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医用機器の放射イミュニティについてのトラブルシューティング:事例研究 ~60601-1-2 第4版~

【はじめに】
 IEC 60601-1-2(第4版)が2017年7月17日に発効し、医用機器メーカーはより厳しい要求への対応が必要になった。今回の変更は多いが、中には特定の無線通信帯域(表1)での放射イミュニティの増加などがある。全変更のハイライトはInterference Technology発行の「2017 Medical EMC Guide」に掲載されている(著者はDarryl Ray氏など)。
▼「2017 Medical EMC Guide」ダウンロード(要登録)
http://learn.interferencetechnology.com/2017-medical-emc-guide/

 またIECはガイダンス文書TR 60601-4-2:2016も発行して製品の一般的なイミュニティ評価を支援している。この文書の概要およびダウンロードURLについても前述の「2017 Medical EMC Guide」に掲載されている。
 放射イミュニティのトラブルシューティングは、適切なRFイミュニティレベルを社内で模擬する手段がない限り、非常に難しいといえよう。EMC試験所へ頻繁に行き来すれば大変な費用と時間の浪費となってしまう。筆者は、特に一般消費者あるいは商用の製品に要求される低レベルのイミュニティ用の数々のシンプルな技術について指南する記事を書いたが、28 V/mという高いレベルを達成するのは、そういったシンプルな方法では無理である(参考文献を参照のこと)。

【事例研究】
 最近、大型の医用機器で厳しいRFイミュニティ問題を解決したいというクライアントがいた。数個のモータ、いくつかの基板、複数のワイヤハーネスが絡んでいて、その殆どは大きなプラスチック筐体のためシールドされていなかった。ケーブルをシールドし、いくつかのポイントをシャーシにグランドしようと試みて、ある程度の助けにはなった。放射エミッションが問題なく適合したのは良いニュースだったが、感受性が高い周波数は若干残っていた。認定試験期間中の問題は、2個のモータが通常よりはるかに高い回転数に上昇し始めたことだった。各モータのスピードはデジタル・エンコーダ・フィードバック・システム経由で制御されていて、RFが直接あるいはどこか大元の方で、この回路に影響しているのではないかという懸念があった。
 そこで、以前、考案してクライアントに用いたことがある定格10-1000 MHz、3 Wの広帯域アンプを使うというシンプルなイミュニティ試験システムを改善したテクニックを使うことにした。Vectawave 社は、この作業に最適な小型で3W の広帯域アンプのVBM 2500-3モデル(10 MHz ~2.5 GHz)を製造している。以前、通常(至近距離で)使うPCB製のログペリオディックアンテナで、これを40 V/mまで使ったことがあった。基本的なセットアップを図1に示す。
使用機器リストは以下のとおりである。

1. Windfreak SynthNV社のRFシンセサイザ
2. Vectawave 社のRFアンプVBM 2500-3
3. Kent Electronics社のPCB製400 ~1000 MHzアンテナ
4. 同軸ケーブルで作った自作の磁界プローブ

 結果として起きる電界レベルを測定するのにExtech社製480836電界メータも持っているが、この種のトラブルシューティングで使うのは本当にレアケースである。ここでやろうとしているのは、供試機器(product under test)内に制御された妨害を起こすことであり、絶対レベルはあまり重要ではない。Windfreak社のRFシンセサイザSynthNVは34 ~ 4,400 MHzの間で調整でき、出力レベル+19 dBmまで可能である。USB電源で、付属のウィンドウズ・ソフトウェアにより制御できる(図2参照)。だが今回のケースでは、問題を再現できるのに十分なレベルには至らなかった。そこで、シンセサイザを3 Wのアンプに接続し、アンテナのレベルを16 ~20 V/mに引き上げたが、依然として妨害を起こすには不十分だった。アンテナをさまざまなケーブルや回路の十分に近く設置するのが難しいことがわかった。
 次に同軸ケーブルからできている自作の磁界プローブを試すことにした。ループは直径5センチで中心の導体はシールド外側にはんだ付けしてあるだけ。回路とケーブル周辺を探査しても全く問題はなかったが、ループをモータ・エンコーダ回路の近くに持ってくるとモータが猛スピードで回転し始めた。成功である!(図3参照)
 いったん問題の再現に成功すると、対策はエンコーダ・ケーブルのまわりにフェライト・チョークを追加するだけで済んだ。図4を見ていただきたい。多くの例と同様、モータ組立部品はOEM製品なので、イミュニティ限界を改善するため簡単に再設計はできない。そこでフェライト・フィルタが最も費用のかからない対策となる。
 手短に言えば、フェライト・チョークの選択時には、最良の結果を得るため一般的にピーク・インピーダンスが影響を受けている周波数に近いことを確認したほうがよい。フェライト選択に関する詳細は、Würth Electroniks社のわかりやすいハンドブック「Trilogy of Magnetics」にも掲載されている。これは地元のフィールドエンジニアから入手できる。

【結論】
 第4版の基準に自社製品を再適合させなければならないので、メーカーにとって医用機器に対する新しい放射イミュニティレベルは大きな課題となるだろう。EMC 試験所でトラブルシューティングを「手探り」するのは時間とコストの浪費になってしまう。しかし試験所の1日分の費用でできるシンプルなトラブルシューティング対策によって、製品の感受性の高い部分を正確に狙って解決することができる。

参考リンク
● 2017 Medical EMC Guide
http://learn.interferencetechnology.com/2017-medical-emc-guide/
● TR 60601-4-2:2016, IEC
https://webstore.iec.ch/publication/24811
● Trilogy of Magnetics, Würth Electroniks
http://www.we-online.com
● Wyatt, Inexpensive Radiated Immunity Pre-Compliance Testing

Inexpensive Radiated Immunity Pre-Compliance Testing

2017年10月9日 by Kenneth Wyatt

表1.IEC 60601-1-2(第4版)に基づく特定の無線通信周波数に対する新しい放射イミュニティ試験レベル
図1.高電力の放射イミュニティ・トラブルシューティング用の基本的な試験セットアップ
図2.Windfreak社製RFシンセサイザSynthNVのコントロールパネル。問題となっている周波数の1つである385 MHzにチューニングされている
図3.影響を受けていたモータ・エンコーダ回路の近くに磁界プローブを置く
図4.一時的な解決策としては、クランプタイプのフェライト・チョークをモータ・エンコーダ・ケーブルに追加するだけでよい