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ETHチューリッヒ、ガン治療に使える熱いナノ粒子を開発

April, 22, 2014, Zurich--ナノ粒子は医学で大きな可能性がある。診断では、作用物質を運び、あるいは熱を使って腫瘍を全滅させるツールとなる。チューリッヒ工科大学(ETH Zurich)の研究グループは、比較的製造が容易で応用範囲が広い粒子を開発した。
 暗闇でスイッチを入れた懐中電灯に手をかざすと赤く輝いて見える。これは波長の長い赤い光のビームが、波長の短い青い光よりも人の組織をより効果的に透過するためである。ETHチューリッヒの研究グループは、新しいナノ粒子でこの事実を活用している。いわゆるプラズモン粒子は、近赤外光を吸収すると熱くなる。これによって、例えば熱で腫瘍組織を殺すことができる。 
 ゴールド(金)は、治療に使うナノ粒子としては一般的であるが、金は耐用性良好で、通常好ましくない反応の引き金にならないからである。しかし球形のナノ粒子では、金はプラズモン粒子として作用するために必要な特性をもたず、発熱に十分な近赤外スペクトラムを吸収しない。そうなるためには、ロッドやシェルのように特別な形状に形を変える必要がある。金の原子が近赤外光吸収を始めるような構成となり、それによって発熱するようになることが狙いであるが、ナノロッドやナノシェルを量産することは複雑であり、高価である。
 ETHチューリッヒ粒子技術教授、Sotiris Pratsinisの研究チームは、プラズモン金粒子量産法を発見した。既存のプラズモンナノ粒子に関するノウハウを使い、球形の金ナノ粒子をアグリゲートすることで所望の近赤外プラズモン特性を示すナノ粒子を作製した。個々の粒子はあらかじめ二酸化ケイ素(SiO2)層で覆ってあり、集合体の個々の球の間でプレイスホールダーとして働く。個々の金粒子間の距離は厳密に定められており、これによって研究グループは近赤外光を吸収して熱を生成する構成に粒子を変換する。
 論文の筆頭著者、Georgios SotiriouはSiO2の役割について、「SiO2シェルにはもう1つ優位性である。粒子が熱くなったときにSiO2シェルが粒子の変形を防ぐ。これはナノロッドの大きな問題であり、ロッドが熱くなってその形状を失うと、それの望ましいプラズモン特性も失い、もはや十分な近赤外光を吸収できなくなり、熱を生成できない」と説明している。
 研究グループは、この新しい粒子をペトリ皿の乳ガン細胞ですでにテストし、近赤外光を受けた後、ナノ粒子が癌細胞を殺せるほどに熱くなることを確認している。
 その粒子を具体的に癌組織に向けるために研究グループは超常磁性酸化鉄粒子を金粒子と混ぜ合わせた、これによりナノ集合体は磁界によって制御でき、腫瘍への蓄積を強められる。さらに、赤外光がもはや届かないような組織の深い層で磁気温熱療法による集合体加熱に道を開くことになる。ここでは、粒子の加熱は陽極と陰極が高速に反転する磁界によって誘導する。
 ハイブリッド酸化鉄-金ナノ粒子は熱で癌細胞を殺せるだけでなく、磁気共鳴映像法による診断の可視化処理用の造影剤としても使用できる。またSotiriou氏は、「その粒子を温度応答性薬剤キャリアと結合すると、一定の温度を超えると投薬するようにできる」と説明している。こうすると望ましくない副作用が身体の他所で起こらないように、あるいは副作用をなくすことさえできる。
(詳細は、www.ethz.ch)