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Science/Research 詳細

レーザと物質の相互作用改善に新方法

May, 17, 2019, Livermore--数ピコ秒の超短レーザパルスを使い、ローレンスリバモア国立研究所(LLNL)の研究チームは、レーザアブレーション(材料除去)の効率的なメカニズムを見いだした。これは、多くの産業レーザ加工アプリケーションで、低エネルギー、低コストレーザの利用に役立つ。

Jounal of Applied Physicsに発表されている新方法は、短波長、高フルエンス(単位面積あたりのエネルギー)レーザパルスを使い、標的材料を溶かす衝撃波を出す。衝撃波の通過後、緩和プロセス中に溶融層に張力がかかり、最終的にキャビテーション(不安定な気泡成長)を通して材料が放出される。

研究チームは、実験を組み合わせて利用し、これまで研究されていなかったレーザエネルギーと波長領域でコンピュータシミュレーションを強化し、アルミニウム、ステンレススチール、シリコンのピコ秒レーザパルスアブレーションを研究した。研究成果によると、フルエンス10ジュール/平方センチメートル(J/cm2)超で、UVピコ秒パルスが、長波長パルスよりも少ないエネルギーで、より多くの材料を除去できることが分かった。

「10 (J/cm2)を超えるこの領域、特にUVレーザパルスは、低フルエンスや長波長と非常に異なる振る舞いをしたことが分かった」と科学&技術、NIF & Photon Science副ディレクタ、Jeff Budeは説明している。

「除去速度は、10 J/ cm2を超えた時に急増した、特にUV光の時である。除去速度の急増は、同時に除去効率向上をともなう、つまり所定量の材料の除去に必要なエネルギー量の減少である。
 それは実に興味深い。ここでは、恐らく別のメカニズムが進行している。したがって、ピコ秒レーザアブレーションは、十分に理解されていない領域のアブレーション物理学研究のための優れたテストケースを提供することになる」とJeff Budeは話している。

この研究は、ピコ秒パルスレーザアブレーションプロセスを初めて包括的に捉えていると考えられる。

研究チームは、355nm(UV)と1064nm(NIR)波長をフルエンス範囲0.1~40 J/cm2の結果を比較し、短波長の方が、1064nmで測定された除去に対して、除去スピードがほぼ一桁強化されることを確認した。レーザアブレーションは、全ての3材料で、NIRと比較してUV波長で何倍も高効率であった。

放射流体力学コードHYDRAを使うシミュレーションでは、アブレーション効率の向上は、UVレーザパルスがアブレーションプルームに深く浸透し、標的表面近くにエネルギー付与するからであることが示された。これにより、より高い圧力衝撃、深い溶融浸透、キャビテーションによる広範な除去となる。

「除去メカニズム、衝撃加熱が溶融を作り、次にキャビテーションによるその除去は、材料の気化よりも材料除去エネルギーは少ない。それが、効率の高さの説明である」とBudeは話している。

「この発見は、研究所におけるわれわれ独自のモデリングとシミュレーション能力によって実際に促進された。これは、モデル化が特に困難な問題である。レーザエネルギー付与プロセスは、材料の流体力学的反応と密接に結びついていたからである。したがって、この統合能力を有するHYDRAのような独自コードを必要とする」とLLNLアナリスト、論文の筆頭著者、Wes Kellerは話している。

ある意味で、この研究は、課題をチャンスに変える一例であった。研究が始まった直後、研究チームは、ピコ秒レーザへの材料の反応は、より一般的なフェムト秒レーザを使うよりも、かなり複雑であることを理解した。

「ピコ秒レーザ加工を理解しようとすると、極短パルス(フェムト秒)で直面する物理学の前提を単純化することは、もはや全面的に信頼できない」とBudeは言う。単にレーザエネルギーを吸収したり気化したりするのではなく、「材料が動き、レーザプルームに進化した」。つまり、溶融材料の流体力学、レーザパルスとアブレーションプルームプラズマ(イオン化ガス)間の相互作用の両方を説明するためにモデルを微調整しなければならなかった。
「われわれは、実際、レーザ-プラズマ相互作用を正確にモデル化する必要があった」(Bude)。「したがって、モデルの不備の一部を修正するために多くの創造的実験をしなければならなかった。最終的に、われわれはこの領域の根本的な物理学を確認できた。さらに、ミクロンディープ(micron-deep)溶融を作るには衝撃加熱が必要であることを発見した。また、衝撃加熱でこのディープ溶融を作った後、それを除去する機構が必要になり、そのメカニズムはキャビテーションであることを見いだした」。

時間的に成形されたパルスが溶融材料の不安定性を利用できることが分かると、チームは成形パルスを使って、材料を除去する、より効果的な加工法を実現することができた。「われわれは、この理解を利用して、レーザ加工を、違う方法で行うことができた。したがって、実際、多くの副次的メリットが得られた」。

ピコ秒パルスレーザは、より一般的なフェムト秒レーザに対して、コスト、効率、損傷制御の点で、いくつかの利点をもたらす。加えて、波長の柔軟性では効率的な周波数変換というオプションがある。
(詳細は、https://www.llnl.gov)