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Science/Research 詳細

材料プローブにシリコン「レンズ」を使うニュートロン干渉計

April, 5, 2018, Gaithersburg--中性子ビームを集光させる画期的な新方法により研究者は、これまでは不可能だったサイズで不透明物体の内部を探求することができるようになる、これにより隕石から最先端の人工材料まで損傷を与えることなく物体の内部を調べることができる。
 研究成果はPhysical Review Lettersに発表されている。この方法は、歴史的に中性子科学の支援ツールだったものを本格的なスキャニング技術に変換する。新技術は、より大きな物体内で1nmサイズから10µmの範囲の詳細を明らかにすることができる。そのアプローチは、中性子干渉法として知られているこのツールに、基本的に初めての可動「レンズ」となるものを提供する。レンズは、このサイズ範囲でズームイン/アウトできる。その範囲は、他の中性子スキャニング法でもプローブが難しかった。
 より正確には、この「レンズ」は回折格子(グレーティング)として機能するシリコンウエファであり、中性子の波長のような特性を利用している。グレーティングは、中性子ビームを分けて、方向を変える。波は物体の端で跳びはね、相互にぶつかり、専門家には容易に解釈できる、物体を示す可視的なモワレ干渉パターンを作る。
  その方法を開発したのは、NIST、NIH (National Institutes of Health国立衛生研究所)、カナダのウォータールー大学の研究チームである。NISTのMichael Huberによると、そのアプローチは中性子干渉計を材料科学者のキットで最高の探求ツールの1つにすることができる。
 NIST物理計測研究所の物理学者、Huberは、「われわれは、多くの異なるレベルでまた異なるスケールで構造を見ることができる。それは、分解能が非常に高いので、他のスキャニング技術を補完できる。集光能力は飛躍的に高く、他の方法のように物体の薄いスライスの観察に制約されない、つまり厚い岩の塊の内部を容易に見ることができる」と説明している。
 干渉法は、中性子科学の世界では特殊である。科学者が中性子ビームで物体の内部を調べることができる前に、まず中性子が物体の原子構造でどのように跳びはねるかについて重要な細部が分かっていなければならない。その細部の1つは、物資の屈折率であり、これはビームが進む方向からどの程度ビームを曲げるかを示す数値である。中性子干渉法は、その重要な計測をするために最良の方法である。
 中性子干渉法は、重力定数の正確な計測など、基礎物理学の他に利用できる可能性もある。ちょうど地球が飛んでいるボールを引きつけるように、物体の重力がどのように中性子を曲げるかを検出できるだけの感度がある。しかし中性子干渉法のアキレス腱は、その作用が非常に遅いことであった。中性子を材料サンプルに集光するためには、干渉計は曲がった結晶を必要としていた。結晶は、高価で最高品質の単一の大きな塊からとり、正確なサイズにカーブしていなければならない(他の中性子技術は、遙かに低品質の結晶で間に合わせることができる)。
 残念ながら、干渉計に十分な品質の結晶は、それに当たるほとんどの中性子も遮る。すなわち、ビームが十分な中性子をサンプルに透過させて正確な屈折率を得るために長い時間がかかることを意味する。他の作業ならもっと長くかかる。
 新しいアプローチは、単一の高価な結晶の代わりに、3つの薄いシリコングレーティングを使って中性子を集光することで、こうした問題を回避する。顕微鏡で見ると、各グレーティングの平坦面は、狭い近接した歯の櫛のように見える。グレーティングは中性子ビーム全体を透過させるだけでなく(中性子がポツポツと結晶透過するのではない)、動かせるという重要な利点がある。
 「mmのほんのわずかな動きで焦点を合わせる、わずかであるが、難しくはない」とHuberは言う。
 NIHの国立心臓、肺、血液研究所シニア研究者、Han Wenは、「そのアイデアはまずわれわれの研究所で開発された。空気中よりもわずかに異なる速度でX線が進む材料の画像を撮るためである、たとえば人体そのものなど。このアイデアの中心にはX線グレーティングがある。これは、NIST Nanofabファシリティで非常に特殊なツールで造られていた」と説明している。
 偶然、NISTとウォータールー大学の研究者が会議でNIHチームメンバーと一緒になり、提携が始まり、グレーティングはX線と同じように中性子にも上手く機能すると考えた。NIHチームは、グレーティングをNISTに持ち帰り、それを中性子干渉計に組み込んだ。
 NCNRで同様によい結果が得られ、Huberは、干渉計が産業用の素晴らしいツールになるには1つだけ問題があると指摘した。中性子ビームが干渉計に当たる前に透過する様々な幅の開口部が必要になる。現在、自由になるアパチャは1つしかなく、それが干渉計の制約になる。
 「今では、1nmから10µmまでのフルレンジを見ることができるが、十分なデータが得られないので画像は鮮明ではない。すべての異なる開口部から別のデータポイントが得られ、十分なポイントによって材料の微細構造の定量的な分析ができるようになる。100くらいのポイントが得られると、詳細な定量的情報が得られるようになる」と同氏は話している。
 研究チームはすでに花崗岩の塊の内部をスキャニングした。そこには4つの異なる鉱物が含まれており、スキャンによって個々の鉱物の在処の詳細が分かる。Huberによると、その方法は、隕石のような孔の多い物体あるいは人工材料、たとえばゲルや泡、多くのコンシューマー製品の基盤となるものの非侵襲的スキャンに適している。
(詳細は、www.nist.gov)