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EMC規格【特集】「MIL-STD-461」レビュー by Steve Ferguson(2)伝導エミッション:CE101「低周波電流、電源リード線」CE102「高周波ポテンシャル、電源リード線」

1.はじめに
 この記事は、MIL-STD-461の現行版である改訂“G”版に含まれるアップデートなどCE101とCE102について論じる。CE101の試験タイトル「伝導エミッション低周波電流、電源リード線」およびCE102のタイトル「伝導エミッション無線周波ポテンシャル、電源リード線」は、試験周波数範囲と測定方法の見識を表している。これらの試験は、EUTから出る電源線に重畳する不要な信号の量を測定する。確認しなければ、この信号は送電線を経由して他の機器に伝導するか、空中に放射されて他の機器に受信されるか、どちらかの結合方法によって有害な干渉を生じることがある。
 CE101とCE102の試験方法は両方とも冒頭からCE01、CE03とナンバリングされているMIL-STD-461試験プログラムの一部であった。CE01は周波数範囲30 Hz~15 kHz(20 kHz)を、CE03は15 kHz(MIL-STD-462では20 kHz)~ 50 MHzをカバーしている。両方の試験方法とも電流プローブで測定する技術を用いるので正確な周波数変化には大きな影響を示さなかった。電流プローブをCE01試験では電源アイソレータ(10 mFのコンデンサまたはLISN)の近くに、CE03試験では試験サンプルの近くに置いた。信号ケーブルの放射測定について脅威があるかどうか決定するために同様の試験が規定されていた。
 CE03はエミッションが狭帯域(NB)または広帯域(BB)どちらに分類されるか判定する試験も求めていた。BBエミッションに対する限度値ではより高い振幅が許容されている。というのも、この種のノイズは人間の感覚により穏やかに作用するからである。木々の間を吹きぬける風は多くの可聴周波数(BB)を生じるが、これを単一周波数(NB)のサイレンと比較してほしい。風があっても音声の聞き取りは可能だが、サイレンは音声の聞き取りに大きな支障となる。以前は無線通信への干渉が支配的な問題だったのでNBとBBの切り分けは、製品の適合性評価に顕著な影響を及ぼしていた。
 BBが話題に出たので、ここでその決定についてレビューするのがタイムリーと思われる。MIL-STD-462は、この決定をサポートする2つの試験を用意している。

試験1:
1. レシーバをピーク信号周波数に合わせる
2. 周波数を±2 IBW調整する(IBW[注1] はレシーバ校正のインパルス帯域幅で測定)
3. 振幅の変化が3 dB未満の場合、信号はBBとして分類される。

試験2:
1. エミッションのパルス繰り返し周波数を測定
2. パルス繰り返し周波数がレシーバのエミッションのIBWと同じあるいは低い場合、エミッションはBBに分類される。

 以上2つの試験結果のどちらかがBBと分類されれば、エミッションはBBであり、許容を決定する限度値と比較する。BBに対する限度値測定単位がdBmA/MHzであることを忘れず、MHzの変換ファクタに-20logBWを適用して測定をMHz単位に正規化しなければならない。
 こういった測定が一般的だった頃には、NB/BBの決定ができる特注の特許ソフトウェア付きスペクトラム・アナライザを使用し、適切なチャートに記録していた。今ではこのプロセスは手動で時間がかかるため、試験プログラムにこれを使う場合は、手動のインタラクションに十分な時間を取ること。
 簡単な評価としては、レシーバをエミッション周波数に合わせレシーバのBWを10倍に変更する。測定値に変化がなければエミッションはNBであり、測定値が10 dB以内の変化ならばエミッションはランダム・ノイズ、測定値が20 dB以内の変化ならばエミッションはBBである。この方法は規格には従っていないので正式な測定には規格の方法を使うことに注意。
 あっという間に時は過ぎて1993年、MIL-STD-461DとMIL-STD-462Dが発行され、周波数範囲30 Hz ~10 kHzの試験は電流プローブで測定するCE101に、周波数範囲10 kHz ~ 10 MHzはLISN(Line Impedance Stabilization Network)測定ポートで測定するCE102 に変更された。この改訂では、NB/BBの判定要求も削除され、選択された試験周波数に対し詳しいBWが規定された。試験プログラムの放射の部分でケーブル放射を測定できるよう、試験中のケーブル露出を要求していたので、信号線の伝導エミッション試験は、含まれなかった。
 さまざまな用途に対する限度値および主電源に対する電圧レベルが確立された。船上の交流電源に関する限度値はEUT 電流に基づいてCE101の限度値の緩和を規定することとなった。基本電流の増加に伴い関連する高調波周波数が増えると予想されるので、これは理に適っている。電流定格に基づいて限度値を間違って適用する試験員もいるだろう。この緩和値は、試験中のEUTから得られた電力周波数での実際の電流値に基づくべきである。次に、同様の適応が航空機には認められていないという問題があって、高電流デバイスの電源高調波規定の準拠は非常にむずかしい。MIL-STD-461はグランドシステムの限度値は定めていないが、航空機用電源系は緩和なしの限度値を使っていて、軍用以外の多くのシステムはこの限度値を使っている。このような状況にあっては、契約によって緩和を取込むか、緩和値を含めた試験手順の承認を検討する必要がある。
 MIL-STD-461EおよびMIL-STD-461Fでは、この特殊な試験について大幅な変更をしていない。MIL-STD-461Gは、特に信号インテグリティ評価においていくつかのアップデートを組み込んだ。このアップデートは、現行の“G”版に基づきCE101およびCE102について詳細に論じた以下のパートに含まれている。

