コヒレント特設ページはこちら

Science/Research 詳細

新しい中赤外レーザシステムで大気化学物質を検出

July, 1, 2016, Binghamton--MITなどの研究グループは、中赤外レーザを使って戸外の空中の分子領域を帯電したガス、つまりプラズマの光るフィラメントに変える新しい方法を見出した。新方法により、広範な化学物質を高感度で検出するリモート環境モニタリングが可能になる。
 新システムは、中赤外超高速パルスレーザシステムを利用してフィラメントを生成する。フィラメントの色が、多様な分子の化学的フィンガープリントを明らかにする。研究成果は、Opticaに発表された。
 MITのエレクトロニクス研究所、Kyung-Han Hongの説明によると、電磁スペクトルの近赤外部分でレーザによって生成されるようなフィラメントは、レーザベースの測距やリモートセンシングなどへの利用が有望であることから、すでに幅広く研究されてきた。ハイパワーレーザによって生成されるフィラメント現象は、通常レーザビームが空気中を透過する際に発生する回折効果を無効にするのに役立つ。出力レベルがある点に達し、フィラメントが生成されると、フィラメントは自己誘導チャネルとなり、レーザビームが強く集束される。
 しかし、広範な生物化学化合物や大気汚染物質の検出で最も有望視されているのはNIRではなく中赤外(mid-IR)波長である。オープンエアで中赤外フィラメントを生成しようとした研究者は、これまでほとんど成功していない。
 唯一の成功例では、パルスレートは1秒に20パルスと非常に遅かった。今回の最新成果は、1秒に1000パルスを使うもので、Hongによると、実用的な検出ツールに必要とされている高いレートはこれが初めてである。
 「今回のチームの成功の決め手は、パルス幅30fsの高出力フェムト秒レーザを使用したことである。波長が長ければ長いほど、所望のフィラメントを得るには一層大きなピークパワーが必要になる。これは回折が強くなるためである。チームのフェムト秒レーザは、パラメトリックアンプリファイアと組み合わせて、作業に必要なパワーを供給することができた。この新しいレーザシステムは、ハンブルクのFranz X. Kaertner、その他のグループと過去数年で共同開発したもので、このデバイスが生成するピークパワーレベルは世界最高の1つであり、100GWに達する」とHongは説明している。
 同氏によると、このような中赤外波長でフィラメントを生成するには、少なくとも45GWが必要になる。したがって、このデバイスは、その要件を簡単に満たしている。研究チームは、デバイスが期待通りに機能することを実証した。これによって、遠隔から空気中の広範な化合物を検出する潜在力が開けてくる。
 特別に広帯域化した中赤外フィラメントを使い、フィラメントの正確な色(波長)を検出することで、実質的に検出したいどんな分子でも検出することができる。これには、バイオハザードや大気汚染物質も含まれる。中赤外域では、特殊化学物質の吸収スペクトルが容易に分析できる。
 これまで、実験は実験室内の短距離に限られていたが、さらに開発を進めて、距離を延ばす。「これは原理実証デモンストレーションに過ぎない」とHongは話している。