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レーザの原理で超伝導の機構を解明

July, 4, 2018, 仙台--東北大学などの研究グループは、有機超伝導体に極めて強い光パルスを照射した瞬間、光が増幅される現象(誘導放出)が起こることを発見した。さらに、この誘導放出は、超伝導の発現の仕組みとも関係していることが明らかになった。今後、銅酸化物や鉄ヒ素系などの高温超伝導の機構解明に役立つことが期待される。

 研究では、6 フェムト秒(fs)という極めて短いパルス幅のレーザ光を用い、ポンププローブ法と呼ばれる方法によって、有機超伝導体の非線形光学効果を調べた。6 fsという時間間隔は原子が動く時間スケールよりも短いため、原子の運動によって物質が暖まる暇がなく、物質が壊れることもない。
 研究グループによると、誘導放出のスペクトルやその時間プロファイルを詳しく解析したところ、通常の励起状態からの誘導放出や、その他の非線形光学効果では説明できないことがわかった。
 量子多体効果を考慮した理論シミュレーションによれば、極めて強い光をこの物質に照射した場合、電荷が下に偏った状態と上に偏った状態の間の振動によって、この誘導放出が起きることがわかった。この振動は、同期現象と呼ばれる非線形効果に例えることもできる。同期現象は、吊り橋を歩く群衆の(それぞれ異なる)歩調が同期して橋を大きく揺らしたロンドンのミレニアム橋の閉鎖(2000 年)で有名。
 有機超伝導体を構成する分子間の距離や相対角によって、電荷が分子間を振動する周期は様々に異なるが、強い光電場と電子間のクーロン反発によって、それらが、同一のリズムで振動をすることが可能になる。
 さらに、誘導放出の強度は、超伝導の転移温度付近で異常な増大を示す。この研究で観測された誘導放出の時間応答と温度依存性は、超伝導の微視的な機構(クーパー対の形成)に、電子間のクーロン反発が重要な役割を果たしていることを示している。
 銅酸化物高温超伝導体や有機超伝導体では、電子-フォノン間の相互作用を引力の起源とする BCS 機構以外の機構が長年議論されてきたが、「相互作用の時間スケールを実測する」という新しい方法によって、この問題が明らかになる可能性がある。
「非線形フォトニクスによって、超伝導の機構を解明する」というこの研究の挑戦は、最先端レーザ技術に加え、有機結晶における化学圧力の制御、精密ナノ薄膜制御、量子多体理論の各分野をリードする最先端の研究アプローチを有機的に組み合わせることによって初めて実現したものである。
研究成果は英国科学雑誌「Nature Photonics」のオンライン版に掲載された。
(詳細は、www.tohoku.ac.jp)

研究グループ
東北大学大学院理学研究科の岩井伸一郎教授、川上洋平助教、石原純夫教授、中央大学理工学部の米満賢治教授、東北大学金属材料研究所の佐々木孝彦教授、名古屋大学大学院工学研究科の岸田英夫教授、分子科学研究所の山本浩史教授、川口玄太特任助教。