路の光損失を大幅に低下させることで達成された。SiNは、すでにCMOSマイクロ電子回路で利用されている材料である。また、過去10年、チップ上のレーザ光をガイドする光集積回路構築にも利用されてきた。

研究チームは、フォトニック集積回路で最小損失のSiN導波路を製造することができた。この技術を使うことで生成されたコヒレントソリトンパルスは、両方のマイクロ波K- (~20 GHz、5Gで利用) と X-band (~10 GHz、レーダーで利用)で、繰り返しレートを達成している。

結果としてのマイクロ波信号の特徴は、商用電子マイクロ波シンセサイザに匹敵する、またはそれを下回る位相ノイズ特性である。マイクロ波繰り返しレートでの集積ソリトンマイクロコムの実証は、集積フォトニクス、非線形オブティクスおよびマイクロ波フォトニクスの分野を橋渡しする。

EPFLチームは、光が導波路で約1m伝搬できるだけの光損失レベルを達成した。導波路は、わずか1 µm径である。この損失レベルは、光ファイバでの値よりもまだ3桁以上大きいが、今日までの集積非線形フォトニクス向けの稠密閉込めでは最小損失である。

そのような低損失は、EPFLの研究者が開発した新しい製造プロセス、“SiNフォトニックDamascene プロセス”の結果である。このプロセスは、DUVステッパリソグラフィを使い実行するもので、低損失に関しては実に素晴らしい性能であり、従来のナノファブリケーション技術では達せ不可能である」と論文の筆頭著者、Junqiu Liuは説明している。同氏は、EPFLのMicroNanoTechnology (CMi)でSiNナノフォトニックチップ製造を主導している。「これらのマイクロコム、またそのマイクロ波信号は、将来のレーダーや情報ネットワークアーキテクチャにとって完全集積ローノイズマイクロ波発振器構築の重要な要素である」。

EPFLチームは、チップスケール半導体レーザを組み込んだハイブリッド集積ソリトンマイクロコムモジュール開発で米国の協力者とすでに活動を開始している。
これらの非常にコンパクトなマイクロコムは、多くのアプリケーションに影響を与える。例えば、データセンタのトランシーバ、LiDAR、コンパクトな光原子時計、OCT、マイクロ波フォトニクス、分光学など。