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光でナトリウムイオンを輸送するタンパク質の謎を解明

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July, 29, 2015, 名古屋--名古屋工業大学 大学院未来材料創成工学専攻 ナノ・ライフ変換科学分野およびオプトバイオテクノロジーセンター、神取秀樹教授、井上圭一助教らのグループは、光のエネルギーを使ってナトリウムイオン(Na+)を細胞から汲み出す新しいタンパク質(ナトリウムポンプ型ロドプシン:NaR)について、謎とされていたNa+の輸送メカニズムの全体像を明らかにした。
今回の発見をもとにタンパク質のNa+輸送を制御できれば、脳神経研究などの応用が可能になり、様々な脳神経疾患へ治療法の開発に寄与すると期待される。また神取教授らはこれらの知見をもとにNa+以外のイオンを輸送することにも成功しており、将来的には光のエネルギーを使って神経細胞からリチウムイオン(Li+)を輸送する新しいうつ病の治療法の開発や、環境中のセシウムイオン(Cs+)などを除去する技術にもつながる可能性がある。

ナトリウムポンプ型ロドプシンのNa+輸送メカニズム
NaRのNa+輸送メカニズムを調べるため、研究チームは必要なNaR試料の作製に取り組んだ。大腸菌を用いて、海洋性の細菌の持つものと全く同じNaRを作り出すことに着手。そのためにまず海洋性細菌の持つDNAの一部を大腸菌の細胞内に組み込んだ。DNAが導入された大腸菌はその情報をもとにNaRを細胞内に作り出すことができるようになる。研究チームは大腸菌を用いて大量のNaRタンパク質を人工的に作り出すことに成功した。
研究では、2億分の1秒というNaRがNa+を輸送するよりも圧倒的に速い時間でレチナールの異性化を引き起こし、分子の光反応を開始させることができる「超短パルスレーザ」とタンパク質の色の変化を超高速で観察できる「高速カメラシステム」を用いて、Na+の輸送過程においてNaRにどのような変化が起こるのかを調べた。
研究チームは、NaRにレーザ光を照射し、Na+の輸送過程の観察し、まず光を吸収すると共にタンパク質内部のレチナールの構造が変化することが分かった。その後40万分の1秒の間に、Na+の通過を邪魔していたレチナール上のH+がNaR上のアスパラギン酸へと移動し、さらにアスパラギン酸の向きが変化することで完全にNa+の通過する経路からH+が取り除かれることが明らかになりました。
それに引き続き、1000 分の1秒の時間で、Na+が細胞の内側から、タンパク質内部に侵入する様子が観察された。この時Na+が容易にタンパク質内部に入り込むことができるよう、もう1つの特徴的なアミノ酸であるアスパラギンがNa+を強くひきつける。Na+がアスパラギンに結合すると、H+が結合したアスパラギン酸が再び元の位置に戻り、Na+の通ってきた経路をふさぐことが明らかになった。これによりNa+は元来た経路を戻って細胞の内側に戻ることができなくなり、最終的に細胞の外側に出て行くことになる。このようにしてNaRは光のエネルギーを使って、レチナールの構造を変え、さらに自身の持つ2つのアミノ酸を巧みに使うことでNa+の輸送を行っているという全体像が初めて明らかになった。