2.CE101可聴周波数電流
 まず、既知の信号周波数と振幅を生成することで測定システムを確認する低い周波数の試験範囲から信号インテグリティの検証を掘り下げてみよう。次に、試験に選択した測定システムを使って正しい値を得ていることを確認する。確認に加えてターゲットとなる振幅は適用可能な限度値より6 dB低くし、測定システムが当該レベルのエミッションに対して感度を持っているか確かめる。信号源の測定は図のように構成する。“R”の選択はいくぶんオープンだが、測定しようとしているのは電流なので小さな抵抗器の値により過度の電位(電圧)にならない電流が可能なことを思い出してほしい。仮に25Ωを選択して検討してみよう。ターゲット電圧を限度値に基づいて決定する。
 確認する最初の周波数で限度値110 dBμAとすればターゲットは104 dBμmAつまり限度値より6 dB低い。104 dBμmA をリニア単位に変換すると158.5 mA(10(104/20) x 10-3 )が得られる。オームの法則を使えば、回路に流入する158.5 mAを生じるのに抵抗器全体で4 Vが測定されるまで信号発生器/アンプを調整しなければならないことがわかる。そうすると、単に電流を測定すればよく、データ修正ソフトで適切な修正および変換ファクタを適用した後に、測定値は104 dBμA(±3dB)であると確認できる。測定値が間違っている場合、ステップをデバッグして問題を見つけ出すことが必要で、修正後に確認を繰り返してインテグリティを確認する。規格が要求する他の周波数でインテグリティ確認を繰り返す。規格は1.1 kHz、3 kHz、9.9 kHzでのインテグリティ確認を要求しているが、これは1 kHz、3 kHz、10 kHzからの変更である。この変更は私を多少悩ませた。というのも、測定された信号がグラフの垂直目盛線によって邪魔されることを防ぐために、ほんの少し変更するようEMC試験コミュニティに求められたように思えたからである。
 信号インテグリティ確認が無事、完了すれば、図2に示すような試験機器構成ができるようになる。電流プローブで測定するので、LISN測定ポートは両方のLISNで終端されている。電流プローブは、試験に選択したライン上のLISN電源端子から5 cm の場所に置く。
 用途にもよるが、限度値の緩和がサポートされる場合もある。これを適用する場合は、基本電力の測定により限度値の緩和をすることになる。例えば、60 Hzでの測定は127.6 dBμAつまり2.4 Aという結果になる。従って、限度値は7.6 dB増加して限度基準値1 Aを超える。要求値の緩和は限度値ライン全体に適用される。緩和した限度値を生成して、測定システムソフトウェアによるデータ修正中に使えるようにする。
 次に、レシーバ/システムを用いて試験周波数範囲の測定だけを実施し、緩和を決定する限度値と比較する。残っている電源リード線の方へプローブを移動し、そのリード線へのエミッションを測定する。これを限度値と比較すれば、位相エミッションとニュートラル・エミッションのどちらも限度値を下回るので、EUTは要求に合っている。試験は完了しただろうか? 測定値をよく見ると、電源高調波エミッションは相リード線よりニュートラル・リード線でのほうが著しく低いことがわかる。流れる電流が他のリード線に戻れるよう、高調波電流はノーマルモード(ディファレンシャルモード)と考えられるので、低い測定値によって過度の漏れ電流、またはグランド接続経由で代替の電流経路を作り出す配線の問題がわかることもある。試験の妥当性を検討する前に、この状態を、解決しておく必要がある。
 ノーマルモード電流を紹介したわけだが、エミッションがノーマルモードかコモンモードか、どうすれば判断できるかおわかりだろうか? 相リード線とニュートラル・リード線が信号に対して一対の伝送線路と考えられるので、これをまとめ2本を並行に束ねて電流プローブを設置して測定するとエミッションレベルが激減した場合はノーマルモードが考えられる。ノーマルモード信号は2本のリード線間の位相差が180度にあると思われ、電流プローブで検出された際には双方で打ち消し合う傾向がある。

