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Science/Research 詳細

キラル筒状分子の右手と左手、二重らせん型集積と有機分子での最強円偏光発光

November, 29, 2017, 東京--東京大学大学院理学系研究科の磯部寛之教授(JST ERATO磯部縮退π集積プロジェクト研究総括)の共同研究グループは、炭素と水素からなる筒状分子のキラリティ(右手性と左手性)が、その分子の集積構造や光物性という特徴を決定づけることを明らかにした。

発表の要点
1.炭素と水素からなる筒状分子が固体中で二重のらせん階段状に集積することを発見した。この二重らせんの巻き方は、筒状分子のキラリティにより決定されていることがわかった。
2.キラルな筒状分子は有機分子として極めて強い円偏光発光を実現し、円偏光発光の偏り強度(非対称要素)は、有機分子として史上最高値を記録した。さらに史上最高の偏り強度を実現するには筒状の分子構造が鍵であることが明らかになった。
3.この筒状分子は、有限の長さをもつ単層カーボンナノチューブ分子が将来、光学材料などの有用な分子材料となることを予見させる成果となる。

 共同研究グループは、まず、筒状分子が二重のらせん階段状に組み上がることを見いだした。この二重らせんが形づくられる際、筒状分子の右手性・左手性が、らせん階段の左巻き・右巻きを決定していることを発見。二重らせんのような高次な集積構造は、核酸分子やたんぱく分子などにおいて自然界ではよく見られるものだが、炭素と水素のみからできている分子(炭化水素)では見つかったことはない。本来、炭化水素分子間の相互作用は非常に弱いが、筒状分子では「筒状」という独特な構造が二重らせん形成を促したものと考えられる。
 さらに共同研究グループは、筒状分子が溶液中において有機分子として最も強い円偏光発光を示すことを見いだた。これは、有機分子で実現可能な円偏光発光の非対称要素(g値)を、半世紀ぶりに大幅に塗り替えるものである。この研究で用いた筒状分子は、単層カーボンナノチューブの部分構造をもつ分子であり、有限の長さをもつ単層カーボンナノチューブ分子が将来、光学材料などの有用な分子材料となることを予見させる成果となる。
 研究成果は、「米国科学アカデミー紀要(PNAS; Proceedings of National Academy of Science U.S.A.)に2017年11月27日に掲載された。
(詳細は、www.s.u-tokyo.ac.jp)