ニュース 詳細

製品レビュー:Würth Elektronik社のEMCフィルタキット

 数週間前、私はWürth Elektronik社からEMCフィルタキット一式を入手した。これは実地でも学究的環境でも役に立つ優れものである伝導エミッションのフィルタリングに興味があるなら、これはディファレンシャルモード(DM)とコモンモード(CM)エミッション両方の部品とトポロジー評価に非常に役立つ。このキットは、ある種のシミュレーションツール(つまりLTSPICE)と、Omicron社製のBode100のような周波数応答アナライザと組み合わせると特に有用である。

1.概要
 キットはドイツ製らしく伝統的で堅牢なプラスチックの箱に入っている。キットの内容は以下の通り(図2参照)。

・ラインフィルタを作るのが簡単な複数のPCB
・DMフィルタリング(ラインーニュートラル)用Xコンデンサ
・CMフィルタリング(ラインー接地およびニュートラルー接地)用Yコンデンサ
・CMフィルタリング用コモンモードチョーク
・安全規則に定められたとおりのXコンデンサ放電用抵
・ピンセット
・SMDターミナル
・プラスチックスペーサー
・カタログおよび付属書類

 このキットを使えば、ユーザーはWürth社製部品を使ったある用途について最適なトポロジーを簡単に調べることができるが、もう1つ有用だと思うのは、キットを使ってEMC伝導エミッションフィルタについて学ぶという可能性である。

2.トポロジーと部品
 異なるトポロジーと接地面積を持つ部品用の統合PCBを使うと、あらゆる設計を数分で簡単に試すことができる。PCBボードに実装された基本的トポロジーは図3のとおり。
 キット内で私が基本的に見つけたものを概略情報として以下に述べる(この情報は案内にすぎず、将来のキットでは変わる可能性がある。というのも私はWürth Elektronik社の設計者は常に評価用の新しい部品の入った新しいベストなキットを探しているのを知っているからである)

・数種類の接地面積および組み合わせで部品をはんだ付けできるようにしたPCボード10枚
・10 nF、15 nF、150 nFの値を持ち275 VAC定格のX2コンデンサ数個。高い周波数の信号に対し低いインピーダンスのパスを確保する。
・安全規則では必須であるXコンデンサ放電用の10 MΩの抵抗器10個。この抵抗器はコンデンサに並列に接続されている。
・680 pF、1 nF、2.2 nFの値で定格250 VACのX1/Y2コンデンサ多数。このコンデンサは、CM(ラインーニュートラル)およびCM(ラインー接地およびニュートラルー接地)パスモードを循環しようとする高い周波数の信号に低いインピーダンスのパスを確保する。
・700 uH、1 mH、2.2 mH、3.3 mH、 5 mH、6.8 mH、7 mH、9 mH、10 mH、20 mH、27 mHのコモンモードチョークを数個ずつ。7mHおよび9mHの値のチョークはナノ結晶技術を用いている。CMチョークは、信号に高いインピーダンスをもたらすラインー接地およびニュートラル―接地パス(CM)を循環しようとする高い周波数の信号をフィルタするのに使われる。この部品は理論的にはDM信号に対してトランスペアレント(導通状態:何もないのと同じ)であるが、漏れインダクタンスがあるので、CXコンデンサを使ってディファレンシャルモード信号にフィルタ効果を提供できる。

3.キット使用例
 キット入手後すぐに組み合わせの1つを試してみた。プロセスは簡単である。部品を選び、PCB上ではんだ付けする。詳しい分析(それは後で)が不要なだけでなく、迅速に実用レベルの試作ができるので、テーマに対して熱意が沸いてくる。150 nFのXコンデンサ1個、1 nFのYコンデンサ2個、5 mHのCMチョーク1個を選ぶことにした。DMおよびCMモードでのフィルタの応答は図4に示す自分の機器Bode 100で測定した。
 両方のモードと異なる周波数で減衰を特定できることに注意し、部品および/またはレイアウトが原因の寄生共振を確認して、どこかの周波数(例えばDMモードの30 ~ 40kHz)で特別なエミッション増加を生じ減衰が不足している周波数応答を見つける。
 この経験は本当に有益なので、今後のEMC伝導エミッション問題のためにこのキットを使うことをお勧めする。

著者紹介
 Arturo Mediano氏は電子工学分野で1990年にM.Sc.、1997年にPhD.をスペインZaragoza大で取得し、同大で1992年よりEMI/EMC/RF/SIを教えた。1990年以降、通信、産業、科学、医療用途でEMI/EMC/SI/RF分野のR&Dプロジェクトに関わり、トレーニングやコンサルタン、トラブルシューティング業務で確固たる経験を持つ。その活動範囲はスペインのみならず米国、スイス、フランス、英国、イタリア、ベルギー、ドイツ、カナダ、オランダ、ポルトガル、シンガポ―ルと幅広い。Zaragoza大学のI3AでEMI/EMC/SIおよびRF分野設計、診断、トレーニングに特化したラボHF-Magic Lab(R)を設立。2011年からBesser Associates(米国カリフォルニア州)でEMI/EMC/SI/RFに関する公開講座および全米、特にシリコンバレーやサンフランシスコのベイエリアでの出張講座の教師を務めている。IEEEのシニアメンバーで、1999年からはMicrowave Theory and Techniques Society のMTT-17(HF/VHF/UHF)Technical Committeeの活動メンバーで(2013~2016年は議長)、Electromagnetic Compatibility Societyのメンバーでもある。

2018年3月12日 by Arturo Mediano