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東京大、電子顕微鏡の新機軸、半導体pn接合の界面電場観察に成功

June, 17, 2015, 東京-- 東京大大学院工学系研究科附属総合研究機構の柴田直哉准教授らは、開発した分割型検出器を用いて、半導体pn接合界面の電場を世界で初めて直接可視化することに成功した。これは、JST戦略的創造研究推進事業の研究課題の一環。
 半導体のp型領域とn型領域の界面であるpn接合は、トランジスタ、発光ダイオード(LED)、太陽電池などの性能を決定づける極めて重要な界面。これらのデバイス開発では、この界面をナノメートルスケールレベルでいかに正確に作ることができるかが重要なポイントとなる。しかし、これまでの電子顕微鏡法では、pn接合のナノレベルの正確な位置やそこに形成される局所的な電場を直接観察することはできなかった。さらなる高性能材料・デバイス開発のためには、材料・デバイス中のナノスケールのpn接合を直接観察する手法の確立が望まれていた。
 研究グループは、新たに開発した分割型検出器を備えた走査型透過電子顕微鏡(STEM)により、pn接合に形成される電場を高空間分解能、かつ定量的に可視化することに世界で初めて成功した。pn接合での電場強度が直接可視化できることで、pn接合界面で電子や正孔の挙動を正確に予測できる手法に展開できると考えられる。
 この技術により、半導体デバイス中のpn接合の位置、形状、電場強度を詳細に解明できるようになれば、高性能な半導体デバイス開発に必須の精密かつ効率的なキャリア(電子、正孔)制御が可能となりコンピュータ、スマートフォン、LED、太陽電池などの性能向上や省エネ化へ大きく貢献できる。
 この研究は、JST戦略的創造研究推進事業 個人型研究(さきがけ)の一環として行われ、東京大学の幾原雄一 教授、松元隆夫 特任研究員、オーストラリア・モナシュ大学のスコット フィンドレイ博士、古河電気工業、日本電子(JEOL)と共同で行った。
 研究グループは、新開発の分割型検出器を用いたSTEMにより、半導体pn接合の内蔵電場観察に世界で初めて成功た。また、その像コントラストを定量的に評価し、像のシミュレーション計算と融合することにより、その電場強度の定量検出にも成功した。観察では、ナノレベルに絞った電子線が、pn接合界面に形成された局所的な電場によって僅かに偏向される現象を利用しており、分割検出器によりその曲り角を検出することでpn接合界面の位置をナノスケールで正確に決定することを可能にする。この手法は、微分位相コントラスト(DPC)法と呼ばれ、今後材料中の電磁場観察に広く応用できることが期待できる。また、pn接合での電場強度が直接可視化できることで、pn接合界面で電子や正孔がどのようにふるまうのかを予測したり、目的とするpn接合界面が実際に形成できているかどうか検証するための不可欠な手法になると考えられる。
 近年、太陽電池、発光デバイス、トランジスタなどの研究開発において、材料のミクロな構造を積極的に制御し、特性向上を目指す研究開発が精力的に行われている。特に、電流を制御したり、光エネルギーと電気エネルギーを相互に変換したりすることのできるpn接合界面の制御は、エネルギーの高効率利用を考える上で極めて重要。この研究成果により、的確なpn接合界面制御が行えているのかを直接評価することが可能になれば、より効率的なトランジスタの開発や高効率な光電変換素子の開発を強力に前進させることが期待できる。
 また、顕微鏡法による電場直接観測技術は、物理化学、生命科学、電子情報工学、材料科学などの先端的基礎研究分野や半導体デバイス、表面処理技術、高分子材料、バイオ材料、電池業界などの多様な産業分野においても活用できる可能性があり、これらにおける研究開発の水準と研究開発効率を格段に向上させるものと期待される。
(詳細は、Scientific Reports- online)