コヒレント特設ページはこちら

Science/Research 詳細

発光コンタクトレンズで失明の主因を阻止

May, 14, 2018, Paradena--世界中で数億人の人々が糖尿病を患い、病状が進行すると、失明、糖尿病性網膜症の危険が忍び寄る。既存の治療法は、効果的ではあるが、苦痛であり侵襲的で、眼にレーザや注射をする方法。Caltechの院生、Colin Cookは、もっと良い方法があると考えている。
 Caltechの電気工学・医用工学Anna L. Rosen教授、Yu-Chong Tai研究室のグループとともにCookは、恐怖も侵襲性も遙かに少ない、暗闇で光るコンタクトレンズという有望な治療法を開発した。
 糖尿病にともなう失明は、糖尿病が眼も含めて身体の小血管に引き起こす損傷の結果である。病気の進行にともない、身体は網膜内に新しい血管を成長させることで損傷した血管の影響を相殺しようとする。しかし糖尿病患者では、こうした血管は発育が悪く、眼の内部の透明な液体に出血し、見えなくなったり、視力が悪化する。血管の出血にともない、網膜にさらなる損傷を引き起こす。身体は、新しい感光性細胞ではなく、瘢痕組織で網膜を修復する。やがて、糖尿病患者の視覚はかすみ、つぎはぎになり、完全に衰える。

網膜の損傷は、酸素の供給不足から始まるので、網膜の酸素要求を減らすことでさらなる視覚の損失を回避することは可能である。これまで、レーザを使って網膜周辺部の細胞を焼くことで達成してきた。それによりその細胞が必要としていた酸素は、網膜中心のより重要な視覚細胞が利用できるようになる。別の治療では、薬剤を直接眼球に注入して新しい血管の成長を減らす。

レーザ治療と同じように、新開発のコンタクトレンズは網膜の代謝要求を減らすが,方法は違う。成功の決め手は、微光状態で見えるようにする眼の桿体細胞である。桿体細胞は、光が溢れているときよりも暗闇で多くの酸素を必要とし、使う。20年前から、桿体細胞が夜に酸素要求を引き上げるときに糖尿病性網膜症により網膜に起こる損傷の多くは起こると仮定されていた。
 このため、新開発のコンタクトレンズは、それをつけて眠っている間に、桿体細胞に見るための微光を与えることによって網膜の夜間の酸素要求を減らすように設計されている。
 夜間を通して網膜に光を与えるために、レンズは表面に光るマーカーを持つ腕時計から技術を借用している。照明は、トリチウムを満たした小さな小瓶によって供給される。トリチウムは減衰にともない電子を放出する水素ガスの放射性形態である。その電子がリン光コーティングによって光に変換される。このシステムが、コンタクトレンズの寿命で一貫した光出力を保証する。
 人の髪の毛、数本の幅しかない小瓶は、漫画の太陽光線のように放射パタンでレンズに埋め込まれている。その小瓶は、明るい状態で瞳が収縮する時に、ちょうど装着者の視界の外側に入るほどの円を作る。暗闇では、瞳が広がり、小瓶からのかすかな光が網膜を照射する。
 糖尿病性網膜症の光治療は、点灯した安眠マスクの形で以前から行われてきたが、結果はよくなかった。患者にとってマスクが耐えがたく、睡眠中に眼を照らす光を患者が無視するのが理由の1つである。
 スリープマスクの光源は、眼に張り付いていないので、眼が動くと装着者は明滅を見ることになり、眠りに落ちようとしていると非常に気が散る、とCookは指摘している。
 同氏によると、新開発のレンズは、光源を眼の表面に取り付けることでそうした問題を回避している。したがって、眼が動くと、それとともに光源も動き、装着者は明滅を感じない。
 「一貫した光が眼を照射していると神経が適応する。脳は、視覚からその信号を差し引いて、装着者は、わずか数秒で再び暗やみを感じる」と同氏は説明している。
 コンタクトレンズの設計は、網膜が夜を通して適量の光を確実に受け取るようにしている。
 「眠るにつれて眼は縮小する。スリープマスクでは、これは眼が十分な光を受け取らないことを意味するが、コンタクトレンズは、眼とともに動くので、そうした問題はない」と同氏は言う。
 南カルフォルニア大学で行われた実験では、有望な結果が得られている。暗やみで装着していると桿体細胞の活動は90%減少した。次の数ヶ月で、網膜代謝を減らすコンタクトレンズの能力が糖尿病性網膜症を阻止するようになるかどうかをテストする。このテストの後、研究チームは、臨床試験の許可をFDAから得る予定である。