3.CE102無線周波数ポテンシャル
 CE102の計測手順はCE101と同様、規格の改訂“G”版でいくつかのステップが追加されたシステム・インテグリティの検証から始める。改訂“G”版ではLISNなどいくつかの受動試験機器が定期校正から外されたことを思い出してほしい。追加のインテグリティ検証ステップは、より広範囲な確認を伴う定期校正を補うものである。
 システム・インテグリティ確認構成を図3に示す。測定するエミッションを模擬するため、このプロセスによりLISNのEUT 側にある電源ラインに信号が注入される。信号の振幅は適用限度値より6 dB低く設定する。この際、LISNには通電しないこと。電圧を加えると信号発生器に損傷を与える場合があることに注意してほしい。
 オシロスコープで10.5kHz及び100kHzでの信号発生の出力振幅を確認する。信号発生器に負荷を加えるこの周波数ではLISNインピーダンスが50 Ωより大幅に低く、オシロスコープにより信号が正確に測定できるのでオシロスコープを使う。信号の振幅を設定したあと、測定用レシーバを用いて信号レベルを測定し、測定値が限度値より6 dB(±3 dB)低いことを確認する。
 周波数10.5 kHzと100 kHzのインテグリティ検証作業中、検証作業の第2パートを実施しなければならない。このパートは、LISNから信号発生器を取り外し、LISNの負荷効果なしにオシロスコープを使って振幅を測定する。負荷あり、負荷なしの振幅の差は、規格に記載された値に合っていなければならない。これによりLISNインピーダンスが確認できる。
 1.95 MHzおよび9.8 MHzでの確認では、LISNインピーダンスは信号発生器と一致し負荷による信号発生器の設定は変わらないのでオシロスコープは不要である。振幅を制限値より6 dB低く設定してから測定用レシーバを使って信号を測定し、測定値が限度値より6 dB(±3 dB)低いことを確認する。高い周波数を確認する際は、ケーブル終端からの反射波のリスクを避けるため “T”コネクタおよびオシロスコープの接続を取り外すこと。
 測定用レシーバへの接続に際し、主電源および関連するトランジェントからの損傷を防ぐために減衰器を挿入する。最初に電源が入ると、LISN測定ポートコンデンサは充電が完了するまで短絡回路として動作する。アッテネータは、この突入トランジェントを抑制する。規格では20 dBの減衰器の使用を求めているが、低レベル信号等、特別な用途ではトランジェント・リミッタの代用が測定感度を向上させる場合もある。
 全てのLISNの確認が完了したら、図4のような試験構成を実施する用意ができたことになる。EUTの操作を確立し、測定用受信機により、エミッション測定値を収集・記録する。各ラインは別々に試験し、使っていないLISN測定ポートは50 Ωで終端して、インピーダンスを整合させておく。

4.まとめ
 CE試験はむずかしくないが、データ不良の原因となる要素は数多くある。結果を検討し「このデータは論理的と言えるか?」と自問し、妥当性に疑問を持ったときは間違いがないか調べるか、問題となっていることをやり直すとよい。
 信号インテグリティ確認を安易にとらえてはいけない。というのも、このプロセスではハードウェア操作から修正・変換ファクタを適用する正しいファイル選択まで、多くの確認が必要なのである。測定システムのケーブルはインテグリティ確認の一部なので、その影響を無視してはならない。
 どんなエミッション試験であっても、EUTのサイクル時間を確実に考慮すること。測定レシーバの最小データ取り込み時間よりEUTのサイクル時間が長い場合、データ取り込み時間をEUTのサイクル時間に設定する必要がある。(2018/04/19)