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損傷心臓組織の治療開発に生体力学マッピング法を利用

February, 14, 2018, Washington--心臓組織の詳細な生体力学的特性を把握する新しい方法が開発された。心臓発作後の心臓損傷を治すために最終的に利用される治療法を開発し、テストするために必要な技術的ギャップを高解像度光技術がうめる。
 ヒューストン大学(University of Houston)のKirill V. Larinは、「今日、約100万の人々が毎年心臓発作を起こし、現状では結果として起こる心臓組織損傷の治癒はない」という。「われわれは、心臓組織の再生法の開発に取り組んでいる。またわれわれの研究は、心臓が治療によって治っているかどうかを判断する機械的特性の計測に役立つ」。
 Biomedical Optics Expressに発表された研究成果によると、研究チームは、健全な組織の特性と、心臓発作によって損傷を受けた組織とを比較するために光コヒレンス・エラストグラフィ(OCE)として知られる高解像度技術を使えることをマウスを使った実験結果を示している。研究チームは、その技術を使って心臓組織の損傷を治すことを狙った治療の効果を評価する計画である。

心臓組織再生
 心臓発作が起こるのは、冠動脈が酸素を多く含んだ血液を心臓に流すのを血栓が妨げる時である。この閉塞によって、心臓筋肉から酸素が奪われ、短時間で永続的な損傷が瘢痕組織の形で起こる。この損傷は、鼓動する心臓からエネルギーを奪い、収縮して血液を押し出す健全な鼓動に影響を与える。
「新生の哺乳類の心臓の組織は完全に再生することが実験から分かっているが、年齢とともにこの再生力は衰える」とLarinは指摘している。同氏によると、ベイラー医科大学(Baylor College of Medicine)のJames F. Martinのグループは、大人の心臓組織を刺激して自己修復させるように分子経路を操作する方法に取り組んでいる。
 研究チームは、Larinのラボで開発された技術、OCEを使い、マウスモデルで実験的治療がどの程度効果を発揮しているかを観察するために、OCEの有効性を調べた。OCEは、生体医用イメージング技術OCTをベースにしている。OCTにより、組織の微細構造の高解像度画像が得られる。しかし、構造的情報を得るよりも、OCEはOCTの原理を利用して組織構造の高解像度マップを作る。
 OCEは、マウスの心臓の組織構造観察に適している。健全な組織と損傷組織との境界が治療にしたがって動いているかどうかを検出するために必要な解像度がOCEにはあるからだ。MRIや超音波など、他のイメージング法を使って組織構造を調べることはできるが、それらは小さく、繊細なマウスの心臓よりも大きな組織領域により適している。
 OCEを実行するには、機械的波動が組織に導入される必要がある。小さな機械的力を受けた組織は、透過する特殊な波のパタンを示す。研究チームは、波のスピード、空間的特性のいずれかを解析することで組織の機械的特性を再構成する解析モデルを開発した。
 「加えたこの力の圧力、タイミング、位置は極めて的確でなければならなかった。波には非常に小さな振幅があり、これは組織保全にとって重要だった」とLarinは説明している。

心臓発作後の組織検査
研究チームは、マウスの組織サンプルでこのイメージングアプローチをテストした。心臓発作を起こした後、マウスには損傷が発現した。これは、人の心臓発作によって起こるもの同じになる。6週間で、研究チームは、その心臓を摘出し、OCEを使って心臓組織の機械的特性を計測した。損傷組織は、健全な組織に比べ、異方性、すなわち波動伝搬の方向性が低下していることを確認した。この観察から、健全組織と比べると損傷領域の筋肉繊維が無秩序になっていることが指摘できる。研究チームは、OCEを使って健全組織と損傷組織の組織の硬さの違いを調べた。
 「正常な心臓組織と心筋梗塞の領域の機械的特性の違いを見ることができた。今後、この技術を使って再生された心臓組織を検査し、心臓発作を経験した世界中の数100万の人々の利益になる治療法を見いだす手がかりにしたい」とLarinは話している。