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妨害源の置換測定

 現在のEMC試験業界では、十分に校正された試験機器を使って試験が自動化されていることが非常に多い。オペレーターはEUTとサポート機器、試験機器をセットアップし、試験を自動で実施するよう作られたソフトウェアをPCで起動させて「スタート」ボタンを押し、あとは座って画面を見ていればよい。しばらくすると試験は終わり、試験結果を記したファイルが生成される。実施するのは全て非常に簡単で「シンプル」である。何年も前、校正された機器がなかった、あるいは一部の機器しか校正されていなかった頃は、どのように試験していたのか? もしアンテナだけが校正されていて、オペレータの手元には校正された信号源もあるが、レシーバやケーブル損失特性などがないとしたら? それでも測定を実施し、その測定値の正確性を信頼することができるだろうか?

1.測定値は信頼できる!
 自動化ソフトが普及し、完全に校正されたレシーバがすぐに入手できるようになる以前の「過去の時代」には、エミッションの大きさを測定するのに異なる測定技術が使われていた(少なくとも筆者の職場ではそうであった)。この記事のタイトルからもわかるように、それは妨害源の置換法と呼ばれていた。測定して画面上の信号の振幅を記録し、次にアンテナの代わりに信号源を接続して振幅の測定値を複製する。アンテナの校正ファクタや他の変換器(電流プローブ?)、校正済の信号源の校正ファクタが手元にある限り、信号振幅を正確に測定できる。時間はかかるが、うまくいくはずである。周波数決定は依然としてレシーバに依存するが、適合/不適合を決定するのにほぼ十分である。では、どのようにやっていたのか?

2.妨害源の置換測定
 妨害源の置換測定は説明するのは容易だが、実施には労力が必要である。測定者はまずアンテナあるいは他の変換器(電流プローブなど)をレシーバにつながるケーブルの端に接続する。アンテナを測定するのに適切な場所に置き、測定する周波数範囲をスキャンする。EUTからのエミッションを見つけたら、レシーバのメータ上、あるいは取り付けたオシロスコープ上に現れた妨害波の大きさを記録する。筆者の職場ではレシーバのIF利得を調整し、オシロスコープの画面で見て覚えやすい値にすることが頻繁にあった。IF利得制御は変動しやすいので、レシーバに表示される値は校正されているという考えは捨てた方がよい。レシーバが表示する周波数は記録する。レシーバのディスプレイ解像度にもよるが、例えば100.15 MHzや100.1 MHzのように小数点の右側に1つか2つの有効数字があるだけだろう。次にアンテナあるいは他の変換器を伝送線路の端から抜いて、代わりに校正済みの信号源を接続する。信号源からの信号の大きさをメータやオシロスコープに示された大きさに合わせて調整する。信号源が表示した大きさをアンテナあるいは変換器の校正ファクタによって修正する。レシーバやオシロスコープの指示値の校正は不要で、レシーバに対するケーブルの挿入損失も不要なことに注意してほしい。というのも、両方の測定(変換器および信号源)とも、ケーブル(伝送線路)の源の端で行われたからである。必要なのは、アンテナファクタ(あるいは変換器ファクタ)と信号源の出力レベルのみである。
 例えば、使われた信号源がインパルス発生器で、レシーバの読み値がエミッションからわかったものと一致し、アンテナファクタが20 dB/mで測定値が65 dBμ V/MHzの場合、エミッションの大きさは85 dBμ V/m/MHzだったはずである。2つの数値を足しただけなので非常に簡単で、ただ時間がかかるというだけである。このプロセスをEUTから出るエミッションごとに繰り返す。EUTから記録されたエミッション全ての測定に必要な回数を実施すればよい。
 筆者は、ある民間のEMC試験所でこのプロセスが自動化されているのを見たことがある。10メートル法の電波半無響室の床に置いたシールドボックスの中に信号発生器とRFスイッチを設置する。プロセスを自動化するためスイッチと信号発生器は遠隔制御される。本当に手間がかかる作業であった!
 全くそのとおりである。アンテナや信号源に信号ケーブルを抜き差しするだけでなくデータ解析も山のようにあった。ケーブルの抜き差しによってケーブルのRFコネクタの傷みが速く、コネクタ交換費用が多く必要になる。副次的な効用は試験所の人員がケーブルに新しいBNCコネクタやNコネクタを取り付ける作業に非常に習熟したこと! 完全に校正済みの試験システムを使う現在の自動化された試験なら、試験機器やケーブルの扱いもはるかに速く簡単である。だが、いつかどこかで校正済みの試験機器として手元にあるのはアンテナと信号源だけという状況で、1回や2 回は試験しなくてはならないこともあるだろう。その状態であっても、妨害波の測定を正確にできるとわかっているのは非常に喜ばしいことではないか?

【著者紹介】Ghery S.Pettit氏はNARTE認定エンジニアで、Pettit EMC Consulting LLCの社長。Washington州立大学卒業で、IEEEの終身シニア会員である。過去42年間、米国海軍、Martin Marietta Denver Aerospace、Tandem Computers、Intel Corporationに職を得て、EMC業界で長く活躍している。IEEE EMC Societyの元プレジデントで、現在は放送用受信機、IT機器、マルチメディア機器のエミッションとイミュニティ規格を担当するCISPR小委員会Iの議長も務めている。EMC試験所の設計、運営に携わったことがあり、さまざまなプロジェクトでEMC分析、設計、トラブルシューティング、試験サポートを実施した。またANSI C63.4、CISPR 22、CISPR 24、CISPR 32、CISPR 35など数多くのEMC規格の作成に貢献している。
連絡先:Ghery@PettitEMCConsulting.com

2018年2月26日 by Ghery Pettit