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レーザ/顕微鏡コンボで生細胞を光学的に捉え、動かし分析

October, 30, 2018, Washington--ラマン分光法として知られる高感度分析技術で、研究者は新しい機器によりマルチレーザビームと顕微鏡を使い、細胞をトラップし、動かし、リアルタイムで分析できる。その計測器により研究者は、感染がどのように定着するか、抗生物質耐性菌バイオフィルムの情報についてもっと多く知ることができる。
 「生物学の多くの技術は、同時に多数の細胞を計測するが、単一細胞レベルを見るにはラベルの付加、侵襲的技術が必要になる。われわれの技術は非侵襲的である、つまり生物学的サンプルを破壊することはない。またラベリングも必要ない。これは、個別細胞研究では望ましい」とUK、ノッティンガム大学研究リーダー、Ioan Notingherは説明している。
 Optics Expressに発表された論文で、研究チームは、光学的トラップを使った新しい計測器を実証している。これは光を使って小さな対象を保持し、動かす。この機器によって、多くの人免疫細胞間の結合を形成し、ラマン分光学で、時間経過とともに細胞相互作用の変化を計測する。この実験は、このような免疫細胞が体内でどのように情報のやりとりをするかの研究が出発点である。
 「われわれが作製した機器は、非常にロバストで高感度であり、多くの種類の細胞実験に広く適用できる」とNotingherはコメントしている。生物学的研究だけでなく、その計測器は、ポリマ、ナノマテリアル、様々な化学プロセスの研究にも使える。また、他の顕微技術と組み合わせると、さらに多くの情報取得も可能である。

トラッピングと分光学の結合
ラマン分光は、レーザ光と、DNAやタンパク質のようなサンプルとの相互作用を利用してサンプルの化学成分についての情報を取得する。伝統的に、ラマン分光学は、集束レーザビームを使ってサンプルの1点からの計測を行う。放出光が小さなピンホール、開口部を透過するセットアップを使うと、不要な迷光を除去し、これらの計測品質を高めることができる。
 多くのサンプルポイントで光学トラッピングとラマン分光を同時に使うためには、多くの集束レーザビームが必要になる。これは、液晶空間光変調器(LCSLM)という光コンポーネントでこれまでに実現されていたが、そのアプローチは、個々のサンプリングポイントが一致するピンホールの利用が必要になる。
 研究チームは、LCSLMとデジタルマイクロミラーデバイス(DMD)を組み合わせて、より柔軟な装置を作製し、反射仮想ピンホールを実現した。これは、各サンプリングポイントにカスタマイズされており、コンピュータで迅速制御が可能である。DMDsは、多くの最近のデジタルプロジェクタで利用されており、数十万のチルト・マイクロミラーでできている。
 「マルチポイント光学トラッピングとラマン分光は、グラスゴー大学、Miles Padgettのグループが開発したソフトウエアを使うことで、相互作用的にリアルタイムに制御できる。このソフトウエアにより、実験は完全に自動化され、複雑な、組織的に繰り返される大規模実験で有用になる」と論文の筆頭著者、Faris Sinjabは説明している。

高速アクイジション
ラマン計測器の性能がシングルビームラマン顕微鏡に匹敵することを実証した後、研究チームはそれを使って、光学トラップによりマルチポリスチレン粒子を動かし、同時に40スペクトル/秒でラマンスペクトルを取得した。「この種の実験は、以前には不可能だった。そのように素早く位置が変わるとスペクトルが撮れないからである」とSinjabは説明している。
 次に、研究チームは、個々のレーザビームでパワーをコントロールし、トラップした細胞のレーザによる損傷回避を示した。最後に、細胞生物学アプリケーション向けに同装置の能力を実証するために、マルチライブT細胞を樹枝状細胞接触させて、これらの免疫細胞に適合する、免疫学的シナプスジャンクションの形成を始めた。時間経過とともにマルチポイントでのラマンスペクトル計測は、形成されたジャンクション間の分子差を明らかにした。
 研究チームは現在、専門家ではないユーザが実験を行えるように、ラマン分光部分のさらなる自動化に取り組んでいる。また、特注顕微鏡と、よりコンパクトな高出力レーザを搭載する分光計を組み込むことで、装置の小型化も探求している。