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東京工大、体の深部を探る世界初の近赤外発光基質を開発

June, 17, 2016, 東京--東京工業大学の口丸高弘助教と近藤科江教授らは、電気通信大学の牧昌次郎助教と丹羽治樹教授らと共同で発光酵素ホタルルシフェラーゼ(F-Luc)の基質の開発を行い、体内深部からの発光シグナルを感度良く観察することができる近赤外光を産生する実用的な基質Aka-HClの開発に世界で初めて成功した。
 F-Lucを用いた発光イメージングは、世界標準の光イメージング技術で、小動物を用いた創薬研究には不可欠な技術となっている。しかし、自然界に存在するF-Lucの発光基質[用語3]D-ルシフェリン(D-luci)は、組織透過性が乏しい可視光領域の光を産生するため、これまで体内深部の観察には限界があった。また、これまでに開発された近赤外発光を産生する基質は、産生する光が極端に弱かったり、水溶性が乏しく生体に応用できなかったり、F-Lucの変異体にしか反応しなかったりして、実用的ではなかった。今回開発した基質Aka-HClは、水溶性にも優れ、マウスを用いた実験でD-luciよりも最大40倍高い検出感度を示し、近赤外光を産生できる世界初の実用的な基質である。この基質を利用することで、これまでの方法では検出されなかった小さな病変の観察が可能になるため、新規治療法や新薬の開発への貢献が期待できる。
 開発に成功した基質Aka-HClは、水溶性に優れ、毒性も無く、効率よく近赤外光を産生する。D-luciや、同じく可視光に発光ピークをもつ改良型D-luciのCycLuc1と比較すると、F-Lucと反応して産生する発光の組織透過性の高い事が牛肉スライス(厚さ4 mm, 8 mm)を用いた実験で示された。
 さらに、生体内深部の発光シグナルの検出感度を検証するために、検出が特に難しい肺がんモデルマウスを用いてイメージングを行ったところ、他の基質に比べて極めて高い感度で肺がんを検出することができた。
 このように、今回開発した基質は、野生型のF-Lucと反応して近赤外領域の光を産生することができ、現在汎用されている基質と比較しても、組織透過性に優れ、体内深部からのシグナルを感度良く検出することを可能にした。
 D-luciを改変して近赤外光を産生する基質は、これまでも開発されていたが、生体への応用には課題が多く、実用的な基質として使えるものは無かった。その理由は、基質を合成する研究者と生体内での有効性を評価する研究者が共同で開発してこなかったことが大きな要因。今回研究チームは、、F-Lucと反応して、近赤外領域に発光のピークを示すD-luciの誘導体を電通大で合成し、それらの生体イメージングでの有用性を、F-Lucを発現するがん細胞を移植した腫瘍モデルマウスを用いて、東工大で評価することで、効率よく目的の基質開発に繋げることができた
 今回開発した近赤外光を産生する基質は、既存のF-Lucの遺伝子改変マウスや遺伝子導入細胞を用いた実験系に広く応用可能である。これまでよりも高い感度で体内深部の観察を可能にするため、広範な研究分野で、研究の推進に貢献できると期待される。今回開発した基質Aka-HClは、TokeOni (808350-5MG)という名称でSigma-Aldrich (米国ミズーリ州セントルイス市)より販売されている。
 研究成果は、Nature Communicationsに6月14日に掲載された。