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高輝度中赤外レーザ、分光分析技術の地平を拡張

July, 24, 2019, Washington--Optics Lettersで、非破壊検査研究センタ(RECENDT)、ヨハネケプラー大学(Johannes Kepler Universität)の研究チームは、中赤外量子カスケードレーザ(QCL)を分光偏光分析法(エリプソメトリ)セットアップに組み込んだ。この比較的新しいレーザタイプは、分光偏光分析法に使用されている従来の光源よりも10000倍高輝度である。
 新しいアプローチは、わずか1秒以内で、高分解能スペクトル情報を取得する。これによりプラスチックから生体材料まで、様々なサンプルの素早く変化する特性を洞察することができる。

分光偏光分析法は、光の偏光がサンプルとの相互作用後にどのように変化するかを計測する。スペクトルの赤外部分で計測すると、このアプローチは、サンプルの化学成分や分子配向について詳細な情報を明らかにする。

研究チームによると、QCLは分光計測の信号品質を大幅に改善し、スペクトル取得時間を数時間から1秒以下に短縮した。新しいレーザ技術の進歩にともないさらなる改善も可能である。また、その技術は、プラスチックフィルムが伸ばされる時の分子再配向のリアルタイムモニタリングにも使える。

「われわれの方法は,以前にはリアルタイム観察できなかったサンプルの特性にアクセスできる。QCLエリプソメトリは,製造プロセス改善、結果としての製品の品質改善に役立つ。これまで観察できなかった物理的、生物学的プロセスも明らかにする可能性があり、新しい科学的発見につながる」とRECEDT研究チーム長、Markus Brandstetterはコメントしている。

超高輝度光源
 研究チームが使用する中赤外QCLの特徴は、特別な施設でしか利用できないシンクロトロン光源を上回る輝度レベル。レーザの輝度は、水に溶けた物質も含め、吸収性の強い材料、物質の中赤外分光偏光解析法に使えることを意味する。「水の高い中赤外吸収性のために、今日までこれは非常に難しかった、いや考えられなかった」とBrandstetterは話している。

 レーザの発振波長が、商用利用できる中赤外ディテクタと完全に一致する広い中赤外範囲に変えられる。もう1つの利点は、高価で複雑な光学コンポーネント、モノクロメータや干渉計なしで、分光計測に利用できることである。

「われわれが使ったレーザは、回折限界光によってのみ制限されるスポットサイズの実現性も提供する。これは、高い空間分解能の分光計測で利用でき、科学と産業の両方で関心がある」と研究チームのメンバー、Jakob Kilgusは話してる。

リアルタイム計測
新しいシステムをテストするために、研究チームは、それと商用赤外分光エリプソメタのゴールドスタンダードとを比較した。また、ポリプロピレンフィルムが伸ばされる時の分子鎖再配置のリアルタイム計測も行った。

「新しいセットアップは、標準的な取得時間とSNRを桁違いに凌駕した。われわれのポリプロピレンフィルム計測は、力を加えるために使用したステージの速度によってのみ制限された。そのセットアップでは、遙かに高速のプロセスもモニタできた」とKilgusは話している。

 研究チームによると、これらは非常に有望であるが、まだ暫定的な結果である。チームは、さらに開発を進め、ハイパースペクトル中赤外偏光分析法画像取得のために回折限界レーザスポットの実現性を、妥当な取得時間で、完全に利用したいと考えている。これには、画像の各ピクセルの全スペクトルが含まれる。