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脳の領域間を伝わる信号を一挙に観測できる新手法の開発に成功

February, 8, 2017, 町田市--玉川大学脳科学研究所の礒村宜和教授を中心とした、玉川大学・福島県立医科大学・東北大学の共同研究グループは、世界で初めて脳領域間を伝わる信号を一挙に観測できる新手法の開発に成功した。
 今回の研究では、「スパイク衝突」という現象を利用して、多数の領域間の配線関係を並行して同定し、それらの配線を伝わるスパイク信号を同時に観測することができる新しい方法を初めて開発し、「Multi-Linc法」と名付けた。
 実際に、この手法を行動中のラットの大脳皮質に適用することで、大脳皮質に存在し出力先の異なる2種類の神経細胞を(顕微鏡で軸索の行先を確認することなく)同定するとともに、両者のスパイク信号の特性の違いや行動との関連性も見出され、この手法の有用性を実証することができた。
 この新手法の開発のカギとなったのは、神経細胞の出力先を特定するためのスパイク衝突を並行して検出するために、多領域の人為的刺激と多領域のたくさんの神経細胞のスパイク信号の観測を組み合わせた点。研究グループは、特定の光に応答する特殊なタンパク質分子を全脳の神経細胞に発現する遺伝子改変ラットに、特定の光を照射することで、人為的にスパイクを発生させることが可能である光遺伝学的刺激法と、半導体製造技術で作られた多点電極(シリコンプローブ)を介して多数の神経細胞のスパイク信号を観測できる多細胞同時記録法を組み合わせることで、多数の領域間配線を同定しスパイク信号を観測できる手法を開発した。
 この手法を使って、ラットの大脳皮質の異なる領域(一次運動野と二次運動野)でスパイク信号が観測された神経細胞を、スパイク衝突で判明した出力先の違い(例えば、反対側の線条体、同側の視床)から2種類の細胞型(IT型神経細胞とET型神経細胞)に正しく同定・分類できることを示した。これら出力先の判明した神経細胞は、前肢の動作に先んじてスパイク信号が変化したことから、運動野細胞として運動情報を伝えていることを確認。さらに、ET型神経細胞はIT型神経細胞と大きく異なるスパイク信号のパターンを示すことも明らかにした。このように、この手法は行動している動物の脳内情報の研究に活用できることを実証した。
 この研究では、行動中の動物における脳領域間の情報伝達を細胞単位かつミリ秒単位で効率よく追跡する革新的な脳活動計測技術を確立した。この手法は、ラットやマウスのような小さな脳だけでなく、マーモセット等の霊長類の大きくて複雑な脳の仕組みや働きを探る研究にも応用可能。現在、コンピュータによる自動化の技術を採り入れて、この手法の大幅な効率化と大規模化の実現を目指している。
 研究成果は、脳神経科学の重要な基盤技術の一つとして、異なる脳領域はスパイク信号を使って一体どのように情報をやりとりしているのか、すなわち「脳の通信プロトコル(手順)」を解読する研究を促進することが期待される。
 研究成果は、米国の神経科学分野の学術誌 “Cerebral Cortex”掲載された。