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Science/Research 詳細

UCSB、赤外/THzレンジの光を操作する半導体を開発

April, 22, 2014, Santa Barbara--カリフォルニア大学サンタバーバラ校(UCSB)の研究チームは、赤外/テラヘルツレンジの光を操作する独自の半導体を開発した。
 研究チームが開発した化合物半導体はほぼ完璧な品質であり、秩序正しく並んだ原子のラインを持つナノ構造が埋め込まれていて、中赤外域の光のエネルギーを操作することができる。効率のよい太陽電池、危険が少なく一段と解像度が高い生体イメージング、大容量のデータを高速伝送する能力は、この比類のない半導体がサポートできるアプリケーションのほんの一部にすぎない。
 この技術の鍵は、エルビウムの使用にあると言う。この希土類金属は赤外波長も可視光も吸収能力がある。また、何年も前から光通信でシリコンのパフォーマンス向上(光増幅器)に使われてきた。研究チームは、エルビウムとアンチモンを組み合わせ、結果として得られた化合物、エルビウム・アンチモナイド(ErSb)を半金属ナノ構造としてガリウム・アンチモナイド(GaSb)半導体マトリクスに埋め込んだ。
 UCSB材料学部、電気コンピュータ工学部のHong Lu氏によると、ErSbはGaSbと調和する理想的な材料である。その理由として、周辺材料と構造適合性があり、半導体マトリクスの原子格子構造を邪魔することなくそのナノ構造を埋め込むことができることを研究チームは挙げている。半導体の結晶格子構造に欠陥が少なければ少ないほど、それが使われるデバイスの信頼度はますます高くなり、パフォーマンスも向上する。
 このナノ構造は、MBE成長を通して目立った欠陥もなしに整然と埋め込むことができ、そのナノ構造のサイズ、形状、方向も制御できる。エピタキシとは、原子毎、分子毎に材料の層が特定の方向に次々に堆積されるプロセスを言っている。
 このナノ構造では、表面プラズモン共鳴によって化合物半導体が幅広い範囲のスペクトラムを吸収できる。その効果は潜在的なアプリケーションとして幅広い分野、例えば太陽電池、ガン治療の医療応用、新しいプラズモンの分野に広がる。
 オプティクスとエレクトロニクスでは、動作のスケールは大きく違い、電子は光の波よりも遙かに小さな空間に閉じ込めることができる。したがって、フォトンの速度とデータ容量、エレクトロニクスコンパクトさを情報処理で活かす回路を開発しようとしているエンジニアにとってこれは、現在進行中の課題でもある。
 オプティクスとエレクトロニクスのブリッジは強く求められてきたが、表面プラズモンを使ったこの化合物半導体でそのブリッジが見つかる可能性がある。表面プラズモンとは、光によって金属表面の電子が共鳴する現象。光(ここでは赤外)がこの半導体の表面に衝突するとナノ構造の電子が共鳴を始める。つまり、その均衡位置から飛び出して赤外光と同じ波長で振動する。光情報は維持したままで、エレクトロニクスデバイスに適合するスケールにそれを縮小する。
 Lu氏によると、イメージングの領域では、埋め込まれたErSbナノワイヤは強い広帯域偏光効果により、赤外、またもっと長い波長のテラヘルツシグニチャ(識別特性)で画像をフィルタリングしたり、特定したりすることができる。この効果は、例えばX線のから出る高いエネルギーに晒される危険無しで、人体を含む多様な材料の撮像に利用できる。このスペクトラム領域では、爆発物や一部の違法麻薬のような化学物質は固有の吸収特性を持つことが分かっている。研究チームはすでに、これら埋め込みナノワイヤをブロードバンド偏光子として特許申請している。
(詳細は、engineering.ucsb.edu/ American Chemical Society)