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中赤外をカバーする超短パルスハイパワーレーザを開発

May, 8, 2018, Garching--ルートヴィヒマクシミリアン大学(Ludwig-Maximilians-Universität)とマックスプランク量子オプティクス(Max Planck Institute of Quantum Optics)物理学研究所が共同運営するアト秒物理学研究所(LAP)の研究チームは、中赤外スペクトルの大部分をカバーする超短パルス光を生成するハイパワーレーザシステムを開発した。研究チームは、この技術のアプリケーションは、たとえばガンの早期診断など、幅広いと見ている。
 分子は生命の構成要素である。全ての他の生命体と同様に、われわれは分子でできている。分子はわれわれのバイオリズムを制御し、われわれの健康状態も反映できる。LAPは、高輝度赤外光を使って分子疾患マーカーを詳細に調べようとしている。たとえば、ガンの早期診断を容易にするためである。チームは、1.6~10.2µm間の波長で発光する強力なフェムト秒光源を開発した。この装置により、血液や呼気に極めて低濃度で存在する有機分子の検出が可能になる。
 人が見て直ぐに感知できる病気の影響は、通常、進んだ段階である。レーザ光の助けを借りて研究チームは、治療的介入ができる段階で、早期に病気を発見、診断できるようになりたいと考えている。しかし、これには分子の世界を覗くことができる鋭い視力が必要である。無数の分子が極めて特殊な方法で、中赤外域の一定の波長の光に反応する。特定の波長を吸収することにより、サンプルの各種分子が透過ビームに特定シグネイチャをインプリントする、これが分子のフィンガープリントとなる。広帯域中赤外光源により、たとえば血液や呼気サンプルで、多くの分子構造を即座に検出できる。サンプルが、特定の病状に関連するマーカー分子を含んでいると、これらも透過赤外光のスペクトルに存在することが明らかになる。
 LAPの研究チームは、1.6~10.2µmの波長をカバーする光源を作製した。レーザシステムは、出力がワットレベルであり、合焦可能であるので、非常に高輝度の赤外光源になる。この特徴は、極めて低濃度で存在する分子を検出する能力を強化する。加えて、このレーザはフェムト秒パルストレインを生成することができるので、時間分解、ローノイズ、高精度計測が可能になる。
 現在、赤外分光学は、中赤外域全体をカバーするインコヒレント光を利用している場合が多い。しかし、インコヒレント光が生成するビームは相対的に低輝度であり、非常に弱い分子フィンガープリントの検出能力は著しく低下する。粒子加速器で作られるシンクロトロン照射は、もう1つの方法として使えるが、そのような施設は少なく、極めて高価である。しかし、レーザベースの方法は、シンクロトロンよりも一層高輝度である。LAPの物理学者は、赤外の広帯域で高輝度レーザ光を生成するコヒレント光源の作製に成功した。さらに、新しいシステムはシンクロトロンと比べて著しく小型であり(また、非常に低コスト)、大テーブルに設置できるフットプリントである。
 「もちろん、現在よりも早期にガンの診断ができるまでの道のりは長い。われわれは病気のマーカーの理解を向上させる必要があり、たとえば、それらを定量化する効率的な方法を設計しなければならない。とは言え、現在、利用できる光源を大幅に改善したので、われわれはこれらの問題への取り組みを開始できる」とプロジェクトに関与する研究者の一人、Marcus Seidelはコメントしている。さらに、新しいレーザシステムは、バイオサイエンス以外の分野にもアプリケーションがある。結局のところ、分子とその変化の精密観察が、化学と物理学の両方の核心にある。