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画期的な光デバイスが光情報処理を改善

April, 17, 2014, St. Louis--ロンドンのセントポール大聖堂には、ささやきの回廊(Whispering Gallery)と呼ばれるドームがあり、曲面を音波が伝わってくる結果、反対側のささやきを聞くことができる。ワシントン大学の研究グループは、同じ現象を利用して光デバイスを作製した。このデバイスによって、より高速に、より低温で動作する強力なコンピュータが実現できることになる。
 電気/システム工学准教授、Lan Yang, PhDの研究グループは、光で走るこの新しいコンピュータの必須コンポーネントを開発した。
 開発したのは、微小なドーナツ型の光共振器、1つは利得を、他方は損失を持つ共振器で、これらをシリコンチップ上で結合して光ダイオードを作製した。「このダイオードは、1方向への光伝搬を完全に除去し、逆方向への非相反的な光伝搬を大幅に強めることができる」と研究グループの大学院生、論文の筆頭著者、Bo Peng氏は説明している。
 電気のダイオードは、線に沿った電流の逆流を防ぎ、電子回路、プロセッサなどの重要部品を保護する。光ダイオードは、同じことを光で行う。
 「われわれの発見は、エレクトロニクス、音響学、プラズモニクス、メタマテリアルを含む多くの他の分野に利益をもたらす。PT(パリティ・タイム)対称性を用いた、いわゆる損失デバイスと利得デバイスとの結合により、クローキング(遮蔽)デバイス、より少ない入力パワーで動作する強力なレーザなどの進歩が可能になる。恐らく、単一原子を検出できるディテクタも可能になる」(Yang)。
 PT対称性の原理は、ワシントン大学芸術&科学、Carl M. Bender, PhD, the Wilfred R. およびAnn Lee Konneker物理学名誉教授が発展させた数学理論に基づいている。
 簡単に言うと、「損失」系が、ある均衡点でエネルギー損失が正確に等しい利得を持つ「利得」系と結合すると、「位相転移」が起こる。
 PT対称性の原理を適用すると、オプティクスは、損失のみ、あるいは利得のみの従来の物理学が予想しなかった、全く違う振る舞いをする。「位相転移」で起こる現象は劇的であり、これまで予想されていなかったものである、とYang氏は説明している。
 この共振器を作製するために、2つのマイクロレゾネータを使い、光が一方から他方に流れるように設置した。一方のデバイスは「損失の多い」シリカ共振器。
 他方は、利得を得るために、シリカ構造にエルビウムを添加している。研究グループのSahin Kaya Ozdemir, PhDによると、エルビウムが1450nmの光波長と相互作用すると、1550nm波長のフォトンを放出する。1550nmに設定した検出器が、このエルビウムを含む共振器からの利得を検出するようになっている。
 一方の共振器の利得量が他方の共振器の損失量と正確に等しいとき、両共振器の最適結合距離で位相転移が起こる。
 最も重要なことは、PT対称性が破れ、非常に弱い入力パワーでも系が強い非線形的な振る舞いを示すことである。急激な非線形スロープで入力光の強度が強くなる。「その結果、時間反転対称性が破れ、光が1方向にのみ、順方向に進むようになる」(Yang氏)。
 「時間反転対称性は基本的な物理法則であり、光が1つの方向に進むことができるなら、逆方向にも進むことができなければならないと言っている。この新しい光ダイオードでは、これはもはや正しくない。エンジニアは従来、磁気光学や高磁場を用いて時間反転対称性を破ってきた。ここでは破れたPT対称性によって可能になった強い非線形性を用いる。わずか1µWの入力で、1つの方向への光伝搬を17倍強化できる。逆方向への光伝搬は存在しない。このような振る舞いは、共振構造とPT対称性の概念を使わずして可能にはならない」(Ozdemir氏)。
 研究グループによると、共振器は十分に小さく、コンピュータや将来の光情報プロセッサで使用できる。現在、この光ダイオードをシリカで作製しており、シリカは通信波長で極めて損失が少ない材料。Peng氏は、「このコンセプトは他の材料でできる共振器にも拡張して、CMOS適応も簡単にできる」とコメントしている。